第6話 ドラゴンブレス②
(ミルキー)
私達のクランはとうとうこの国でNO1と言われるようになった。
全ての始まりは12年前にこの王都のギルドで、ギースとカインの二人組と出会った時からだったの。
田舎の農村から出て来たばかりだったギース達とは、ギルドの新人研修で出会った。
他にも、ハルクと言うやたらガタイのいい男の子と、フィルと言う回復魔法を使う女の子が、この新人研修で一緒になったの。
年齢は、ギースとカインはちょっとお兄さんでその時で17歳だったかな?
ハルクが15歳、私が13歳、そしてフィルが12歳だった。
新人研修の講師でもあった、ギルドマスターの勧めでそのままパーティを組んでみる事になった。
偶然と言うか、職業のバランスも良かったし…… 何よりもそれぞれのメンバーに才能が有ったと思う。
微妙なのは料理人と言う職業スキルを持つカインだった。
カインは私達が一緒に居る場所では戦闘をしない。
ただ、引っ付いて来てパーティの経験値を掠め取るような存在だった。
だから私は、ギースに言った。
「カインって戦闘しないんだから、パーティに入れてる必要無いんじゃないの?」
「まぁ待てよミルキー。カインが居ないと自分で荷物持ったり、料理作ったりしなくちゃならないんだから、そんなの嫌だろ?」
「まぁそうだけど。でも戦闘しないんだし、一緒に来るのは構わないけど、経験値分けるのが納得いかない」
私がそれでも食い下がって見たらカインはあっさり「別にいいよ?」と言ってパーティと一緒に行動はするけど、パーティメンバーには入らないという事になる。
それから私達は順調に冒険者としての経験を積み、ついにはクランを立ち上げる事になった。
このクランと言う制度は、冒険者の生活を安定させるんだよね。
冒険者活動で得た収入は全てギルドからクランに対して支払われる。
それって冒険者損なんじゃない? って思うかもしれないけど、冒険者は常に安定した収入がある訳じゃ無いから、怪我をしたり依頼に失敗する時などもあるし、安定しない職業ではNO1だ。
だけどクランに所属すると、基本的に毎月決まった額が安定してクランから給料として支払われるし、探索に必要なポーションや魔導具、武器はクランが支給してくれる。
高額なドロップ品を納品した時には、ちゃんとボーナスも出る。
私達の様な、ランクの高いクランだと、普通では受けられないような割のいい依頼も、ギルドから優先的に回って来る。
だから私達のクラン『ドラゴンブレス』には入隊希望者が後を絶たない。
給料だって、実力に応じてきちんと評価して貰えるしね。
まぁ殆ど、私とギースが決めてるけど。
ギースは月に金貨50枚、500万ゴル。
私やハルク、フィルは金貨30枚。
他のパーティのリーダークラスで金貨15枚
戦闘職の隊員で金貨10枚
サポート職の隊員でパーティメンバーとして活動すれば金貨5枚
パーティ外での補助だと、金貨1枚が基準だ。
みんなパーティメンバーになる為に必死に、スキルアップに努力する。
カインはパーティ外での活動だけど、一応サポート部隊のリーダーって事にして上げてるから、金貨1枚と銀貨5枚。
普通の街の人達が一月働いて得る収入は、金貨一枚になるかならないかだから安くは無いでしょ?
探索に必要な魔導具は、クランが用意するんだしね。
それにしても、カインのやつって、魔導具の消費が多いんだよね。
カインが使う魔導具の購入費だけで、月に金貨5枚分は使っているから、あいつはきっとクランの資金で買った魔導具を横流しとかしてるかもしれない。
証拠を掴んだら絶対許さないからね。
そう思ってたけど、ギースはとうとう決断してくれた。
カインをやっとクビにしてくれた。
これで、私の中のモヤモヤした感情は落ち着くかな?
と思ってたけど……
なんで私達バラバラのパーティなの?
今までずっと一緒に行動したメインパーティはそれぞれがリーダーになり、切磋琢磨しながらさらなる『ドラゴンブレス』の名声を得るためだとギースは言った。
でも…… ギース。
あんた、もうダンジョン潜る気ないでしょ?
