第14話 カール村の状況

 タベルナの街で久しぶりに師匠とその家族に会い、無事を喜んだが近隣の情勢を考えると、ずっと平和だとも思えない。


 アマンダの情報でも、王国軍がカール村の奪還に行動を開始したと聞いた。

 そうなると、王国軍が集合して帝国に対峙するための拠点は、この街の周辺に置かれるはずだ。


 当然、この街も諸物価の高騰などが起り、辛い思いをするのはこの街で暮らす人になる。

 かと言って、何万人もの人が争う戦争で、俺が出来る事なんて言うのは……


 無いよな。


 取り敢えずは、人から聞いた情報ではなく、今必要なのは自分の目で、自分の耳で、カール村の実情を理解する事だ。


「チュール?」

「ん?」


「カール村に行く。危険だから出来ればチュールは『ひまわり食堂』で待っててほしい」

「私、邪魔?」


「そうじゃないが、一人の方が動きやすい」

「ん-…… 解った。私は物分かりが良い女だから、待ってる。でも約束。絶対戻って来て」


「当然だ」


 翌朝、再び『ひまわり食堂』へと向かい、おやっさんとおかみさんに、チュールを預けた。


「おかみさん。この子の適性職業は【メイド】なんだ。俺が店を開くときに、使い物になる様に、みっちり仕込んでください」

「おや、そうなのかい『チュール』ちゃん。うちはスパルタだからね!」


「うん。カインの為に頑張る」

「けなげだねぇ。カイン。怪我したり死んだら承知しないからね」


「お、おう。おかみさん。それじゃぁよろしく頼みます」


 俺は久しぶりに一人で行動する事になり、山を一つ越えた先にあるカール村へと向かう。


 山頂に辿り着けば、広大なカール村の農村地帯が見渡せる。

 俺が気になるのは、教会が運営する孤児院だが、みんな無事だといいんだけどな。


 食料の調達に便利なこの村を、意味なく蹂躙するような選択は、俺ならしない。

 だが問題は一つある。


 帝国の崇拝する宗教と、この教会の宗教は違うのだ。

 だから、教会に寄って運営されている孤児院の立ち位置が心配だ。


 山頂から見ると、この村に駐留している軍勢は、アマンダの情報通り1万人程度だ。


 精々村の住民で200人も居なかったカール村では1万人が駐留するのは厳しいと思って、焼き討ちを掛けて平地を作り上げたんだろうな。


 農地や牧場の方は、荒らされてはいない様だ。

 これだけの人数が居る中で潜入するのは厳しいな。


 孤児院の子供達が担当している、放牧地なら何とかなるか。

 もう、12年も帰って無いから、俺の居た当時に居た子供達はみんな卒業してしまってるだろう。


 シスターは、俺より3歳年上だったから、まだ居るとすれば32歳か。

 司教は…… 祖父ちゃん過ぎて歳なんか知らねぇ。


 多分生きてても90くらいな筈だ。


 山の中腹辺りで移動して、放牧地帯へと潜入すると、子供達が羊の群れを連れて歩いているのを見つけた。

 兵士の監視は無いな。


 俺は山から下りて、羊の群れを率いているリーダーらしい少年に声を掛けた。


「よう! 後輩たち、頑張ってるな」

「おじさん誰?」


「おじさんじゃねぇよ。お兄さんだ。孤児院の子供達だよな?」

「うん。そうだけど……」


「どうした。元気が無いじゃないか」


 俺がリーダーらしき少年と話していると他にも5人程の子供達が居て、近寄って来た。


 取り敢えず子供達に、お菓子を出してやる。


「ほら、これを食え。俺はお前らの先輩だ。孤児院で育って、料理人になった」

「へーお兄ちゃんなんだね」


 子供達が俺の出したクッキーをうまそうに食ってる。


「どうだ。美味いだろ。カイン兄ちゃんの特製クッキーだぞ」


「「「うん。美味しい」」」


「ちょっと、状況を教えて欲しいんだ。司教やシスターはどうなった?」

「帝国の奴らが、来て教会や村の建物は焼き払っちゃって…… 司教様は…… 殺されちゃった。シスターは俺達の世話に必要だからって今は大丈夫だけど、俺達が逃げたりしたら殺すって言われてる」


「そうか。辛い思いをしてるんだな。村の人はどうだ?」

「村長さんは殺されちゃったけど、農家の人達は野菜を育てろって言われて、出来た野菜は全部取られてるんだ。俺達は殆ど食べ物も貰えないで、羊の放牧をしてる。牛や鶏は全部殺して、兵隊の飯になっちゃった」


 牛や鶏の方が乳や卵を取れるから便利なのに、馬鹿な奴らだな。

 長く駐留するつもりも無いから関係ないのか。


「そうか、大体わかった。辛いだろうが頑張れよ。もうすぐ王国から助けが来るからな」

「うん。カインお兄ちゃん」


「シスターに手紙届けれるか?」

「うん。大丈夫だよ」


「ちょっと今から書くから届けてくれ。明日のこの時間くらいに、俺もここに来ておくから。おやつも用意しといてやるぞ」

「本当? 絶対だよ?」


「おう約束は守る。今孤児院の兄弟たちは何人居るんだ?」

「全部で10人だよ」


「そうか。ちょっと待ってろ」


 俺はシスターへの手紙を書いて、子供たち10人分と、シスターの分の11人分のクッキーを袋に入れて渡した。


「兵隊たちに見つからない様に渡すんだぞ」

「任せて」


 許せないな帝国の奴ら。

 あいつらの目的は、古代遺跡だと言ってたな。


 まだこの村にあの数が駐留してるって事は、探索は始めて無いのか?

 行って見るか。

 何か打開策が見つかるかも知れないからな。


 アマンダの言っていた西の古代遺跡までは、距離にして10㎞程だ。

 俺の足なら、そんなに時間は掛からねぇ。


 俺は再び山の中腹に戻り、村を迂回して古代遺跡を目指した。

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