第61話 大人の勉強会

 ジョギングは無事四日目を終え、三日坊主は脱せられた。

 不思議なもので三日目まではキツかったのに、四日目はずいぶんと楽に感じられた。


 走り終えたあともそんなに息が切れておらず、まだまだ走れそうな気さえする。

 でもそんなことを言うと距離を伸ばされそうなのでひとまず黙っておく。


「今日はこの後動画での講習だよ」

「上手な走り方のコツでも学ぶのか?」


 凝り性の玲愛はなんでも始めると追及したくなる性格なのだろう。


 玲愛はノートパソコンをリビングのテーブルに置き、なにやら再生する。


 ランニングの動画ではなさそうだ。

 邦画の青春映画のようで学校の校舎から始まる。

 夕方の校舎。ヒロイン以外に生徒はいない。


「おう、ユズキ」

「先生」


 見たことない女優と先生役の俳優は、やけに下手くそでぎこちない演技を見せる。

 どうやらクラスの委員長が呼び出されたが、先生の様子がいつもと違うという展開らしい。


 っていうか、これ……


「あ、いや……駄目です、先生」

「いいだろ、ユズキ」


 画面上ではなんの脈略もなく二人がキスを始める。


「……おい、玲愛」

「なに?」

「これセクシービデオだろ?」

「もしかして人妻ものの方がよかった? ちょっと待ってて。いま変えるから」

「いや、そういう問題じゃなくて。なんつーもんをダウンロードしてるんだよ!」

「高校卒業したからこういうのもダウンロード出来るんだよ。すごいよね」

「発想が男子か!」


 レンタルショップに借りに行かなくていいから女性も気軽に観られる時代なのかもしれないが、付き合いだして間のない二人が観るようなものではない。


「こんなものを観たところで、その、治らないと思うぞ?」

「違うの。これはその、あたしの勉強用」

「勉強?」

「あたしやり方とか全然分かんないし。もっと上手になれば茅野さんの役に立つかもでしょ」

「いや、でもなぁ……こういうのって現実とずいぶん違うものだぞ」

「いいの、そういう細かいことは」


 画面では早くも女優のユズキさんが裸にさせられていた。

 あれほど拒んでいたユズキさんなのに、なぜかいまは自ら口で奉仕している。


「うわっ……そんなことマジでするんだ?」


 玲愛は頬を赤らめながらモニターを凝視している。


 教師もユズキさんを責めはじめ、攻守が逆転する。

 ユズキさんは目を閉じたり、見開いたりと忙しなく表情を変えながらあられもない声をあげていた。


 っていうか、このユズキさんとやら、ちょっとだけ玲愛に似てるな。


「うわ……うわうわ、うそ……やば……」


 玲愛はおろおろしながらちょっともぞもぞと腰を動かす。


「この女優さん、可愛いよね」

「ちょっとだけ玲愛に似てないか?」

「えー? そうかな? こんなに可愛くないよ」

「そんなことあるか。玲愛の方が何倍も、何十倍も可愛いよ」

「そ、そう? ありがとー」


 ビデオと言葉、二つのミックスで照れた玲愛にキスをする。

 まどろっこしい俺たちを置き去りにして、画面上ではついに二人が繋がりはじめてしまっていた。


「わわっ……始まっちゃった」

「そりゃそうだろ」

「てかゴムしてなくない!?」

「こういう撮影では分からないように着けてるんだよ」

「そーなんだ? わっ……入った……大丈夫かな、ユズキちゃん」


 嫌がっていた割にユズキちゃんも先生を憎からず思っていたのか、キスをして抱きついていた。

 玲愛はポーッとした顔で見入っていた。


「勉強になってるか?」

「も、もう! あたしの顔じゃなくて画面見てて」


 玲愛は俺の前に座り、体重を預けてくる。

 興奮してるからなのか、走った後だからなのか、玲愛の体温はいつもより高い気がした。


 久々にこういうのを観たがかなり刺激的だ。

 しかも恋人である玲愛と観ているから余計にドキドキしてしまう。

 とはいえ急速に固くなる予兆はなく、軽く大きくなったくらいだ。


「ね、ねぇ、みんなこんなに激しくしてるわけ?」

「ど、どうだろう? でもこういうのって過剰な演出だから、実際とはかなり違うと思うよ」

「そ、そうだよね……」


 ユズキさんが涙目で「もうやめて」と懇願しているのに一向に責めが止まないのを見て完璧に引いている。


「茅野さんは優しいからこんなことしないよね?」


 恐る恐る訊ねてくる玲愛にちょっと背徳的な興奮を覚えてしまう。


「どうかな? それは分からないよ?」

「えー!? 絶対やだよ。やめてっていったらやめてね」

「さあ? それはどうかな?」

「マジで!? 茅野さん、まさかのドS!?」


 そんなことないのだけど面白いので「さあね。どうかな?」とからかっておいた。


 刺激的な勉強会のあとは、恥ずかしくなったようでぎこちない空気になる。

 少し固くなっていた俺も、すっかりふんにゃりとなってしまう。

 今夜は実技なし決定だ。




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 6月も終わり、早くも一年の半分が終わりました。

 去年に引き続き、今年もコロナで生活は大混乱ですね。

 いつまで混乱は続くのでしょう?

 早く日常を取り戻して欲しいです。

 残り半年、皆さん元気で楽しく過ごしましょう!




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