第13話 タベルナの街
昨日の昼に出会った商人からの情報を受けて、国境の村への道を急ぐカインとチュール。
「明日の午前中には到着するけど、まだ戦火の広がっている雰囲気は無いな」
「うん」
「もう少し歩くと少し大きな街があるから、そこの冒険者ギルドで情報集めをしよう。俺が料理の修行をした店もあるんだぞ。おやっさん元気かな?」
「へぇ。カインのお父さん?」
「違う違う。修業した店のシェフだよ。尊敬を込めて、おやっさんって呼んでるんだ」
「そうなんだ」
それから2時間程でタベルナの街に到着した。
今回は俺もチュールも冒険者証を出して入街する。
衛兵の視線が俺を見てちょっと泳いでたけど、気のせいかな?
「ねぇカイン」
「どうしたチュール?」
「一度ちゃんと、鑑定を受けたらどうなの?」
「ん? 鑑定してもそれで出来る事が変わる訳じゃ無いしな。お金もかかるし、何より……」
「何より?」
「めんどくさい!」
「そか」
無事に街に入ると、まっすぐに冒険者ギルドへ向かった。
受付嬢に、質問をする。
俺と同じ歳くらいの中々の美人さんだ。
ギルド嬢ってなんかレベル高い人多いよな。
顔面偏差値の……
「すいません。国境の村カールの情報が欲しいんですけど、有料でも構いませんからお願いできますか?」
「はい。少々お待ちくださいねって…… もしかして…… あなたカイン?」
「そうですけど? あ。アマンダか?」
「そうよ。綺麗になり過ぎてて気づかなかった?」
「まぁ綺麗になってるのは確かだけど、自分で言うなよ。でも、アマンダはまだ結婚してないのか?」
「私に釣り合うほどの、男に中々巡り合えなくてね。気づけば三十路よ。今更妥協して、つまんない男と結婚したくないしね。あ。そう言えばカインとギースってあの『ドラゴンブレス』のメンバーなんだよね凄いね大出世じゃない」
「ああ。それな。大出世はギースだけだよ。今ではクランのリーダーで男爵様だよ。俺はレベルの差が開きすぎて、クビになってスゴスゴと田舎に戻って来たってわけ」
「なーんだ。優良物件降臨かと思ったのに…… 一緒に連れてる子は娘さん? 獣人のお嫁さん貰ったの?」
「私が嫁」
「こら、チュール。いつ嫁になったんだ。この子は旅の途中で知り合った仲間だ」
「そうなんだ。親子でも全然不思議はないよね?」
「嫁」
「まだ言うか!」
「カール村の情報だよね。結構大変だよ。帝国から一方的に越境してきて、村が焼き討ちにあったらしいの」
「なんだって?」
「村のあった場所に帝国の前線基地が作られて、補給物資なんかを蓄えてるって話ね」
「村の人達は?」
「そこは、余り情報が入って無いけど…… 殺されたか、捕虜になって働かされてるかでしょうね……」
「この街に攻め込んでくるとかの情報は無いのか?」
「そこは当然、この街のギルドからも斥候を出して注意してるけど、どうやら次の目的地はこの街じゃ無くて、カール村から西の方角にある古代遺跡のある地域みたいだね」
「あそこは、条件が厳しすぎて、誰も探索に向かわないような場所だっただろ?」
「でも、攻略できれば、古代文明の魔導具が手に入る可能性もあるし、それを手に入れれば、その後のこの国の併合にも有利になるのは間違いないからね」
「だとすれば、古代遺跡の探索が一段落着くまでは、この街は差し当たって危険は無いと言う事か?」
「そうね。でも…… 王都ではこれを重要問題として、既に王都から南部担当の軍が各領地の常備軍を吸収しながら、向かってるそうよ。二週間ほどで5万人規模の軍が到着するわね」
「結構な大群だな。帝国軍は、どれくらいの規模だ?」
「正確には解らないけど、カール村の駐留で1万人規模で帝国側にどれくらいの軍が集合してるかは、このギルドから出した斥候が戻ってこないと、解らないわね。うちのマスターの予想では、王都軍が用意する数よりは大規模な準備をしている筈だっていう事よ」
「平和なカール村はもう、存在しないって事か……」
「この街でも、カール村からの食材供給が滞ってるから、物価は上昇気味だし、カインの師匠のお店も大変そうだよ」
「そっか…… 顔を出してみるよ」
「あ、カイン。この辺りで活動するなら、今は食材を優先で納品して貰えると助かるわ。この辺りは高ランクの冒険者は居ないから、薬草関係は納品多いけど、魔物素材は少なくてね」
「解った」
「カイン」
「どうしたチュール」
「大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ」
「家族はカール村にいないの?」
「俺とギースは、孤児院育ちなんだ。教会の司教様が放牧をしてて、身寄りのない子供を南部全域から集めて牛や羊や鶏の世話をしながら俺達を育てくれてるんだよ」