クランのメンバーの中でも実力が上位とは言えないけど、見た目だけは優れた隊員ばかりを集めて、ギースのパーティメンバーにしてるし、やたら華美な防具や武器を身につけさせてるし、斥候職のクノイチのアンナだってめちゃ煌びやかな装備を、クランの資金で買い揃えていた。
斥候が目立ってどうするの?
サポートに選んだスーザンだって、職業スキルは美容師だよ? ダンジョンで美容って何の役に立つの?
「俺のこれからのメインの仕事は、よりランクの高い仕事を取って来る事だ。その為に必要なのは貴族たちとの社交界での交渉であって、剣の腕では無い。今回手に入れた聖剣『ゼクスカリバーン』と聖鎧『ホーリークロス』を身につけ、白銀の装備で統一した俺の新たなパーティを引き連れて社交界を歩くだけでその威光に他の高位貴族たちが近寄って来るからな。なにしろ俺はこの国で唯一【勇者】の称号を持つ男だから」
言ってる事が解らないでも無いけど、私達が育てて来た『ドラゴンブレス』はどうなるのかな?
◇◆◇◆
(フィル)
私だけは知っている。
カインお兄ちゃんの実力。
でも……カインお兄ちゃんは、私が言おうとすると、唇に指を当ててウインクする。
カインお兄ちゃんの実力に気付いたのは、パーティを組んで間もない頃だった。
私は確かに、優れたスキルを得ていた。
回復魔法も使えて、仲間の能力を伸ばすバフスキルも使える。
聖魔法を弓に纏って光の矢を打ち出す事も出来る。
とても恵まれたスキル構成で、将来を期待された。
でも私には欠点があった。
魔力がとても少ない。
優れたスキルを身につけていても、魔力が無ければ使えない。
私は実は…… 役立たずだった。
「どうしたフィル。魔力切れか?」
そう声を掛けて来たカイン兄ちゃんが、私におにぎりを差し出して来た。
「これ食って頑張れ」
頑張りたいけど、魔力が無いと何もできないんだよ……
そう思いながらも、おにぎりを頬張った。
すると身体中に魔力がみなぎる感覚を覚えた。
魔力欠乏状態でなかったら、気づかなかったかもしれないけど、明らかに今のおにぎりを食べた事で、魔力は回復した。
「美味いだろ? 1時間くらいは効果は持つから安心しろ。今度から食事は自動魔力回復効果があるような物にしてやるから、しっかりと戦えるぞ」
何言ってるのこの人? そんな神がかった食事なんてあるわけ…… 目の前のおにぎりを見て……
あるんだ…… と思った。
それからの私は、パーティでも大活躍できるようになった。
でも、みんなのカインお兄ちゃんの扱いは酷い。
私は聞いた。
「ねぇカインお兄ちゃんってなんで言わないの? 自分の実力」
「フィル。俺はな魔物であれ人であれ出来れば殺したくないんだ。ただし美味しく食べるために必要だったり、仲間を守る為に必要だったりすれば、しょうがないから戦うけどな」
「じゃぁやっぱり、いつも魔物が少ないのとか罠が無いのって、全部カインお兄ちゃんがやってる?」
「まぁそうだな。大体旨そうな魔物肉は、強いやつが多いから、食材補給してるとある程度は倒してる。でも、ギースやフィル達にとって戦い易そうなのとかは、全部残してるからな。俺が倒すのは相性的にギース達が戦いにくいのだけだよ。時々は美味そうなやつは狩ってるけどな」
「そっか。ありがとうカインお兄ちゃん」
「でも、ギースやミルキーはプライドが高いから、言わないようにな」
この人の本当の実力ってどれだけ高いんだろう? そう思ったけど結局その実力を目の当たりにする事は無いまま、カインお兄ちゃんは、クランをクビになった。
理由は、私の回復やバフが届かなくなったからだ。
戦闘は見る事なかったけど、結局倍以上のレベルの開きがあったんなら、私がカインお兄ちゃんを勝手に高く評価し過ぎてただけなのかな?
今は私もレベルが上がり、魔力不足もほとんど解消されている。
カインお兄ちゃんの美味しい料理が食べれないのだけは、寂しいけど……
いつか、時間のある時にカイン兄ちゃんの田舎を訪れてみよう。
あの美味しいおにぎりを食べたいから……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます