第11話 ドラゴンブレス③

(ハルク)


「さぁ今日からは新しいパーティ構成で、連携の確認をするぞ。Cランクダンジョンだから、たいして難しくは無い。最終階層まで一週間の予定だ」


「「「はい」」」


 俺達のクランは、新しいパーティ編成での初めての探索に出かける事になった。

 今回は、まだクランを作る前に5人で攻略したCランクダンジョン【オーガの墓場】だ。


 前半戦は力押しのオーガが中心で、後半戦はアンデットとオーガの混成。

 ラスボスはオーガキングゾンビという構成で、前半戦ではミルキー、後半戦ではフィルが無双した記憶がある。


 今回はギースのパーティは参加しない。

 社交パーティで忙しいんだとよ。

 幸せなこった。


 まぁ俺達にとってCランクダンジョンなど肩慣らし程度だ。

 


 ◇◆◇◆ 



 何故だ。

 今回の探索は、もっと簡単な筈だったが苦戦している。

 まだ中盤にも辿り着かない20層だというのに。


 魔物の数が妙に多いし、罠にやたらと出会う。

 これまでの探索でSランクダンジョンですら、こんな数のトラップに出会う事は無かった。


「次の階層の、セーフティゾーンで一度休憩だ。各パーティのリーダーと斥候班は、ミーティングを行うから集まってくれ。サポート班は食事の準備を頼むぞ」

「「「はい」」」



 ◇◆◇◆ 



「ミルキー、何かおかしく無いか?」

「敵が多い。前にここを攻略した時の事を思い出してるけど、私の魔法攻撃で一撃で倒せないような敵はいなかったと思うけど、今回は魔法耐性のある敵がやたらと現れる」


「そうだな。物理攻撃が有効な敵でも以前来た時の俺達のレベルより高いメンバーしかいないから、ここまで手が掛かる筈は無いんだが」

「それと、罠が多いわ。斥候班は先乗りでもうちょっと慎重に、罠を発見して対処をしていて」


「あの?」 


「何よズール」

「罠の対処は、発動させると言う事ですか?」


「それ以外に何があるの?」

「俺達、斥候が罠を発動させるのに必要な、身代わりのアイテムはもう使い果たしました」


「なんでよ? いつもと同じ数を用意して分けた筈よ。カインが使っていた分量も購入して分けたでしょ?」

「はい。勿論ですが、全く足りません」


「無駄遣いばかりしてるんじゃ無いの?」

「そんな事はありません」


「長い槍とか弓とかで。事前に察知してつつけば大丈夫でしょ? それで対処しなさい」

「は、はい」


「ミルキー。ちょっといい?」

「どうしたのフィル」


「私は、少し魔力量が厳しいよ」

「今までそんな事無かったじゃない? ギースが居ないからってちょっと甘えてるんじゃない?」


「そんな事無い。足りないのはギースじゃ無くてカイン兄ちゃんだと思う」

「あんな私達の半分のレベルも無いやつが居ないからって、何が違うって言うのよ?」


「食事?」

「食事は、今用意してるから、それを食べて休憩すれば大丈夫でしょ」


「うん、わかった。でも念には念をで、一日に進む階数は少なくするべきだと思う。こんな所でクリア出来なかったら、恥になる」

「解った。そこはフィルの意見を尊重しよう。それでいいな」


「サポートの責任者を呼んでくれ、食料の在庫の確認と調整をしなきゃな」


「お呼びでしょうか?」

「リンダ。食事の件で話がある。探索日数が少し伸びそうだが、何日分くらい余裕がある?」


「規定通りに用意して、使用していますので、在庫だけでは一日分です」

「そんなに予備は少ないのか? いつもは食事の量ももっと多かったじゃないか?」


「あれは、リーダーが、あ、カインさんが途中で食料になりそうな魔物を先乗りで狩って持って来てたから、それで多かっただけです。ミルキーさんから頂く糧食費用だけでは、とてもあの量の食事は無理です」

「何よ、カインの奴クランで狩りに来てるのに勝手に獲物を食料で使ってたの?」


「本体が狩った分は一切手を付けていません。あくまでも斥候で見つけた、はぐれ、だけを食事に使ってました」

「そう。それじゃぁそこは斥候部隊の担当ね。ズールあなた達は先乗りで見つけた魔物はどうしてるの?」


「そんなの、斥候の俺達だけで倒せるわけないじゃないですか。見つけたら逃げるだけです」

「それじゃぁ、あなた達が見つかって寄って来た魔物達の中を、私達本体が進んでたって事?」


「まぁ…… そうなります」

「馬鹿じゃ無いの? 斥候なら邪魔な魔物は通り道から避ける様に誘導して、まいて戻って来なきゃ」


「それだと、本体に合流するのに時間が倍以上掛かりますので、2週間程度の日程になりますよ?」

「そんなの食糧が持たないじゃ無いの?」


「食料は、本体が狩った物を、解体して使えば全く足らないと言う事は無い筈です」

「それだと、探索での収支が合わなくなるわ?」


「ちょっといいですか?」

「何よリンダ」


「私が以前別のクランに所属していたのは、知ってらっしゃいますよね?」

「そこからスカウトしたのは私だからね」


「そのクランもA級クランで決して、弱いところでは無かったと思いますが、Cランクダンジョンの踏破では半月を予定していました」

「そんなにかけるの?」


「はい。それと斥候の人間に聞いた話では、身代わり系の罠回避の魔導具が一番数が必要で、半月の探索で使用する魔導具の経費は、金貨20枚程度だったそうです」


「そんなに使ってたら、みんなの給料を払ってたら、クランに残るお金なんて無くなるじゃ無いの? 月に2回の探索も出来ないし、休みも無いじゃない?」

「ですから、食事は基本干し肉と黒パンと塩スープだけで、ここみたいにまともに三食調理をして食べるなんて言うのは、びっくりしました」


「そうなの? 私達はいつもカインが作ってたからそれが普通だと思ってたわ」

「カインさんが凄いんです」


「私は、リンダの方がレベルも高いし、色々知っているから貴女の方が凄いって信じてるわよ? 頑張ってね」

「……はい」


 前途多難な新体制だった。

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