第22話 再会

「フィル?」

「お兄ちゃん……」


 私はカインお兄ちゃんの顔を見た途端、目から涙が溢れ出して止まらなくなった。


「おいどうしたんだフィル。こんな所でいきなり泣き出して」

「カイン女たらし……」


「チュール。人聞きの悪い事言うな。『ドラゴンブレス』のパーティメンバーだったフィルだよ」

「でも普通顔見ただけで泣かない。絶対好かれてる。でも負けない」


「フィル。取り敢えず飯食え。アマンダも日替わりでいいよな?」

「うんそれでいいけど、あのね、要約するとギースがカインはカール村で死んだってみんなに伝えて、フィルちゃんはクラン抜けてお墓参りに来たんだって」


「あちゃぁ。そんな事になってたのか、まぁその方が俺的には助かるけど」

「カインがそんなだから、あちこちに迷惑掛かってるんじゃ無いの?」


「迷惑はかけて無いだろ?」

「カインが表に立って行動したら、収まる問題も多いと思うよ?」


「おい、アマンダ。お前何か聞いたのか?」


「おーいそんな所で話してるなら、カインはそこで一緒に飯でも食え。こっちはもう大丈夫だから」

「おやっさん。すいません」


「従業員じゃ無いんだから、気にするな」

「カール村のみんなの飯まで、ここで一緒に作らせて貰ってるんで」


「気にするな。その分食材や、魔蔵庫で多すぎるほど貰ってるからな」

「ありがとうございます」


 俺はチュールと一緒にアマンダとフィルと同じテーブルに着いた。


「話の続きなんだけど、フィルさんやチュールちゃんには聞かれても大丈夫な感じ?」

「ああ、この二人は大丈夫だ」


 そこまで話した所で日替わり定食が届いた。


「お待たせカイン。あんた女の子に囲まれてモテモテじゃないかい? それでどの子が本命なの?」

「おかみさん。勘弁してくださいよ」


 取り敢えず、日替わり定食を食べる事にした。


 今日の定食は、ご飯は麦ごはんだ。

 みそ汁はカール村の側の川から取って来たしじみの味噌汁。


 メインは魔羊のあばら肉を骨付きでローストした、マジカルマトンチョップのローストだ。

 羊は大人まで育てると独特の臭みが出るんだが、これが魔物化すると条件が変わる。

 凄く濃厚な旨味が出るんだ。

 凶暴で捕まえるのは大変だけどな。


 こいつを果物をすりおろした特製のたれに一晩漬け込んで、表面を強火であぶる。

 そいつを大きなバナナの葉っぱで包んで蒸し焼きにするんだ。


 副菜にはサラダ。

 そしてデザートには特製のアンニン豆腐だ。


 これで銅貨7枚。


「どうだ? 美味いだろ」


「「「うん」」」


「フィルも飯食ったらやっと涙も止まったな」

「だってぇ、私お兄ちゃんが死んだって聞いたから、本当に悲しくてせめてお墓参りだけでもしてから、田舎に帰って治療院やろうと思ってたんだからね」


「それ、別に俺は何処も悪くないだろ? ギースが勝手に俺が死んだって勘違いしていいふらかして、それをフィルもよく調べもせずに飛び出して来たんだろ?」

「まぁそうだけど」


「あ、話の途中だったな。で、アマンダはどんな情報を知ったんだ」

「今朝の事だけどね。王都のギルドマスターから魔導通信が入ったの」


「カインの死亡情報が王都で流れてるが本当か? って」

「あのおっさんもかよ」


「勿論。ぴんぴんしてますって報告したよ。そしたらね。『俺がSランクと認定したやつがそんなに簡単に死ぬわけ無いよな。解った』って通信切ったの」

「あのおっさん…… 個人情報駄々洩れじゃねぇかよ」


「私は誰にも喋って無いよ?」

「永遠に秘密でいいよ」


「やっぱり…… カイン兄ちゃん。そうだったんだ」

「いつからなの?」


「俺も最近まで知らなかった。ずっと王都から出て無かったし、冒険者証なんて出す事も無かったから。隠蔽カードになってて、見た目はDランクのままなんだ。納品の時にカード出すから、いつの間にかすり替えられてたみたいだけどな」

「そうなんだね。でも、私でも個人ランクはAだからね。個人のSランクなんて王国で5人もいないんじゃない?」


「いえ。フィルちゃん。ギルドランクは世界共通なのは知ってますよね?」

「はい」


「今、世界中でギルド加盟国のすべての冒険者でSランク認定を受けてるのは公表されているのは4名だけです。カインは公表されて無いから世界中で5人でしょうね」

「ギースでも個人ランクはAAだった筈だからね」


「クランやパーティでのSランク評価は各国に3か所程度は存在してるけど、個人のSランクなんて少なくとも私は初めて会ったわ」

「ねぇカイン兄ちゃん? もしかして私のサポート魔法が効かないのって?」


「フィル、それは一応まだ内緒にしててくれ」

「あ、うん。でもどうするの? これから」


「カール村がこんな事になってしまったからな。折角だから世界を旅してまわって、色んな食材集めて料理を極める旅でもしようと思ってる。村の復興は俺が居なくてもきっと出来るし、帝国が攻めて来る事は少なくともここ何十年かは無いと思うし。まぁ村人たちが村に戻るまでは、食事の世話とかがあるから俺も協力するけど、後一週間くらいかな?」

「そっか。じゃぁ決めた」


「何を?」

「うん。私カインお兄ちゃんについてく」


「おい、俺はチュールの世話だけでも手いっぱいだ」

「カインは私の」


「え? そう言えばこの子どうしたの?」

「チュールか? ここに来る途中に懐かれた。折角だから亜人が安心して暮らせる土地でも見つけて、色んな種族が楽しく暮らせる街も作りたい。そこで世界一のレストランを開く」


「さすがお兄ちゃんだね。それなら増々私必要じゃない? 治療魔法は便利だよ?」

「そう言えばそうだが…… フィルは良いのか? 『ドラゴンブレス』じゃ無くて」


「私の『ドラゴンブレス』は、カインお兄ちゃんが居る『ドラゴンブレス』だけ」

「そっか。チュール三人旅でも構わないか? ここでメイドの修行してても良いんだぞ?」


「お留守番は却下。嫁は私」

「何この子。可愛いよね。でもカイン兄ちゃんのお嫁さんは譲れないかな?」


「おいフィル。お前迄何を言い出すんだ」

「私だってもういい歳だよ? 初恋の人に嫁ぎたいじゃん」


「カイン。何ラブコメみたいな事やってるのよ。そこは、孤児院で一緒に育った幼馴染枠が必要な場面だよね?」

「いやそれはいい」


「「うん。必要ないと思う」」


 意見揃ったな。


「だってアマンダ。別に幼馴染ってだけで俺を好きでは無かっただろ」

「まぁそうだけど」


「じゃぁ取り敢えず嫁とかそんなのは別として、一緒に旅をするでOKか?」

「「うん」」


「そう言えばカイン兄ちゃん。ケラ連れて来てるよ?」


 そう、フィルが言うと背中のバックパックから、ケラが顔を覗かせる。


 するといきなり「ニャカーマ!」と言って、チュールに飛びついた。

「ウニャァ!」と何故かチュールが猫の鳴き声で応戦してた。


 仲良くしろよ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る