第8話 奴隷商の街①
チュールと共に、俺の故郷への道を歩き続ける。
「ねぇカイン。今日は野宿になるの?」
「俺一人ならそれでも構わなかったが、チュールは女の子だからな。次に通る街で泊まろう」
「カイン優しい。身体で払う?」
「大人になってから言え」
「来年で成人。もう大人」
「どう見てもガキだ」
そんな話をしてると、街を囲う壁が見えて来た。
この世界は、魔物が居るのが普通な世界だから、ある程度の人数が集まった街では、こういう高い防護壁が張り巡らされている事が普通だ。
街の発展と共に、壁は拡張されるから、古い街ではバームクーヘン状に壁が街の中央部部に向けて何層にも立ち並ぶことになる。
これは領土間の争が起った時など防衛にも向いている構造になるので、新しい壁を作った時に古い壁を取り壊したりしないのが、この世界では当たり前の文化となっている。
王都では王宮に着くまでに、7重の壁を越えなければ辿り着けない。
門に到着すると、衛兵が身分証の確認を行っている。
これもまた当たり前の光景だ。
俺は冒険者証を取り出した。
「あ、チュールは身分証なんて無いよな?」
「うん」
「衛兵さん。俺は冒険者だが連れは身分証を持って無いんだ。臨時の入街許可証を発行して貰えるかな?」
「あ、はい。カインさんは冒険者証確認しました。入場料は白銅貨1枚になります。臨時許可証は、白銅貨5枚です。滞在中に身分証を作られる事をお勧めします。それと…… 獣人ですよね? 奴隷では無いんですよね」
「勿論だ。俺の友達だよ」
「この街では、亜人の方は目立たない様にする事をお勧めします」
「何故だ?」
「領主様の方針で…… 亜人の奴隷取引が活発に行われていて、隷属の首輪をしていない亜人は攫われる危険性も高いので」
「随分物騒な街だな。領主はこの街に住んでるのか?」
「いえ。この街は代官様が治めています」
「解った忠告ありがとう。所で冒険者ギルドはどっちだ?」
「このまま、まっすぐ中央広場に向かって歩くと看板が出てます」
俺達は言われた通りに、まっすぐと道を進んだ。
すると、5分も歩かないうちに事件は起きた。
「おい、その猫獣人の女をこっちに寄越しな」
いきなりそんな台詞を吐きながら、いかにもガラの悪そうな男が三人で立ちはだかった。
「チュール。知り合いか?」
「こんな、顔面崩壊したような知り合いは居ない。きっとこいつらオークじゃない?」
「そうか。オークなら解体して肉屋にでも売り飛ばすか?」
「なに訳わからん事言ってんだ。さっさとその女をこっちに渡して消えないと、豚の餌にしちまうぞ?」
「お前ら、オークのくせに養豚してんのか? 共食いは精神衛生上よくないぞ?」
「誰がオークだ、おい構わねぇさっさとこいつをぶちのめして猫獣人の女を売り飛ばすぞ」
三人の男が、俺に向かって殴りかかって来た。
夕方の街中だ。
結構な人が歩いてるのに、誰も止める気配もない。
この街は、どうやら奴隷商が幅を利かせた、どうしょうも無い街のようだな。
この程度の雑魚は倒すだけなら、どうって事ないが、中途半端にやると他にもちょっかい掛けて来る奴が出そうだな。
俺は腰のベルトからフォークを6本取り出して、片手に三本ずつ構えた。
両手で一気に投げる。
見事に三人の両足の甲に一本ずつ突き刺さり地面に縫い付けた。
こちらに向かって来ていた男たちは、両足を縫いつけられて、前向きにべちゃっと倒れた。
更に、6本のフォークを取り出し、今度は両手の掌を甲から地面に貼り付けた。
うつ伏せ状態で、両手両足を地面に固定されて昆虫標本の様だ。
その頭を踏みつけながら告げる。
「ここで解体されて、肉屋に売られるでいいんだな?」
「ヒッ、お前、俺らにこんな真似して、無事にこの街から出れると思うなよ」
「おお、この状況でそのセリフが出るとか、どんだけなんだお前ら。このまま他の連中が助けに来てくれるのを待ってやるよ。そいつらが、まだ俺の連れに何かしようとするなら、とことん掃除してやる」
「カイン。楽しんでる?」
「いや、怒ってる」
「顔が楽しそう」
「ダンジョンの魔物に比べりゃ、こんなの雑魚だからな。食えそうにないから殺しはしないが、手足の一本は貰ってやろう。まぁ俺は食わないから豚の餌にでもするけどな」
3分もすると、この騒ぎの取り巻きもだんだん増えて来て、結構な人だかりになった。
そこに人垣を押しのける様に、俺達を襲って来た男より更に醜く太った男が現れる。
