第23話 飛空船なの?

「おやっさん。おかみさん。お世話になりました。タクマとサリーも元気でな。次は子供の顔でも見せてくれよ?」


「おう。こっちに寄れば顔を出せよ」

「カインも、ちゃんと結婚して子供作りなよ!」


「先輩、この何日かすげぇ楽しかったっす」

「カインお兄ちゃん。またね」


 それぞれに挨拶を交わす。

 漸く、カール村の復興も目途が立ち、村人たちも村へと戻って行った。


 足りなくなった男手は、冒険者ギルドが移民を募集してくれて、冒険者を引退した人たちや、近隣の農家の次男坊以下の人達が集まってくれたので、村が運営出来る程度の人数は揃った。


 それに、王国がかなりの広範囲で隣接する川向こうの領地を、王国領地に編入させたので、危険も少ない。


 川を渡る大きな橋も架けられて、この辺りは王国の穀倉地帯として、これから発展していくだろう。


 周辺一帯を治める領主が赴任してくればカール村が領の中心的役割を果たす事になるかも知れないしな。

 でも帝国がもし取り返そうと行動を起こせば、最初に戦わないといけない場所だし…… 領主になる人大変だな?


 シスターや孤児院の兄弟たちも、みんなカール村へ戻って、放牧を再開した。

 鶏や牛は帝国側の農地から、供出させて今まで以上の数を育てる事になって、賑わっている。


 8万人の兵士が犠牲になった、新たな帝国との国境線では、死体を焼きその骨を練りこんだコンクリート製の壁が、王国との国境として立ちはだかっている。


 これは、帝国側が設置した。

 各貴族家がお金を出し、帝国側からこの壁を見ると慰霊碑になっているそうだ。


 戦争なんて虚しいだけだよな。

 

「カイン。どうやったの?」

「何がだ? チュール」


「帝国軍やっつけたのってカインだよね?」

「まぁ、そうだけど」


 戦場後の平原は、ただただ見晴らしのいい荒野になっている。

 今はここに俺達三人以外は誰も居ない。


「まさか? カイン兄ちゃんが一人で帝国軍壊滅させちゃったの? 一体どうやって……」

「うーん。こいつを置いて行っただけなんだけどな」


 そう言って、魔力切れで動かなくなっている、黄金のヒュドラ型ゴーレムを取り出した。


「すごっ」

「一体どこでこんなの手に入れたのよ」


「あー古代遺跡だ。カール村の西に行った所にあるんだが。どうやらそこを狙ったのが今回の帝国の目的だったみたいだから、先に俺が攻略した」

「簡単に言うよね……」


 もしこのヒュドラが先に帝国の手に渡れば、ここで死んだのは間違いなく王国軍の5万人だ。

 それ以前に帝国がヒュドラを手に入れて稼働できる可能性は少なかっただろうけど……


「あーでも、お薦めは出来ないぞ。ダンジョンと違って魔物とか出ないから、食べれる物が何もなかったし。これが一番奥の部屋の前で、立ちはだかっていたから、魔法の鞄に放り込んで持って帰ったんだ」

「こんな大きなゴーレムを魔法の鞄に収納するとか、絶体王国の魔導士じゃ誰一人出来ないと思うよ?」


「そうか? 他にもあるんだけどな。取り敢えずはこのゴーレムは魔力切れで動かないみたいだし、危険は無さそうだけど」

「ねぇ、魔力の補充とか出来るんじゃない?」


「出来るかもしれないけど、動いたら危険すぎるからしない方が良いんじゃないか? それよりさ。フィルは昔の本。結構王都の図書館で読んでたよな?」

「うん」


「これ何か解るか?」


 そう言って今度は、ゴーレムよりはるかに巨大な全長50mを超える船を、取り出した。


「なに? これ」


 流石にチュールもフィルも、余りの巨大さに、びっくりしてる。

 

「このヒュドラが守っていたのが、これなんだが。この辺りの川では浮かす事も出来ないし、なんの為に山の中に船なんか作ったんだろ?」

「カイン兄ちゃん。もしかして…… これ、伝説の飛空船なんじゃない?」


「飛空船だって? 空飛ぶのか?」

「私も古代文明の時代にそう言う乗り物があったって、読んだ事があるだけだよ」


「でも、大げさな隠し方からして、可能性は高いかもな? 乗って見るか?」

「カイン。危険じゃない?」


「乗ってみたいけど…… 入り口が見当たらないよね…… 取扱説明書みたいなの無いのかな?」

「一緒の部屋にあった本が何冊かあるけど、字が読めない」


「ちょっと見せて貰っても良い?」


 俺が本をフィルに渡すと、フィルが本を開く。


「古代エルフ文字ね。私にも読めないわ。この文字は一定の規則性が無いんだよね。魔力を通わせて同調させれば読めると言うか、意味が伝わるようになるらしいけど、ハイエルフの魔力が必要だって聞いた覚えがある」

「そうか。俺がアマンダから聞いた情報と、ほぼ同じだな。取り敢えず俺達の目的は、エルフに出会って、ハイエルフへの面会を果たす事にしようと思うが、それでいいか?」


「「うん」」


「エルフに遭うには、王国だと不本意だが奴隷しか存在しないそうなんだよな」

「そうなんだ……」


「だから、奴隷商の街に行って調べようと思う。チュールは大丈夫か? あまりいい覚えがないだろうけど?」

「カインが一緒なら大丈夫。フィルとケラも居るし」


「ニャッ」

 

 どうやらチュールとケラは仲良くなった様だ。

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