「へぇ」
「村と言っても、広さだけはあるからな。恐らく帝国も食料自給がしやすいからカール村を最初に狙ったと思うし、それなら、ほぼ農民しかいないあの村の住民を害する可能性は低いと思う」
「そうなんだ」
「心配なのは…… 教会のシスターや、孤児院の妹たちくらいだな」
「妹って、カインの本当の妹?」
「いや、孤児院で一緒に過ごした女の子達だ」
「そっか」
「さっきのアマンダもそうだ。孤児院は15歳になれば出て行って、取り敢えずこの街に来て、それからどう生きて行くのかを決める感じだな。俺はこの街で料理人の道を選んだけど、ギースが王都に出ると言い出した時に、もっと広い世界を見たいと思って一緒に出たんだ」
ギルドを出ると、取り敢えず師匠の店へと向かう。
宿に併設した食堂では無く、街の大衆食堂って感じの20人も入れば満席になる様な、こじんまりした店だ。
この時間は、ランチタイムが終わってディナータイムに入るまでの休憩時間だから丁度いい。
俺は『ひまわり食堂』の前に立ち、扉を開けて声を掛けた。
「こんにちは」
ひまわり食堂の名前は、おやっさんの娘さんが、ヒマワリの花が大好きで、裏庭にも大量のヒマワリが植えてあるからだ。
夏場は客席からも、ヒマワリが咲き誇る姿が良く見える。
「今は休憩時間中だ。ディナータイムは5時からだよ」
おやっさんの声で返事があった。
「おやっさん。俺ですカインです」
「おお。カインか、久しぶりだな元気にしてたか?」
「はい」
調理場から、おやっさんが顔出して声を掛けて来る。
「娘か? お前も人の親になったんだな。 獣人の嫁を貰ったのか? そういう差別のない所は感心だ! ガハハハハ」
といかつい顔で、嬉しそうに笑った。
「違う、私が嫁」
「おお、そうだったのか。カインこのロリコン野郎が」
「おいチュール。話が紛らわしくなるから止せ。おやっさんこの子は旅の途中で一緒になった仲間です。嫁でも娘でもありませんよ」
「なんだ、そうなのか。まぁ座れ座れ」
「さっきギルドに寄って来たら、色々と大変らしいですね」
「ああ。戦争などわしらにとって何一ついい事なんかねぇ。お陰でカール村からの食材が入らなくなって、この食堂も大変だよ」
「おやっさん。それも聞いてたので、土産にこれを受け取ってください」
そう言って。魔法の鞄からありったけの食材を出した。
「こりゃ凄いな。だが、うちは魔蔵庫は無いから、使い切れる分だけ貰うでいいのか?」
「はい、構いません。好きなだけ選んでください」
「カイン。助かるぜ」
「娘さんとおかみさんは、元気ですか?」
「ああ、今は少しでも食材を仕入れるために、近隣の農家を回って直接頼みに行ってる。もうそろそろ帰って来る頃だ」
そう言ってるうちに、扉が開いて、おかみさんと娘さんは帰って来た。
「おや。カインかい。可愛い娘さん連れてぇ久しぶりだね。元気だったかい?」
「いや、その話の展開は……」
「私が嫁」
「だからそれを言うなって! 人が勘違いするだろ?」
「そのうち既成事実? になる」
「ならんわ!」
「カイン兄ちゃんなの? 久しぶりだね」
「サリー、久しぶり」
「先輩、久しぶりっす」
「おう。タクマか? ずっとこの店で頑張ってたんだな」
「はい。サリーと結婚したんです」
「おお、そうかそりゃぁ凄い。おめでとう」
サリーの顔がちょっと赤くなった。
「あんた、どうしたんだいこの食材。凄い量じゃない」
「ああ。カインが土産替りだと言って、くれた」
「カインありがとうね。そう言えば『ドラゴンブレス』の噂は、この街にも時々届いてたよ。随分頑張ってたんだね」
「ああ…… 俺は大したこと無かったけど。凄かったのはギース達だよ。俺は結局クビになった。だが、料理の腕は成長したぞ」
「そうだったのかい。まぁ人には向き不向きがあるからね。カインはうちの人が認めた立派な料理人だから、胸を張って生きて行きな」
そう俺がおかみさんと話していると、チュールが口を挟んだ。
「違う。カインは冒険者としても超凄い」
「ちょっチュール。それはどうでもいいんだよ」
「だって、凄いのに何で隠すのか意味わかんない」
「なんか事情がありそうだね。私達で良ければいつでも話は聞くよ?」
「はい、ありがとうございます。今日はこの辺で失礼しますが、暫くはこっちに居ますので、また顔を出します」
「いつでもおいでよ。ここはあんたの実家だと思って構わないからね」
こうして『ひまわり食堂』を後にした。
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