「この街で騒ぎを起こす不届き物はお前か? さっさとその猫獣人を置いて出ていけ」
「おい、お前ら学習能力ってもんが無いのか? この状況でなんでそんな強気なんだ」
「解って無いのはお前だ。この街では亜人は商品以外の何物でもない、隷属の首輪をつけて無い猫獣人を連れてるお前が悪い」
「俺の連れを渡すつもりも無いし、掛かって来るならとことん相手をしてやる、手足が無くなっても文句言うなよ?」
俺がそう言うと、豚男の後ろから更に10人程の男が出て来た。
全員が武器を手にしている。
魔法のある世界だが、街中で攻撃魔法の使用は禁止されている。
これはこの国の法律だから、守られているらしい。
だが街中で禁止されているのはあくまでも攻撃魔法だ。
俺は攻撃魔法は使えない。
唯一使える俺の魔法は、生活魔法だからな。
10人が一斉に俺とチュールに向かってくる。
【穴掘り】
俺は生活魔法の穴掘りを発動した。
俺とチュール。
そして地面に縫い付けられた三人の男を中心に、ぐるっと円を描く様に、幅2m深さ3m程の穴を掘った。
するとどうなるか……
俺達に向かって武器を振り上げた男たちは、仲良く穴に落ちて一瞬で片付いた。
「街の道路の真ん中に穴を開けたままじゃ不便だから埋めなきゃな」
そう言って、魔法の鞄からスコップを取り出して、落ちてる男の上から土をかけ始めた。
「お、おい。やめろ。止めてくれ」
「あぁ? 人を殺すつもりで剣を振りかぶって襲ってきておいて、ちょっと分が悪くなるとそれか? かっこ悪すぎて、笑えないぞ?」
俺がそう言うと、後ろで立っていた、豚男がわめきだした。
「この男は、街中で魔法攻撃をしでかした。衛兵を呼んで捕まえさせろ」
「おいおい。豚男。お前は法律を理解しても無い癖に、知ったかぶりすると恥かくだけだぞ?」
「誰が豚男だ。今お前が魔法を使ったのはここに居る全員が証人だ。牢屋に放り込まれるがいい。その間にその猫獣人は奴隷として売り飛ばしてやる。猫耳幼女はいい値段が付くからな」
その会話をしながらも俺はせっせとスコップで穴を埋めている。
「わひっ。ぺっ。口に土が入った。止めろ。許してくれ。こんな死に方はしたくねぇ」
そうしているうちに、衛兵が駆けつけて来た。
この国では各地で門番をしたりする衛兵は、国の職員であり、領主の家来では無い。
これは、地方領主が戦力を持って反乱を起こす事を防止するためだ。
「何の騒ぎだ!」
「こいつ、この男が街中で魔法を使った。さっさと捕まえろ」
「おい本当の事か?」
「確かに魔法は使った。ただし生活魔法をな。これで捕まるのなら、風呂屋の水くみが給水魔法を使うのも、台所で着火魔法を使うのも全部捕まえなければならんぞ? 俺の知ってるこの国の法律で禁止されているのは、街中で攻撃魔法を使う事だったと思うがな」
「確かにその通りだが…… こんなに効果の大きな生活魔法なんて聞いた事も無い」
「そもそも俺は、攻撃魔法なんて覚えても居ないからな」
「そうですか。でも道の真ん中にこんな穴は困ります。責任もって朝までには埋めて下さい」
「それは了解です。そう言えば、穴に落ちてる男達と、そこに虫の標本みたいに張り付いてる男達は、俺に街中で俺の連れを渡せと斬りかかってきましたが、それは犯罪にならないんですか?」
「一応犯罪にはなるけど、今捕まえても、朝には釈放されるな。この街はそこの代官様の腰巾着には、甘いから」
「ただな、あんたはさっき冒険者証をみせただろ。Sランクの」
「Sランク冒険者はこの国では、ギルドにしか処罰が出来ないから、俺達はあんたにも手を出せない」
「ちょっと待て。俺の冒険者ランクはDの筈だが?」
「あれ? あんた自分でも知らないで隠蔽カード使ってたのか? あんたのランクはS。王都のマスターの承認刻印も入っているぞ。見た目はDに見えるが、門に設置してあるカード読み取りの魔導具に掛ければ解る事だ」
「なんだと……」
Sランク冒険者だと、町中の人間が集まってる前で言われてしまい、俺もドン引きだ。
「因みにSランク冒険者は、そこの代官様よりこの国での地位は高い」
王都ギルドのクソ親父やりやがったな。
人を勝手にSランク何かにしやがって。
ギースが知ったら、また馬鹿みたいに騒ぐだろうが。
サポートの癖に、Sランク何かにする必要は無いって……
あ、だから隠蔽カードで持たせてたのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます