第63話 お背中流します逆バージョン

 夜のランニングはすっかり日常として定着していた。

 精力のつきそうな食事をして、毎晩走る。

 そんな健康的な生活をしているからか、ずいぶんと最近は調子がいい。


「今日は川沿いに少し先まで走ってみようか?」

「バテないでよ?」

「玲愛こそバテるなよ」


 夜風が火照った肌を冷やしてくれて心地いい。

 足は軽いし、お腹も痛くならない。

 無心で走っていると高校時代を思い出した。



「あー、疲れた」


 家に到着すると玲愛ははぁはぁと荒い息遣いでぺたんと座り込む。


「休憩したらもう一周走ろうか」

「えー!? マジ無理! 勘弁して」

「冗談だよ」

「いじわるな冗談はやめてよね」


 少し涙目の玲愛はちょっと可愛かった。

 俺はちゃんと玲愛を女性として見ているし、愛している。


 家に入ると玲愛はそのまま浴室へと向かう。


「なあ玲愛、今日は一緒に入ろうか?」

「はあ!? ダメ。恥ずかしいし」


 玲愛は逃げるように浴室へと消えていってしまう。


「やれやれ」


 あの夜以来、玲愛といちゃいちゃすることはあっても、夜を共に過ごそうとしたことはない。

 たまに誘いをかけても「まだダメ」と拒まれてしまっていた。


 視線を感じて振り返ると脱衣所のドアから半分顔を出した玲愛がこちらを見ていた。


「どうした?」

「やっぱいいよ。一緒に入っても……」


 それだけ言うと玲愛はスッと消えてしまう。


 半分冗談だったのでちょっとドキドキしながら浴室へと向かう。


「え?」


 驚いたことに浴室はおろか脱衣所の電気まで消えている。


「電気つけちゃダメだからね!」


 浴室から玲愛の声が聞こえる。


「真っ暗の中で入るのか?」

「闇風呂っていってリラックス効果高まるの。知らないの?」

「闇風呂ねぇ……」


 服を脱いで浴室に入ると玲愛が身体を洗っていた。


「ちょ、もう入ってきたの!?」

「ジャージだから脱ぐのすぐだし」

「だとしてももっと躊躇わない?」

「俺が洗ってあげようか?」

「結構です。きゃはっ! い、いいってば!」


 逃げようとする玲愛を捕まえて背中を洗う。


「そういえば玲愛がこの家に来た初日、いきなり俺の身体を洗いに来たよな」

「あー、うん。そんなこともあったねー」

「あのときはまさか逆に俺が玲愛の身体を洗う日が来るとは思わなかった」

「そうなんだ? あたしはこうなる日が来るって信じてたよ」


 玲愛は首だけで振り返り、薄暗闇の中で静かに笑う。

 それがキスをして欲しいときの顔だって、今ならちゃんと分かる。

 そしてそれに答えられる俺もいた。


 肩から腕、脇腹と洗い、つるんっと滑ったように胸に触れる。


「そこはいいってば……や、手つきがやらしいよ」

「おとなしくして。洗いづらいだろ」

「えっち……あっ、も、もう……」

「玲愛もここ、洗ってくれただろ?」

「もう忘れたし……はぁっ……」


 お腹も脚も泡まみれにしていく。


「あと洗ってないところは、ここかな?」

「そ、そこはいいから」

「ちゃんと洗わないとダメだろ」

「バカ……そこはっ、じぶんでっ……はうっ……」

「石鹸が染みていたい?」

「……ううん。気持ちいいよ」

「かわいい顔してる」

「茅野さんはエッチな顔してる」

「ねぇ、あたしも洗ってあげる」


 玲愛が振り返り、お互いを洗い合う。

 意味もなくたくさんお互いの名前を呼びあい、優しく、時に激しく、求め合うように洗い合う。


「あ、なんか結構おっきくなってない?」

「そうだね。でももっと大きくなるんだよ」

「えっマジで!? もうかなりおっきいと思うんだけど、これより膨らむワケ!?」


 玲愛はちょっと顔をひきつらせて笑う。


「そんなの入んないよ」

「大丈夫だよ」

「痛いんじゃないの?」

「そりゃ最初はそうかも」

「む、ムリムリ! 痛いのとか、無理だし」

「慣れるよ」

「うー……怖いよぉ。あ、本当に膨らんできた」

「あ、本当だ」


 希望の光が見えた瞬間、またゆっくりと萎みはじめてしまった。


「あー、残念」

「なんか嬉しそうだな?」

「ソンナコトナイヨー。残念ダナー」


 泡を流してから一緒に湯船に浸かる。

 せっかく暗闇でリラックス効果を高めているのに、肌を密着させているとドキドキするからブラマイゼロだ。


 先に上がってタオルで身体を拭きながら『走らぬ名馬』を見下ろす。

 こうなる前はたとえば仕事で人と話してるときになんの脈略もなく膨らんだり、毎朝起きるとカチカチになってトイレを苦労させたくせに。

 肝心なときに役に立たないなんて困ったやつだ。





 ────────────────────



 どぶろっくさんのスタンドアップという曲があります。

 ラストはなんとなくそれを思い出しながら書いてました。

 よかったら聴いてみてくださいね。


 さてイチャイチャラブコメもここに極まれるといった具合になって参りました。

 なんかこのテイストが気に入ったのでこのままイチャイチャをあと十万字くらい書きたい気分ですw


 でもまあそうもいかないのでお話は進んでいきます!







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