美味いだろ? ~クランをクビになった料理人の俺が実は最強~
TB
第1話 料理人カイン
「どうだ、美味いだろ?」
「うん……」
俺の目の前に居るのは、8歳くらいの女の子だ。
首には鋼鉄の隷属の魔導具を嵌められた、まぁ見た目通り、奴隷として売られている途中だったんだろうな。
頭には猫耳が生えている。
猫人族の女の子は奴隷市場でも人気だしな。
この世界では亜人に対しての扱いは良くない。
見つければ、さらって奴隷にするなんて言う不当な行為を責め立てる者も少ない。
この子の様な獣人やエルフと呼ばれる森人、それとドワーフと呼ばれる窟人。
辛い思いをしてるだろうな……
俺は、彼らが普通に優れた種族だと知っているから、人間と同じように扱うけどな。
むしろ人間の方が、屑が多い事もよく知っている……
何故そんな女の子と一緒に飯を食ってるのかって?
奴隷を買ったのか? そんな金は無いよ。
攫ったのか? 冗談…… そんな事をして捕まれば死罪だぜ。
◇◆◇◆
運が良かったのか、悪かったのか、俺が通りかかったこの場所で奴隷商人ののった馬車が、山賊に襲われていた。
俺は一人で地元へ帰る旅の途中だった。
タイミングがちょっと早けりゃ襲われてたのは俺だったかもな。
奴隷商人と山賊じゃどっちもどっち、関わらない方が良いな。
そう思ったが、かといってこの山の中で、街道を外れて歩けば簡単に魔物に襲われる。
こいつはちょっとこの騒ぎが収まるまで、距離を取って飯でも食っておくか。
そう思い、状況がギリギリ見える高台の上で、竈を組んで飯を作っていた。
材料は、干し肉とこの辺りで採った山菜とキノコと米で炊き込む雑炊だ。
この干し肉は、ミノタウロスのスネ肉だが、そのまま焼いても筋っぽいばかりで全然食いにくい肉だ。
その肉を特製の調味料に漬け込んで干して置く。
そうすると、こうやってスープの材料に使うと、とてもいい出汁が出るんだ。
そして水からじっくりと煮出すと、トロトロになって食っても旨い。
この調理法を知ってるやつは少ないと思うぜ。
俺は自分で見つけ出したがな!
沸騰したら野菜を加える。
野菜が煮えると、これも携帯食用に一度蒸してから干して置いた米を加える。
こうする事で調理時間も節約できるし便利なんだぜ。
米が良い感じで戻れば、出来上がりだ。
スネの干し肉とキノコから出た極上スープを、米がしっかりと吸い込んで、美味そうだ。
そろそろ、山賊どもの争いは終わったかな?
そう思って、争っていた方に目をやる。
すると思わぬ展開になっていた。
双方が8人ずつ程で争っていた場所に、血の匂いに誘われた狼の群れが襲い掛かっていた。
あいつらは…… グレーウルフに統率のレッドウルフ迄いやがる。
どっちにしても、お互いの戦いで傷付いた状態の山賊どもでは無理だな。
ああ、奴隷商人の方は全滅か。
馬車も倒されて…… ヤバイ、罪もない(あるかも知れないが)奴隷たちまで、狼に襲われ始めた。
こいつはしょうがないな、奴隷商人や山賊が死ぬのは自業自得だが、奴隷たちが死ぬのは可哀そうだ。
距離があるから間に合うかどうかは、微妙だが……
美味しそうな湯気を立ててる雑炊は、ちょっと後回しだ。
俺は、狼たちに向かって駆けだした。
腰に差したステーキナイフは12本。
フォークも12本。
後は、捌き包丁が一本。
これが俺の武器の全てだ。
まぁこの程度の相手ならな。
狼まで50m程の距離まで近寄ると、ステーキナイフを両手に5本ずつ持ち一気に投げた。
それぞれのナイフは、確実に目の玉に突き刺さりその命を刈り取る。
「あーあ。洗わないと食事に使えねぇな」
奴隷商人の馬車に近寄るが、手足を拘束されたままに馬車が倒されてしまっていて、逃げる事も出来ずに、狼に殺された奴隷が5人居た。
「間に合わなかったか。スマンな」
そう言いながらも、誰も居なくなっていた馬車から金目の物だけもらっておく事にした。
馬車の中には奴隷を売る時に着せる洋服程度しかない。
それでも幾ばくかの金にはなるから俺の魔法の鞄に収納していく。
その時だ、馬車の中で何かが動いた。
おっと、狼を取り逃してたか。
腰の捌き包丁を右手で逆手に構えた。
「待って、殺さないで」
女の声だった。
いや、女の子だな。
声の聞こえた場所の布をはがすと、猫耳を生やした女の子が現れた。
猫獣人は、体も柔らかく身体能力も高いから、馬車が倒れた衝撃からも逃れて、狼の襲撃も受けずに済んだんだろうな。
だが、手足は縛られた状態で、首に隷属の首輪も嵌ったままだ。
奴隷商人側は護衛も含めて8人全員が死んでいた。
山賊側は、6人分の死体しかない。
奴隷商人の金品は山賊の生き残りが持って逃げたのか……
このまま死体をここに置いていたら、どんどん魔物が集まって来るからしょうがないな。
狼の死体と、山賊と奴隷商人の死体を集めると、馬車に放り込み、生活魔法の着火で火をつけた。
そして、猫獣人の女の子一人が残った訳だが、盛大に腹の虫を泣かせていた。
「腹減ったのか?」
「うん」
「名前は?」
「ない」
「ない、って名前か?」
「違う、名前が無いの」
「親は?」
「殺された」
「親に貰った名前は?」
そう聞くと、首輪を指さした。
あーそういう事か。
隷属の首輪の制約で本名を名乗れない契約になってるんだな。
本当に糞な魔導具だ。
「首輪の鍵は?」
「奴隷商が持ってた」
ありゃ勢いよく燃えてっから、消えるまで取り出せないな。
「まぁしょうが無い。飯でも食って消えるのを待とう」
そして、さっき雑炊を作った場所に戻って、取り敢えずこの女の子に食わせたわけだ。
「火が消えたら、鍵を探してやる。鍵が見つかればお前は自由だ。好きに生きろ」
「おじさんの名前は何?」
「おいおい、俺はまだ30前だ。お兄さんって呼べ」
「解ったおじさん。名前は?」
「……カインお兄さんだ」
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