第26話 奴隷オークション
イシュルブルグに滞在している間に、ちょっとショッキングな事があった。
原因は、アリゲーターリザードの漁だ。
奴隷オークションの開催日までに日数があったので、暇つぶしに冒険者ギルドを覗くと、『アリゲーターリザード漁の護衛』と言う依頼があったので、興味本位に受けた見たんだが、その漁は死亡した亜人奴隷を使う物だった。
亜人奴隷が死んだ場合まともに葬儀は行ってもらえずに、沼に投げ込んでたらしいが、それをアリゲーターリザードが綺麗に平らげてしまうのを見て、思いついた漁だったのだ。
死んだ奴隷の体内に火炎玉と言う爆発する魔導具を仕掛け、アリゲーターリザードが飲み込むと体内で爆発させる。
とても許せないような漁だった。
小動物程度では見向きもしないし、大きな動物の死体を使うと、お金が掛かるからと、沼に捨てるだけだった亜人奴隷の死体を活用していたのだ。
これはちょっと俺の許容範囲を超えた。
だが、この国にそれを取り締まる法律も無い。
今日の奴隷オークションが終われば、世界中を旅して、もっと他の種族が暮らし易い国を探そう。
チュールとフィルもきっと賛成してくれるだろう。
それはそうと、奴隷オークションだがオークション会場に入場するのに銀貨一枚の入場料を取られた。
結構高い。
入場料を払うと本日の出品リストと全身を覆う真っ黒なフード付きのマントが手渡された。
落札者が他の人間に特定されないようにする為だそうだ。
今日のオークションで扱われる奴隷は12名。
全員が女性だった。
構成は人族4名
獣人族5名
窟人族2名
森人族1名だ。
人族の奴隷は禁止されていないのかって?
通常の人身売買の形では禁止されている。
ただし、例外がある。
犯罪奴隷の場合だ。
この犯罪奴隷という制度には、また闇がある。
この国の場合では殺人で捕まるとほぼ死罪が適用されるのだが、それ以外の犯罪では投獄か犯罪奴隷として売られるのかを犯罪者本人が選択できるのだ。
この制度は金持ちの家の場合だとほぼ家族が買い取ってしまうので、罪滅ぼしにならないのでは無いか? と思われる事が多いんだけど、販売額が犯罪被害者への保障に当てられるので、意外に好意的に受け取られている。
有期刑の場合、刑期に該当する年数の間は隷属の首輪を外す事も許されないし、販売額も被害総額と賠償金の合計が最低落札価格に設定される。
ただし、必ず家族が落札するとも限らず、被害額も大きくない場合は普通に奴隷として買われる者も多い。
性的な行為の強要や一日12時間以上の労働などは禁止されているが、奴隷として扱われるのが辛いのは間違いない。
休日を与える必要が無いので、ある程度の能力がある者は便利な従業員として買われる場合も多い。
オークションに出品されるクラスだと、十分に有用なスキルを持っている事がリストでも解る。
亜人族の場合は、基本的に命令に逆らえない。
ただし安くは無い金額を払うので、使い捨ての様に扱われる事は少ない。
今回出品される獣人族は最低落札価格が金貨20枚からに設定されていた。
最低でも落札はその倍以上にはなる筈だ。
窟人族は手先が器用なので、意外に需要がある。
こちらは金貨25枚からの価格設定だ。
そして今日の目玉の森人族は、年齢18歳と記されている。
オークション開始価格が、金貨1200枚からになっていた。
エルフは長寿で容姿が500年程度は変わらない上に、精霊魔法が使える為にとても需要が高いのだ。隷属の首輪さえあれば逆らう事も無いので、その値段であっても決して高くは無い。
親から子へ代々引き継がれる程の財産でもある。
中には親のお古を受け継ぐのが嫌で、中古市場へ出る場合もあるが、その場合でも金貨1000枚を下回る事は珍しい。
今日の予想価格は金貨4000枚ほどになっていた筈だ。
他の奴隷のオークションが終わり、概ね予想通りの落札額で進行した。
いよいよ、目当てのエルフのオークションが始まった。
噂通りの凄く美しい少女だった。
ライトグリーンの髪と、瞳はピンク色と水色。
スタイルも抜群で、魔力はAクラスだそうだ。
