第3話 魚を獲る

 旅の途中で出会った猫耳少女チュールに懐かれた俺は、故郷への道のりを二人で歩いていた。


「そろそろ飯にするぞ」

「うん」


 ここはやっと山を下り、道沿いに流れる川に並行した街道だ。

 俺はチュールと共に、川原に降りた。

 

「チュール。薪に使う枯れ枝を集めてこい」

「うん」


「何か食べたいものは在るか?」

「カインの作る料理なら何でもいい」


「そうか。じゃぁちょっと待ってろ」


 そう言って俺は料理の支度を始める。

 料理の基本は食べる人の顔を思い浮かべて作る事だ。


 今はチュールの美味しそうに食べる姿を想像して手早く準備をする。

 そうだな。


 俺がクランで可愛がってたあの黒猫は、魚を喜んでたな。

 チュールもきっと喜ぶはずだ。


 魚か…… 


「チュールちょっとだけ材料獲って来るから、薪を集めたらここから離れるなよ」

「うん」


 川辺に向かい、手を川に浸ける。

 中々綺麗な水だ。


 こんな川に住む魚なら間違いなく美味いな。

 俺は、川に浸けた手に生活魔法の発電を放った。


 一瞬川面かわもが青白く発行すると、あちらこちらで、白い腹を見せた魚が浮かんだ。

「あちゃ。ちょっと獲れすぎだ」


 だがまぁ大丈夫。

 俺は獲った獲物は責任もって美味しくいただくと決めてるからな。


 魔法の鞄から長い柄のついたタモ網を取りだして、見える範囲で浮かんでいる魚をかき集めた。

 イワナにヤマメ、アユにフナ、ナマズにウナギ、すっぽんも居るな。


 その中で形のいい物だけを選んで他の魚はそのまま川へ戻す。

 すると、電撃で痺れていただけの魚たちは、プルプルっと震えた後に、無事に泳ぎだす。


「美味しそうに育つまでは、元気に生きろよ!」


 そう声を掛けて置いた。


 50匹程の獲物を集めるとその場で自慢の捌き包丁を取り出して、素早く下処理をする。

 ほんの10分程だ。


 俺が下処理をしてると、チュールが顔を覗かせた。


「凄い。お魚一杯ー」


 今からすぐに食べる分を除いて、他の魚は2枚に開いて塩を当て、川原に干して置く。

 そして竈を組み、火に鍋を掛ける。

 同時進行で、羽釜を取り出して米も炊く。


 野菜は付近を見渡すと、セリが自生していた。

 お、薬草もあるな。


 ついでに摘んでおく。

 今から食べる分の6匹程の魚に、手早く串を打ち、竈の周りにさして、遠火の強火で焼き上げる。


 火を通し過ぎない程度の焼き加減が大事だ。

 だからと言って、皮目に焼き色がつかないほどでも駄目だ。

 料理はバランスだからな。


 焼きあがった魚を、みそ仕立てで仕上げたスープに放り込み、セリも加えて一煮立ちだ。

 羽釜のご飯も炊きあがった。


「さぁチュール食うぞ」

「うん」


「どうだ? 美味いだろ」

「うん」


 チュールの頭の耳と、尻尾がぴょこぴょこ揺れている。

 気に入ってる様で何よりだ。


 食べ終わって、チュールと二人でお茶を飲んでいると、ガサガサっと大きな音がした。

 なんだ? と思って、音のした方を見ると、熊の魔物がそこに居た。


 クレセントベアーだ。

 ツキノワグマが魔物化したやつだな。


 あろうことか、俺が干していた魚を食ってやがる。

 許せねぇ。


 魔物化したこいつは身長3m程もあり、瞳が赤い。

 まぁ魔物と獣の違いは瞳の色で一目瞭然なんだがな。

 魔物は魔素の影響で、瞳が赤く光る。


 俺は、捌き包丁を構えて、クレセントベアーに立ち向かう。

 

「俺の魚を食った罰は、てめぇの身体で払いな」


 俺は刃渡り20㎝程のミスリル製の捌き包丁を構えて、クレセントベアの目を見据え、一気に駆け抜けた。


「ドサッ」


 二本足で立っていた、クレセントベアーの右足の関節を的確にとらえて、一撃で斬り飛ばす。

 当然、バランスを崩して倒れる。


 倒れながらも、両腕を振り回し攻撃をしようとして来る。

 次は左手首を跳ね飛ばす。

 次は、右手首。

 その次は左足。


 最後に首筋を跳ね飛ばして、止めを刺した。


「こいつはでかいから、肉は当分困らないな。掌がはちみつがしみ込んで美味いんだよな。夜は掌の煮込みだ」


 チュールは俺が熊と戦う姿を、目を見開いて見てた。

 

「ねぇカイン。おかしくない?」

「なにがだ」


「この熊。かなり強いと思うのに、カインはもっと強い」

「あーそれか。食材を仕入れるのは料理人の仕事だからな」


「普通の料理人は食材は買うんだと思う」

「俺は、戦闘職じゃ無いから、稼ぎが悪かったし買う余裕は無かった」


「……この熊でも普通に売れば、一か月は生活できると思うよ?」

「そんな訳あるか。俺は今までクランメンバー20人の食事を世話してたんだ。こんなの一頭じゃ3日分が良い所だ」


「カイン。そのクランのメンバーって食費は払わないの?」

「なんでだ? 俺は料理人だ。仲間の料理は俺が用意するのが当たり前だろ?」


「カイン良い人だけど馬鹿?」

「どこがだ?」


「でもそのクラン。カインが居なくなったら、きっと困ってる」

「そんな訳あるか。俺は約立たずだからクビだって言われて放り出されたんだからよ」


「馬鹿だ」

「馬鹿じゃねぇ」


「違う。そのクランが」

「そう思うか?」


「うん」


 俺は、クランを首になって今日まで一週間程を、悔しいと思いながらも表情に出さない様にして、一人で故郷を目指していた。


「なぁ、チュール。言ってもしょうがない事なんだが、ちょっとだけ愚痴に付き合ってくれるか?」

「うん。カインの話聞きたい」


 そして幼い猫人族の少女『チュール』に、話を始めた。


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