第7話 ギルドマスター
「なんだと? 『ドラゴンブレス』がSランクダンジョン【絶望の谷】をクリアしただと」
その事実は、この王国で初めてのSランクダンジョンの攻略となる。
きっと、王宮でも大騒ぎになるであろう。
あの小僧どもが、立派になったもんだな。
戦闘職の四人に関しては才能はあると思ったが、ここまで大きく成長するとは思わなかった。
サポートの料理人『カイン』か、あいつがきっと鍵なんだろうな。
まぁあいつが、どの程度の実力かは、俺には見当がつく。
よく食材としてソロで狩って来た残り物の皮とか牙とか一人で納品しに来てたからな。
金にすると、クランに納めなきゃならないからと言って、次の探索に必要な魔導具やポーション類との交換にしていた。
「お前のとこはクランだから、魔導具やポーションはクランの経費で支給されるんだろう?」
「ああ。そうなんだけどさ、俺はソロで動く事が多いから、使う量が半端ないんで、金管理してるミルキーの視線が痛いんだよ。だから使う分の1割だけクランの経費で買って、残りはこうして自力調達してんだよ」
「それにしても結構な量を使うよな。金にすれば、月々金貨50枚分くらいか?」
「そうだな、1割分をクラン経費で買ってるのが、金貨5枚分だからそんな所だ。俺は弱いから道具がなきゃ、何もできないんだよ」
「普通の奴は道具があっても、出来ないから冒険者の商売は成り立つんだけどな」
「でもな、マスター。俺としては決してクランを裏切ってるつもりは無いけど、ここでソロで狩ってる分を魔導具に交換してるのは内緒で頼むな。俺が不正をしてる様に言い出す奴も出てくるかもしれないから」
「ああ。解ったよ。お前の納品は俺が直接受け取るから、必ず俺に渡すようにしろよ? ギルドの職員から話が漏れる可能性もあるからな」
◇◆◇◆
今回の件で、俺があいつらに対して、貴族位の申請を出してやった。
それ相応の実績に対して正当に評価を行う事は大事だ。
こう見えても、俺は王都のギルドマスターであるとともに、ヴィンセント公爵家の次男だからな。
家を継ぐことは無いが、この国の冒険者ギルドを纏め、各地で起こるスタンピード等への対処を、王宮からも任せられている。
王宮の兵士たちじゃ戦争は出来ても、魔物討伐では冒険者の方が優れてるからだ。
カインもやっと伸び伸び行動できるようになるだろう。
貴族になってしまえば、カインが奴らの子守をする必要も無いだろうし。
◇◆◇◆
「なんだと……」
王宮の使者に『ドラゴンブレス』のリーダー、ギースがカインの陞爵を断ったと連絡があった。
そしてその話は、既に王宮に報告済みで陛下からも許可を貰った後だそうだ。
「何故そうなったんだ?」
「料理人カインは【絶望の谷】最終階層のボス部屋への突入メンバーに含まれていなかったそうです」
「それじゃぁ、あいつらは……カイン抜きで、あのダンジョンの最終階層に辿り着き、ダンジョンボスのエンシェントドラゴンを倒したというのか?」
「そう言う話ですね。メンバーの誰に聞いても同じ答えですし、別段嘘をついてるようにも思えません。ただ……」
「ただ…… なんだ?」
「最終階層に突入してもそう強い敵は居なくて、最奥のダンジョンコアを守る部屋に突入したら、既に宝箱や、転移魔法陣が出現していたとの情報もあります」
「それはおかしいな。ここ200年は未踏破ダンジョンの攻略など成されておらぬから、正確な情報とは言えぬが、ダンジョンを最初に踏破しダンジョンコアに触れた物は、そのダンジョンのランクに応じたギフトを手に入れる筈だ。ギースはそのギフトを持っているのか?」
「それは、確認をしておりませんが、聖剣や秘薬を手に入れて持ちかえっております。若返りの秘薬を陛下に献上しておりますので間違いも無いかと」
「ほー、若返りの秘薬を献上するとか、欲の皮が突っ張ったギースにしては張り込んだな?」
「それも裏がある様で…… カインの貴族位を辞退したから、本来準男爵で陞爵予定だった、ギースの爵位が男爵へと変更されたようです」
「なる程な。準男爵と男爵では恩給も年間で金貨300枚分程も違うから、秘薬の一つや二つ渡した所で十分元は取れると言う算段か。ギースらしい小賢しさだな」
「何か対処はされますか?」
「陛下の承認が出ているんじゃ、この話は蒸し返せないが…… カインはどうしてるんだ?」
「故郷に帰って食堂を始めると言う話です」
カインの故郷は確か国境の村だったな。
畑と牧場しか無いような場所だが、そのうち様子を見に行くか。
流石にあの村にはギルドの支部も無いからな。
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