弓の腕も超一級品と言う事だが、何でそんな子が捕まるのか意味わからない……
少し間抜けなのか、自信過剰すぎて足元をすくわれたのか……
金貨1200枚で20名程のビッダーが番号札を掲げている。
オークショニアが一気に金貨1500枚にアップする。
誰も引かない。
金貨2000枚、まだ20人
金貨2500枚、やっと降りる人間が出て残り12人
金貨3000枚、残り8人
金貨3300枚、残り5人
金貨3500枚、残り3人
金貨3700枚、残り3人
金貨4000枚、残り2人
予想価格まで上昇してもまだ決定しなかった。
ここで残った二人が紙に金額を記入して、オークショニアに提出する事になった。
俺は、6000枚と書いた。
オークショニアが、俺と握手した。
落札できたようだ。
「おめでとうございます。服装はサービスしますが、希望のコスチュームはございますか?」
「普通のメイド服で頼む。スカート丈も短すぎないやつでな」
金貨6000枚はほぼ全財産だが、他に使う用事も無いし別に構わない。
俺は美しいエルフの少女を連れて宿に戻った。
エルフを連れている事を知られても困るので、耳を隠すフード付きのマントを羽織らせ、隷属の首輪も見えないように隠している。
オークションハウスから宿までは、馬車が用意されて送り届けてくれた。
手数料だけで金貨600枚ならそれくらいのサービスはあるか……
宿に着くとチュールとフィルが出迎えてくれた。
「カインお帰り。無事にエルフと出会えたようね」
「ああ。まずは顔合わせだ。挨拶をしてくれ」
部屋の中でマントを取らせると、美しいエルフの姿が現れた。
「わー綺麗……」
「本当ね、私もエルフの実物には初めて会ったわ」
なんだか、奴隷っぽい扱いを受けて無い事に、困惑している様だ。
「名前を教えて貰えるか?」
「ナディア」
「ナディアは今不安だろう? だが安心してくれ。 俺達は君を奴隷としては扱わない。この街を出るまではちょっと我慢して貰うが、奴隷からもすぐに解放してあげるからね」
俺の言葉に不思議そうな表情で、こちらを見つめて来た。
「何故? 凄い大金を払って落札したはずなのに」
「君と知り合いになりたかったから。じゃ駄目かな?」
「駄目じゃない…… だけど……」
「ナディアは運が良かったのさ」
「本当に私はエルフの森に帰ってもいいの?」
「ああ、それがナディアの希望なら構わない。だけど一つだけお願いがあるんだ。その前に、お腹空いてるだろ? 飯食いなよ」
俺は魔法の鞄から、作り置きして置いた食べ物を取り出す。
お握りとみそ汁と焼き魚にデザート。
このお握りは体力と魔力の回復効果もある、カイン特製お握りだ。
フィルとチュールも食べたがったので、一緒に出してやった。
焼き魚は、アユの一夜干しだ。
川の綺麗なコケをたべて過ごしたアユは、とても良い香りがする。
皮目をパリッと焼き上げてあり、頭まで柔らかく、残すところなく食べれる。
一夜干しにする事で、アミノ酸が分解して旨味成分が引き出され、俺的には獲れたてをすぐに焼くよりも、美味いと思っている。
みそ汁は、カブの味噌汁だ。
一口大の櫛切りにしたカブは、丁寧に面取りをして、煮崩れを防ぎお米のとぎ汁で下茹でをする。
これを行うと根野菜特有の、エグ味がなくなり、優しい味わいとなる。
十分に柔らくなったカブは一度ザルに打ち上げて、水で綺麗に表面のぬめりを取る。
別鍋で作った、合わせ味噌を使ったみそ汁にカブを入れ、沸騰しないようにカブが温まるまで、ゆっくりと煮る。
みそ汁のお出しは昆布と鰹節だ。
俺が使用している調味料は、この王国から東に進んだ所にある、アケボノと言う国から輸出されていて、今ではこの世界中どこでも手に入れる事が出来る。
この世界では、食は『アケボノ』からと言う格言がある程に、食文化が発達した国だそうだ。
おやっさんは昔修業に行ったことがあるらしい。
古代エルフ文字の問題が片付いたら、アケボノでも目指してみるか!
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