第33話 世界樹を目指せ!

 翌朝は、エルフの里のみんなに、今日のお昼から全員で食事会を開くと告知して貰って、俺は朝からその準備で忙しく動き回ってる。


 因みに朝食は、エルフの里の人々が普段どんな食事をしているのか見たかったので、ナディアのお母さんが作ってくれた、朝食をみんなで頂いた。


 白いパンに凄く伸びの良いチーズをのせて焼いたパンは、とても美味しかった。

 モッツァレラチーズの様な香りは少ないチーズだ。


 他にはたっぷりの生野菜と、目玉焼き。

 飲み物には蜂蜜で甘みを加えたホットミルクだった。


 健康に良さそうだな!


 里の人数は120名程だそうで、ナディアとナディアのお母さん。

 フィルとチュールも会場の準備を手伝ってくれている。

 

 他にも、昨日の宴会の参加メンバーが手伝おうと言って来てくれて、朝からとても賑やかだ。


 120名分になると、一番楽しく盛り上がるのは、やっぱりBBQだな。

 以前Sランクダンジョンの『絶望の谷』で捉えていた、小型のランドドラゴンを、一匹丸ごと取り出して捌く。


 小型と言っても6m近い体長のドラゴンだ。

 重さは1トンを超える。


 捌きやすいように高さ7mのやぐらを組み、そこから吊るして、捌いて行く。

 吊るす時には、15人がかりで引っ張り上げた。


「おおぉお、すげぇな地竜が一体丸ごととは、なんて豪勢なんだ。あの地竜を捌く手際も見事だな」


 そんな感じで、準備だけでも人だかりが出来ていた。

 女性陣には、俺が大量の酒を魔法の鞄から取り出して、カウンターバーっぽく板を組んだドリンクコーナーにセッティングして貰う。


 帝国の方では、味の淡い透明な蒸留酒が良く飲まれていた様で、帝国貴族の本陣から持ってきた中にはこのタイプのお酒も多かった。

 このお酒は、果物の果汁と割るとよく合いそうだ。

 アルコール度数も、割るジュースの分量次第で調整できるので、お酒が弱い人でも、楽しめる。


 このエルフの里には、果物は豊富にある様で、ジュースを絞る為の機械もあった。

 魔導具では無く、てこの原理を使ったジューサーだ。


 捌いたランドドラゴンの肉は部位ごとに分けて、巨大なテーブルの上に並べる。

 背中のロース肉部分は、豪快に丸焼きだ。


 一塊が50㎏以上あるのでじっくりと遠火の強火で回転させながら焼き上げる。

 こういう豪快な調理の時は、味付けもシンプルに塩とコショーだけで十分だ。


 垂れた脂が炎を上げ、煙で燻すような感じで焼いて行く。

 これだけにつきっきりと言う訳に行かないから、肉を回転させる役目を、エルフの男性陣に任せる。


「手が疲れるから交代しながらやってくれよ?」

「了解でーす」


 額から汗を垂らしながらも、楽しそうにやっている。


 次は、残りの肉をバーベキュー用に切りそろえて行く。

 それと同時にカレーの準備を始める。


 すね肉と解体する時に出たスジ肉を、ランドドラゴンの脂身で豪快に炒め、たっぷりの香味野菜と共に煮出す。


 3時間程でスジ肉がトロトロになるタイミングでOKだ。

 俺が常に常備している、合わせたカレー用の香辛料を、弱火でしっかりと合わせ、ランドドラゴンの脂身を入れて馴染ませる。


 纏まって来たら、小麦粉を香辛料の半分ほどの量をふるいで濾しながら加える。

 これも一塊になじんで来たら、ルーの完成だ。


 すね肉とスジ肉と香味野菜から取ったフォンドボーの中に、ルーを合わせる。

 このまま丁度良いトロミになるまで弱火で焦げ付かない様にかき混ぜる。


 野菜も大量に用意した。

 バーベキューのたれも、塩だれベース、しょうゆベース、フルーツソースベースと用意した。


 大量のご飯も炊いた。


 さあ! 準備はオーケー。


 みんなが集まった所で、長老から一言挨拶してもらって、俺が乾杯の音頭を取って、バーベキューパーティは始まった。


 どの料理も大喜びで楽しんでもらえて、俺も大満足だ。


「どうだ? 美味いだろ!!」


 俺のその言葉で大いに盛り上がった。

 お酒もご飯も凄い勢いで無くなっていき。

 パーティは夕暮れ時まで続いた。


 でもエルフって、みんな年齢不詳だから困るぜ。

 ナディアの母親だって、姉妹と言われても全然違和感ないし。

 あれで100歳超えてるとか…… 反則だよな。


 パーティの後片付けの時間になると、長老に俺とナディアの二人が呼ばれた。


「カイン今日は里の者たちも大喜びであった。本当にありがとう」

「俺がやりたかっただけですから、気にしないでください」


「それでじゃな。ナディアに預かった本なのだが……」

「どうでしたか?」


「わしでは、読む事は叶わなかった。ただ、これがどういう類の本なのかは解った」

「えーと。どういう本なのですか?」


「一言で言えばカタログだな。商品の簡単な説明などがされている本だ」

「そうなんですか」


「見出しの記号番号の部分だけは、わしでも理解出来る文字でな、必ずその記号番号が書かれた後に文字が並んでおるから、こういう文章の場合はほぼ、カタログじゃ。それとだ…… この本は、複雑な合わせ紙になっておって、合わせた面に魔法陣が閉じ込められてる様だ。正しく文章を理解して、魔力を流せば何らかの現象が起こる」

「凄そうですね…… でも読むのは無理なんですね?」


「ハイエルフ様の所へ持って行けば大丈夫だ。ナディアにこれを託すので行って来るがよい」

「これは世界樹の小枝ユグトゥイグ……」


「そうじゃ。この小枝に巻いてあるのはハイエルフ様の髪の毛。そしてこの枝の先端が指し示すのは、常に世界樹ユグドラシルじゃ。導きに沿って進めば必ず辿り着く」

「長老様。ありがとうございます」


「行ってまいります」

「ナディア。次に戻って来る時には、孫の顔を見せて欲しい物じゃな」


「はい。お父様」

「え? 長老が、ナディアのお父さんなの?」


「420歳で初めて作った大事な娘じゃ。くれぐれも頼むぞ」

「は、はい……」


 なんか、ちょっとヤバい気もするけど、ユグトゥイグを手に入れた俺達は世界樹島ユグイゾーラを目指して旅立つことになった。

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