第2話 猫耳少女チュール

 飯を食い終わって、燃やした場所の方を見ると、火は殆ど消えかかっていた。

 まだこの状態じゃ、死体は骨にまではなって無いだろうが、鍵を探さなきゃならないし、しょうが無いな。


「どうする? 死体は見たくないだろ? ここで待ってるか?」

「イヤ、一人は怖いから。カインと一緒に行く」


「じゃぁ付いて来い」


 俺は猫耳少女を連れて、馬車へと戻った。

 生活魔法の給水で馬車の上から水を掛ける。


『ジュワァアアアア』と音がして水蒸気が立ち込める。

 意外に勢いよく燃えてたようで、既に死体は骨になっていた。

 生焼けの状態の死体を見るよりは良かったな。


 隷属の首輪の鍵を探すが、見当たらなかった。

「ありゃ鍵が無いな。もしかして魔法の鞄の中とかに入れてたか鍵?」


 そう猫耳少女に聞くと頷いた。

 少し顔が引きつってる。

 まぁ、白骨死体がたくさん並んでるのを見れば顔もひきつるよな。


「どうやら、山賊の生き残りが魔法の鞄を奪って逃げたようだな。魔導具は火で焼いたくらいじゃ無くならないから間違いないだろう」


 このままじゃ、この猫耳少女も困るだろうし、鍵を取り返しに行くか。


 その前にこいつらもこのままじゃ気の毒だ。

 そう思って、生活魔法の穴掘りで地面を掘る。

 一度の発動で、5mくらいの深さで、直径3m程の穴を掘り、生活魔法の送風で馬車を穴へ吹き飛ばす。


 その様子を見てた、猫耳少女の顔がさらに引きつっていた。

 そして、もう一度生活魔法で穴を埋めた。


「カイン。生活魔法ってそんなのじゃ無いと思う」

「なんでだ? 俺は魔法は生活魔法しか使えないから間違いなく生活魔法だ」


「うーん…… まぁいいよ」


 馬車を埋め終わると、山賊が逃げて行った方へと足を進めた。


 怪我をしていた様で、結構な量の血痕が点々と続いている。

 これなら、見つけ出すのは難しく無いな。


 そこから20分ほど森の中へ入って行くと、草むらの中へと血痕が続いているのを見つけた。

 ここが、隠れ家か……


 慎重に草むらの草をかき分けると、洞窟を見つけた。

 洞窟の奥で影が揺れて見える。

 篝火かがりびを燃やしているのだろう。


 俺は、入り口に猫耳少女を待機させて、腰のステーキナイフを構え、隠密スキルを発動しながら、奥へと向かった。


「お頭ぁ。仲間は死んじまったけど結構な額の収入でしたね」

「まぁ。仲間はまた集めればいいだけだ。また奴隷商人でも見つければ、その奴隷を奪って仲間の替りにしても良いしな。その方が分け前も払わなくて済むし、肉壁替わりにも使い易い」


「しかし、あの狼どものせいで、ひでぇ怪我しちまった。ポーションが無けりゃ死んじまってましたよ」

「今日はゆっくり休め。明日は仲間を探しに街に向かうぞ」


「解りやした」


 どうやら二人だけのようだ。

 これなら大したことは無い。

 一応山賊と言えども、俺に何かしたわけじゃないし、鍵さえ渡すなら放っておいても構わないんだがな。


「おい、山賊。奴隷商人から奪ったバッグの中に鍵があるだろ。それを寄越せ」


「な、なにもんだきさま」

「通りすがりの料理人だよ」


「通りすがりでこの洞窟が見つかる訳ないだろうが。お前は一人か」

「ああ。一人だ」


 へぇこいつらって、意外に統率取れてるんだな。

 そう思いながら、俺は右斜め後ろに向かって、ステーキナイフを投げた。

「ペゲェ」


 もう一人の男が構えた剣を握っていた右腕に突き刺さる。


「俺は食えない物は殺したくないんだけどな?」

「ま、待て今のはこいつが勝手にやっただけだ。そいつはどう扱っても構わねぇ、俺だけは見逃せ。そ、そうだ仲間になれば稼ぎは折半だぞ。攫った女も抱き放題だ。楽しいぞ山賊は」


「お前人の話聞いてたのか? 食えない物を殺す趣味は無いと言っただろ? 山賊なんてまっぴらごめんだ」


 そう言ってる俺に向かって、目つぶしの砂が入った目つぶし玉を投げつけて来た。

 俺は素早く背中に下げた鍋の蓋を構えて、目つぶし玉をはじき返す。


 おまけに生活魔法の送風で辺りに散らばった砂も全部、山賊のお頭に飛ばしてやった。

 自分で投げつけて来た目つぶし玉で視界を無くしてる。


「お前ら、気持ち良いほど屑だな。食えない物を殺す趣味は無いが、攻撃されるなら話は別だ。ちょっと俺の目的の物を見つけるまで穴にでも入ってろ」


 そう言って生活魔法の穴掘りで、5mの深さの穴を掘り、お頭と子分Aを穴に放り込んだ。


「自分で出れるなら助けてやる。出れなきゃ飢え死にするだけだ。精々頑張れ。ここにある荷物は俺に攻撃しようとした慰謝料代わりに貰っていってやる。大事に使ってやるからありがたく思え」


 辺りにため込んであるお宝を、一通り俺の魔法の鞄に放り込み、篝火の火を水をかけて消してやると、猫耳少女の待つ入口へと戻って行った。


「この魔法の鞄が、お前を連れてた奴隷商人の物なのか?」

「うん」


 中身を出すと鍵束も入っていた。

 他にも未使用の隷属の首輪も20個ほど入ってる。

 売ればいい値段になるが俺には必要ないかもな。

 まぁ魔法の鞄に入れてる間は、重さも感じないし取り敢えず入れとくか。


 鍵束の鍵を片っ端から猫耳少女の首輪に試すと、無事に隷属の首輪の解除に成功した。


「やっと、外せたな。これでお前は自由だ。どこへでも好きな所に行って自由に生きろ」

「ありがとう。カイン。私の名前はチュールこれからよろしくね」


「おい、人の話聞いてたか? 何処へでも好きな所に行って自由に生きろ」

「うん。だからよろしくねカイン。カインのご飯美味しかった。生まれてから今までで一番美味しかった。だからカインの側が一番私の居たい所。駄目?」


 上目遣いでこっちを見る猫耳少女チュールに懐かれたようだ。

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