第34話 ブラインシュタット

 俺達はエルフの里で、世界樹の小枝ユグトゥイグを託され、世界樹の島ユグイゾーラを目指して、旅立つことになった。


「みんな。長旅になりそうだけど大丈夫か?」

「「「うん」」」


「カインと一緒に旅。楽しい」

「だよね。私もお兄ちゃんとの旅は、ずっと憧れてたし」

「私はこの先、何があってもごカイン様と一緒です」


「ナディア、もっといい出会いがあるかも知れないし、そう言う事は旅が一段落ついてからゆっくりと考えればいいからな」

「それがごカイン様の命令であれば」


「あのな。ナディア。俺はご主人様じゃ無くてみんなの仲間だ。お願いはしても命令はしない」

「はい」


「ねぇナディア。その小枝は、どうやって使うの?」

「フィル。このハイエルフ様の髪の毛の部分を持って枝を垂らせば、小枝の先が世界樹を向くの」


「そうなんだ。不思議だね。でも世界樹の島って動いてるんだよね?」

「はい。この世界を自由に旅してるんです」


「それはハイエルフが操縦してるの?」


「違います。島の意志です」

「そうなんだ。なんだかよく解らないけど凄いね」


「ナディア世界樹の小枝ユグトゥイグを使ってくれ」

「はい」


 ナディアが小枝に巻いてあるハイエルフ髪の毛を持って、下に垂らすと、二週ほど横に回転してピタッと北西の方角を刺して止まった。


「どうやら、目的地は北西だな。距離とかは解んないのかな?」

「それは、解りません」


「そっか。まぁ急ぐ旅でも無いし、楽しく行こうぜ」

「「「うん」」」


 俺達は北西を目指して歩き始めるが、この場所は、既に王国の北の端に存在していたので、すぐに国境を超える事になる。


「カインお兄ちゃん。みんな冒険者証は持ってるよね?」

「ん? なんでだ」


「国境を超える為にはBランク以上の冒険者か、またはBランク以上のパーティかクランじゃないと、国境警備隊が旅の目的を確認して認められないと、移動が許可されないよ」

「あーそうだったな。フィルが居るからパーティをギルドで登録すれば、Bランクで認めて貰えるだろ?」


「お兄ちゃんのカードを偽装カード解除するだけでも十分だと思うけど?」

「あーそれは、辞めときたいな。それよりナディアは冒険者証持ってるのか?」


「いえ、持って無いです」

「そっか。じゃぁ取り敢えずこのまま西に進んで、最初の街のギルドで、ナディアの冒険者証と、パーティの登録しよう」


 こうして目的地は、王国北西に位置する街『ブラインシュタット』に決まった。


 二日の旅でブラインシュタットへと到着する。

 この一行にしては珍しく平穏無事に辿り着いた。


 だが相変わらず、カインの冒険者証をチェックした、この街の衛兵はカインの顔を二度見していた……


(まじで隠蔽カードの必要ないから、普通にBランク位にしてくれないかな……)


 これは、でもカインも悪い。

 通常の方法でギルドに納品を行っていないので、ギルドに対して貢献実績が表面上殆どないために、通常のCランクやBランクの基準に必要な実績が無いのだ。


 納品は常に王都のギルマスに物々交換で行っていた為に、カインの実績を正しく把握しているのが、王都のギルドマスターのみなので、こういう処置をされている。


 閑話休題それはさておき


「さぁ、取り敢えず宿を決めたら、冒険者ギルドに行こう」

「「「はーい」」」


 この街は、国境に隣接した街でもあり、北側に聖教国、西側に通商連合国と面している。王国の北西の玄関ともいえる街なので、宿は質、量ともに揃っている。


 そして、この街の売り物は、天然の温泉が豊富に湧き出る事だった。

 どの宿も温泉設備が整っている。


 王国は海に面した場所が南側の一部分だけなので、この街の食材は山の幸と畜産で育てられた牛の肉、新鮮な牛乳やチーズを使った料理が売りのようだ。


「お客さん。宿決まって無いんですか? うちの宿は絶対おすすめです! お風呂も広くて綺麗ですよ」


 まだ10歳にもなっていないだろう女の子が、一生懸命誘ってくる。


 この世界では遠話の出来る魔導具は非常に効果で、事前予約などと言うシステム自体が普及してない為、こういう客引きが当たり前なのだ。


「お嬢ちゃんのとこの宿は、一泊いくらなの?」

「はい! 一泊二食付いて4人部屋だと一人銀貨1枚です」


「よし、じゃぁお願いしようかな」

「ありがとうございます!」


 満面の笑顔で案内してくれたけど…… お願いしようかなって言った瞬間に小さく呟くように「ゲット」と言ったのを聞き逃さなかった……

 


 宿に着くと、チェックインだけをして、冒険者ギルドの場所を聞いて早速ギルドに向かった。


 すると、今度は他の客引き達が声を掛けて来る。


「お客さん。今日の宿はもう決めたのかい?」

「ああ。風見鶏亭に決めたよ」


「あらら、失敗しちゃったねぇ。昔は良い宿だったんだけど、今は腕のいい料理人だった先代が亡くなってから、料理の方が今一つなんですよ。あ、他の宿の悪口になっちゃうから、聞かなかった事にしといてくれ。この街に泊まるのが今日だけで無いのなら、次はうちの大倉亭をお勧めしますよ。アケボノから料理人を連れて来て本格的なアケボノ料理が売りなんです」

「へー、それは是非味わってみたいな。用事が片付かなかったらお願いするかもな」


「お待ちしておりやすね」


 フィルが声を掛けて来た。


「どこの街でも当たり外れはあるんだし、それも含めて旅の醍醐味だよね」

「ああ。そうだな。でも大倉亭の客引きも言ってたけど、元は良い宿だったようだし、きっと風呂とかは十分期待できるんじゃないかな?」


「楽しみだね」


 四人で冒険者ギルドに到着すると、受付に行ってナディアの冒険者登録と、パーティの登録を頼んだ。


「聖教国に渡って活動をしたいんですが、Bランクパーティの認定は出来ますか?」

「Aランク冒険者のフィルさんが入らっしゃいますので、一番難しい条件はクリアできているんですが…… 他の方が登録したてのFランク二名とDランク一名ではBランクパーティの登録は難しいですね」


「何とかする方法はありますか?」

「ランクアップ試験を受けて頂ければ実力次第では個人でDランク迄認定できますので、Aランク一名とDランク三名でしたら、問題無くパーティランクはBで登録できます。もしくはパーティ戦でBランクパーティーを相手に模擬戦をしていただいて、戦闘不能者無しで勝利できれば認定できます」


 うーん。

 個人だとナディアは恐らく大丈夫だけど、チュールがどうだろ?

 

「解りました。取り敢えず試験を受けようと思います。個人とパーティ両方お願いしていいですか?」

「解りました。個人ランクの認定は今からでも行えますが、パーティの対戦はすぐには対戦相手が用意できませんので、明日になりますが構いませんか?」


「はい。大丈夫です」


 こうして、俺達はギルドのランクアップ試験を受ける事になった。

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