第60話 一番のしあわせ
はじめての夜に勃たない。
そんなとんでもない事態になってしまったのに玲愛は俺の心の心配をしてくれた。
皮肉な話だけどそれでますます玲愛を愛おしく感じてしまった。
パジャマを着直した俺たちはそのまま玲愛のベッドで寝ていた。
シングルベッドなので狭いけど、密着出来るので逆に都合がよかった。
「ごめん、玲愛」
「ううん。気にしないで。それに何となく嬉しいし」
「え? どうして?」
「おっきくならなくなっちゃったのって、なんか一回リセットされたみたいでしょ。ちゃんと治って普通に出来たら、はじめて『した』みたいなものじゃない?」
果たしてそうなのかはよく分からないが、前向きな玲愛の解釈は俺の心を楽にしてくれた。
「やっぱり病院で見てもらった方がいいのかな」
「んー、それもいいと思うけど、あたしがなんとかしたいな」
玲愛はちょっと恥ずかしそうに笑う。
「きっともっと『玲愛ちゃん大好き!』って気持ちにさせたら自然と治るんじゃないかな?」
「どうだろう? よく分からないけど心的な要因だったらそういう気持ちは大切なのかもしれないね」
「とにかく焦るのが一番駄目だよ。落ち着いてゆっくり向き合っていこうね」
「でも難しいかな」
「なんでよ? やってみなきゃ分かんないでしょ」
「いや、そうじゃなくて。今でも玲愛のことが大好きだから、それを越えるくらい好きになれるかなって」
「なにそれ? あたしもー! ってバカップルじゃん、あたしたち」
「バカップルならきっとここでキスだね」
「絶対するよねー」
笑いながらチュッとキスをした。
唇が重なる度に、ますます玲愛が好きになる。
職場では少しづつ課長代理にも慣れてきた。
関野課長の偉そうなやり方が大嫌いだったので俺なりのやり方だけど。
一日働くとクタクタだが、家に帰れば玲愛がいる。
その嬉しさだけで一日頑張れるし、また明日も頑張ろうという気持ちにもなれた。
家に帰るのが楽しい。
これ以上の幸せはないと思う。
大金持ちだろうが、部下が何万人いようが、世界一の美人が妻だろうが、家に帰るのが憂鬱なら幸せとはいえない。
昨夜は勃たないというハプニングで焦ったが、「焦らなくていい」という玲愛の一言に救われた。
年下なのに時おり驚くくらいの包容力を感じる。
「ただいまー」
「お帰りなさい。あ、な、た!」
「それはまだ早くない?」
「いいの。やってみたかったんだから、」
俺の帰宅時間を伝えてあったから、テーブルには出来立ての料理が並べられている。
鰻の蒲焼き、レバニラ炒め、とろろ……
あれ? なにこのあからさまな精力増強メニュー……
焦らなくていいんじゃなかったっけ?
「ずいぶんたくさん作ったね……あはは」
「全部食べてね!」
玲愛はほんのり頬を染めてにっこりと微笑む。
可愛いけど、心なしかちょっとえっちな顔に見えてしまう。
食後しばらくすると玲愛がジャージを二着持ってきた。
「じゃーん。青とピンクでお揃いだよ」
「どうしたの、それ?」
「今日からこれを来てジョギングをします!」
「えっ……マジで?」
正直仕事終わりに運動したいという気分にはあまりならない。
「ネットで調べたけど、こういうのってストレスが原因なことが多いんだって。スポーツとかして発散するといいと思う」
「なるほど」
食事療法の次は適度な運動か。
なかなか色々考えてくれているようだ。
春の夜の清々しい肌寒さの中、準備体操をしてから走り出す。
「どこを走る予定?」
「初日だからあまり遠いと疲れちゃうと思うんだよね。川の脇にある公園に行って、そこから引き返してこよう」
「オッケー」
走るのなんて何年振りだろう?
普段歩いている道も夜に走ると違って見える。
「きもちいーね」
「あんまり張り切りすぎてバテるなよ」
「全然平気だよ」
さすがについ先日までJKだっただけはあり、体力はあるようだ。
足取りは軽く、息ひとつ切らしていない。
一方俺は情けないことに早くも脇腹が少し痛い。
折り返し地点の公園につく頃には息も上がり、足取りも重くてヘトヘトだった。
「大丈夫?」
「久々に走るのがこんなにキツいとは思わなかったよ」
「無理したら意味ないよ。歩いて帰ろうか?」
「休憩したら大丈夫だから」
「そう? じゃあ五分休憩ね」
帰り道は緩やかな下りということもあってか、行きよりは楽だった。
「あー、疲れた」
「お疲れ様! スッキリした?」
「そうだなぁ。確かに少しはスッキリしたかも」
溢れてくる汗を拭きながら息を整える。
これでストレスが消えて勃起不全が治るのかは分からないが、玲愛と二人で夜のジョギングというのも悪くないなと感じていた。
────────────────────
ちょっといちゃつきすぎなんじゃないのか?
──神奈川県 三十代男性
爆発はいつですか?
──富山県 二十代女性
甘えけりゃいいってもんじゃねぇからな?
──東京都 二十代男性
たくさんのお声が私の心の中に届いてます。
甘々ですいません。
付き合ってからのラブコメは糖度が高すぎですね!
次回も赤面しながら読んでください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます