第21話 フィルの旅路

 私は『ドラゴンブレス』を抜けて、カイン兄ちゃんをとむらうためにカール村へ行く事にした。


 旅立ちの前には王宮へ出向き、騎士爵の返上も行った。

 これで普通の女の子に戻った。

 24歳じゃ女の子とは言えないか……


 一緒に行くのは、普段は黒猫の様に見えるが、実は猫型の妖精であるケットシーのケラちゃん。


 彼は、カイン兄ちゃんがダンジョンで出会ったんだけど、妙に人なつっこいし食べれる部分も少なそうだから、逃がそうとしたんだけど、離れないから連れて来たって言ってた。

 私は一目で気に入り、カイン兄ちゃんに頼んで譲って貰った。

 ケラも私を気に入ってくれたようで、契約の魔導具を使って従魔になったの。


 この契約の魔導具はどんな魔物にも使えるわけでは無く、魔物自体が契約者と一定以上の信頼関係を持っていないと、効果は表れない。

 信頼関係は数値化して見る事は出来ないので、魔導具を使っても成功するかどうかは、運次第な所が多い。


 契約をすると意思の疎通が可能になるんだよ。

 他は別に利点も無いけどね。


 ケラはとっても甘え上手で、私にいつも寄り添ってくれる。

 戦闘力は殆ど無いけど、私を乗せれる程度の大きさまでは変身できるから、今はケラの背中に揺られながら、旅路を行く。


 馬よりも揺れは少なく、ジャンプ力も高くて、5m程度の木の上に私を乗せたまま飛び上がるのだって平気だ。


 宿なんかでは、子猫サイズになって私と一緒にベッドで眠る。


 (もう12年も経ったんだな)


 『ドラゴンブレス』を結成した当時は私は12歳のまだ子供って言う感じだったけど、今はもう24歳。


 十分に大人の女だよね?


 でもギース達からしてみれば何年経とうが、一番下の妹なんだよね。


 クランのメンバーには私より若い子もいっぱい入って来たけど、私は命令するのは苦手だな……


 パーティリーダーなんて柄じゃないよ。

 そう思いながら続けると、結局はパーティメンバーに迷惑をかける。

 だから私は、クランを抜けた。


 ハルクはきっと何となく解ってくれていたとは思う。

 ギースやミルキーは、きっと解んないかな?


 『ドラゴンブレス』はきっと凄いパーティだったとは思う。

 クランになるまでは。


 20人以上も居れば、カイン兄ちゃんの負担ばかり増えて、全体的にクオリティが下がった気がしてた。


 ギースやハルクは気づいてないのかな?

 カイン兄ちゃんの作ってくれるご飯が無ければ、普通のパーティだよ?


 ミルキーの魔法だって、私のバフが無かったら普通だし、その私のバフもカイン兄ちゃんのお握りが無かったら、大したことは無かった。


 カイン兄ちゃんは、ギースの扱いは美味かったから、いつも攻略の大事な部分では、ギースにお握りを食べさせてたんだよね。

 そのお陰で、ギースはドラゴンブレスのリーダーとして華やかな実績を残し続けてた。


 でも…… 今回の王国軍と、帝国軍の話って本当なのかな? カイン兄ちゃんが居るわけでも無く、5万人の中で一番の功績と認められるとか……


 あのギースが?

 実は思ってるより強いのかな?

 

 いやいや、冷静に考えなきゃ。

 帝国軍の10万人のうち8万人が死んで、王国側の兵士の被害が0?


 これはどういう事かと言うと、戦闘は行われていないって事で間違い無い筈だ。

 じゃぁ8万人をどうやって倒したの?


 カイン兄ちゃん? 流石に無理でしょ。


 それに、お兄ちゃんは基本食べれない者は殺さないだし……


 例外は結構あった気がしたけど……


「フィル? ボーっとしてたら落ちるニャよ?」


「ごめんねケラ」


 ケラの背中に揺られての移動は、4日目にはタベルナの街へと到着した。



 ◇◆◇◆ 



 私は、タベルナの街で冒険者ギルドへと向かった。

 私の個人での冒険者ランクはAランクだから、結構ギルドでは融通が利くんだよ。


 受付の女性の人に用件を伝える。


「先日のカール村での被害者の件でお尋ねしたいんですが、よろしいでしょうか?」

「あ、はい。大丈夫です。私は当ギルドの受付をしておりますアマンダと申します。Aランク冒険者はこの地域には居ませんので、出来れば、この地域で逗留して活動をしていただければ助かります」


 うーん。

 自分の言いたい事を先に一気に喋るスタイルか。

 ちょっと苦手かも……


「カール村で亡くなった方の中に、29歳で料理人のカインという方がいたと思うんですが…… まだ遺体は見つかって無いのか確認がしたくて」

「えっ? カール村の料理人でカインですか? 生きてますよ?」


「えっ? ええっ?! 本当なの?」

「良かったら案内しましょうか?」


「この街に? いるの?」

「はい。今は昔修業した店で、居候してますよ。カール村の村人たちの世話で大変そうですけど」


「よかったあ」

 

 その言葉を聞くと今まで張りつめてた物が、一気に脱力した感じで腰砕けに座り込んじゃった。


「大丈夫ですか?」

「あ、はい。案内お願いしていいですか?」


「丁度私は今からお昼休憩で、食事に行くところでしたから、カインは私と幼馴染で一緒の孤児院で育ったんですよ」

「あ、そうなんだ。初めて聞いたよ。じゃぁギースも知ってる?」


「勿論。この間この街にも来てたけど、随分偉くなっちゃって、私には声を掛ける事もなく行っちゃったけどね」

「そうなんだ……」


「あのギースって、カインが生きてるの知らなかったの? この街に来てたならちょっと聞けば解りそうな気がするけど」

「もしかして、フィルさんは『ドラゴンブレス』のメンバーですか?」


「あ、はい。もう抜けましたけど」

「そう。だったら何となくわかるかな? ギースって昔から勝手に勘違いしてそれを絶対正しいと思って行動するでしょ? 悪気は無いんだけど」


「た、確かに。昔からなんだ……」

「そう。昔から、周りがどんなに迷惑に思っても自分で言い出した事を曲げない。ある意味凄いけどね」


「ですね……」

「恐らくだけど、カール村の成人男性が殆ど殺されてしまう事件があったから、それで勝手にカインも死んだと信じ込んだんじゃないかな? 日にちを確認したらカインが到着するより1週間も前の話だと簡単に解ったと思うけど……」


 そんな話をしながら『ひまわり食堂』に到着した。


「いらっしゃい」


 元気よく聞こえる声は、カウンターキッチンの中に居る、カインお兄ちゃんだった。

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