第10話 奴隷商の街③

 翌朝は、怪我も完治した料理人たちが、朝食を準備していた。

 支配人が食堂の入口に立ち、昨日のお詫びに朝食は全ての宿泊客に対して、サービスで提供すると、伝えていて賑わっていた。


 俺もチュールと一緒に食堂へと入って行く。

 朝食に出て来たのは、エッグベネディクトだった。


 マフィンの上にオークのベーコンを乗せこんがり焼き上げた上に、オランデーズソースが掛かっている。


 周り添えられた、トマトとアスパラガスの色合いも美しく、見た目にも美味しそうだ。


 一口食べてみる。


「うん。美味い。このオランデーズソースの隠し味が効いてるな」


 チュールも美味しそうにハムハムと頬張っている。

 

「いかがですかカイン師匠」


 料理長のサンザーだ。


「美味しいな。削った黒トリュフとパルメジャーノがソースを引き立てている。流石ですね」

「師匠には、隠し味が隠しにならねぇな!」


「サンザーさんが素晴らしい料理人であると解って俺も嬉しいです。お互いに美味しい料理を作っていける様に頑張りましょう」

「はい。あの。昨日は本当にすいませんでした。代官の野郎にまんまと乗せられちまって」


「あー。もういいよそれは。こっちに被害も無かったし。でも、奴隷商はちょっと許せないな。普通に歩いていても攫われるとか、俺の中では考えられないぜ」

「この街と、ここの地域の領主のドベール伯爵が、亜人差別の先鋒ですから…… 国も亜人の奴隷は禁止してはいませんし」


「だが、獣人や森人、窟人達は、立派に知性のある人間だし、このままじゃ戦になるだろうな。そうなった時に俺は、人族である事を恥ずかしいと思うぞ」

「そうならない未来は、難しいんですかね?」


「この国が変わらなければ難しいだろうな」


 憂いを持ちつつも今の一介の料理人である俺には、どうしようもない。

 朝食を終え、面倒が近寄ってくる前にさっさと街を離れようと思い、チュールと二人で旅立った。


 街を出て、川沿いの街道を歩き始めて30分程進んだ頃だった。

 いきなり跳ね上げ式の網罠が作動した。


 俺も流石に常時感知を発動してる訳じゃ無く、敢え無く網に捕らわれて、釣り上げられてしまった。


「チュール。大丈夫か?」

「うん平気」


 すると川原の草むらに隠れて居た一団が姿を現す。


「これはこれはS級冒険者様じゃ無いですか? こんな所で何をされてるんですか?」


 そう言いながら現れたのは、昨日の代官だと言う豚男だった。

 後ろには今日は20名程引き連れている。

 今日のメンバーは、昨日の連中とは纏う雰囲気が違う。

 傭兵崩れの用心棒だろう。


「どうせお前が仕組んだんだろうが。こんな事をして、ただで済むと思うなよ?」

「えらく威勢のいい事で、私は舐められたままと言うのは、許せないたちなんで、ここでS級冒険者様には、死んで頂きます。あ、安心してください。その猫獣人は私が責任もって調教して立派な奴隷に育てて差し上げますから」


「どこまでも腐った奴だな」

「お前ら、この男は殺せ、猫獣人は商品だから傷つけないようにな」


「「「へい」」」


 そう返事をすると、弓を構えて近づいて来た。

 近接戦では、俺の相手をするのは大変だと思ったんだろう。

 作戦としては悪くない。


 今の俺達の位置は地上5m程だ。

 残念ながら、俺の生活魔法は発動距離に制限がある。


 発動位置を3m以上に設定できないから、昨日の様に足元を掘り下げる事も出来ない。


 用心棒達が一斉に矢を射かけて来た。

 取り敢えずはチュールは狙われないと解っているので、俺だけ防御できれば十分だ。


 背中に背負ったバッグパック型の魔法の鞄から、大量の鍋を取り出すと同時に、腰の捌き包丁で、網の上部を切り裂いた。


 放たれた矢は全て鍋に弾かれ、俺はチュールを抱きかかえて、用心棒の連中の上に、鍋を踏みつけるような感じで落下した。


 巻き添えで潰れたのは三人だけか。

 

「チュールちょっとだけ離れてろ」

「うん」


 腰のステーキナイフとフォークを次々と投擲した。

 二度目はそんなに優しくないぞ?


 そのすべては用心棒達の眼球へと吸い込まれて行った。

 さて、後は豚男だけだな。


 と思って見回すと居ない。


「キャァア」

「チュール!」


 声のした方を見ると、豚男がチュールの首に剣を当てて、出て来た。


「一歩でも動けば、この猫獣人の首を跳ねるぞ」


 そう言いながら、こちらを睨みつけたまま、後ろ向きに下がって行く。

 その時だった。


【発電】チュールがそう呟くと同時に青白い電気が、豚男を痺れさせた。

 剣を取り落とした豚男が、その場に倒れた。


 チュール。ナイスだ!


「さてどうする?」

「食えない物は殺さないでいいんじゃない?」


「そっか、優しいなチュールは。だが、他の奴らは片目を失ってこいつだけ何もなしなのも不公平だ。チュールをいやらしい目で見たから、そんな事がもう出来なくなる様にしてやろう」


 落ちた剣を拾って、豚男のズボンを下げると股間にぶら下がった部分を斬り飛ばしてやった。


 殺すのは嫌なので、生活魔法のクイックエイドで止血だけしてやり放置だ。

 その後で用心棒達の目玉に刺さった、ナイフフォークを回収して、止血だけはしてやる。

 片目は二度と見えないだろうがな。


 ナイフとフォークと鍋と釜を集めて、浄化を掛けて腰のベルトと魔法の鞄に収納すると、先へと歩き始めた。


 亜人が差別なく過ごせる様な国が出来ればいいけどな……


「なぁチュール。発電って難しく無かったか?」

「ん? カインの使うの見てたから、イメージできた」


「そっか」

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