第59話 JKではなくなった夜に

 急ぎで作ったけれどすき焼きはかなりの美味しさだった。


「あー、食べすぎたかも」

「ごちそうさま」


 食後は二人でソファーに座り、テレビを観る。

 しかしなんだかそわそわしてしまう。

 それは玲愛も一緒のようで、時計をチラチラ見たり、CMになるとチャンネルを変えたりと落ち着きがない。


「あー、もうこんな時間か。お風呂入って寝ようかな」


 玲愛は少しカクカクしたしゃべり方で大袈裟に伸びをする。

 時刻は十時過ぎ。いつもならまだ起きていて話をしたりゲームをしている時間だ。


「お、おー、そうだな……そうしよう」


 ぎこちなく返すと玲愛は顔を赤く染めながら浴室へと消えていった。


 玲愛は高校生ではなくなった。

 つまり夜にどんなことをしようが、誰に咎められる訳でもない。


 俺の心臓は高校生ではじめてラブホテルに訪れたときのように早鐘を打っていた。


 落ち着け、俺……

 もうすぐ三十歳だぞ?

 経験だっていくらでもあるだろ……


 テレビを消すと玲愛のシャワーを浴びる音が聞こえ、余計気まずくなってもう一度テレビをつける。


 しばらくするとパジャマに着替えた玲愛がリビングに戻ってきた。

 長風呂だったことを差し引いても顔が赤すぎる。


「お風呂、上がったよ」

「お、おう。じゃあ俺も入るかな」

「うん……」


 玲愛はすぅっと俺の耳に顔を近づける。

 いつもより二割増しくらいに石鹸の香りがした。


「あのっ……あたしの部屋で待ってるんで……よかったら、来てね」


 それだけ伝えると玲愛は野生動物を思わせるくらいの速さで部屋から出ていった。


 気もそぞろでお風呂に入り、髪を乾かしきらずに玲愛の部屋に向かった。


 コンコンっとノックをすると「はい」という静かな声が返ってきた。


「入るよ」


 室内はオレンジ色の常夜灯だけがつけられている。

 真っ暗にしてなかったのは俺への優しさなのだろう。

 玲愛はベッドの中で顔を半分だけ出してこちらを見ていた。


 視線を絡めたままベッドまで行き、玲愛の頭を撫でる。


「玲愛、卒業おめでとう」

「うん。もうあたしたちの間には、なんの障害もないよ?」

「そのつもりで、ここに来た」

「嬉しい……」

「玲愛、愛してる」

「うん。あたしも……」


 ゆっくりと布団を捲り、露になった唇に口づけをする。

 玲愛は手を伸ばし、俺の髪を柔らかく掴む。


「大好き……茅野さんにあたしの全部をあげるよ」

「俺も全てを玲愛に捧げる」


 髪を撫で、キスをして、お互いの身体をゆっくりと触りあった。

 パジャマのボタンを外すと、たゆんとした胸が揺れた。

 予想していたより大きく、そして美しかった。

 その先の薄桜色にキスをする。


「んっ……恥ずかしい」

「綺麗だよ」

「茅野さんも脱いで」


 玲愛は俺のパジャマを脱がせてくれる。

 素肌同士で抱き合うと、忘れかけていた人の肌の温もりを感じた。


「裸でギューってすると気持ちいいね」

「玲愛の身体って本当に柔らかいな」

「太ってるってこと?」

「違うよ」


 笑いながらキスをしたが、次第に互いの舌を絡める激しいものに変わっていった。


 首筋に、まぶたに、胸に、腹部に、お互いキスを落としていく。

 その全てが自分の物であると主張するように、貪欲に唇を触れさせていた。


「好き。茅野さん、大好き」

「俺も大好きだ。ずっとこのまま一生一緒にいよう」

「うん。約束だよ」


 玲愛を欲しい気持ちがどんどん強くなっていく。

 ズボンと下着を脱がせると、それまで動き回っていた玲愛の動きが止まった。


「あの、茅野さん……あたし、その……はじめてだから」

「えっ!? ビッチだったんじゃないの?」


 大袈裟に驚いた振りをして茶化すと玲愛は頬を膨らませる。


「もうっ……こんなときにふざけないで」

「ごめんごめん。大丈夫。優しくするよ」

「ありがと」

「痛かったら教えて」

「我慢する」

「しなくていい」


 キスをしながら脚と脚の間に手を潜らせる。


「っあ……や、だめ……」

「かわいいよ」

「そ、そこはだめだからッ……あ、ちょっ、マジで……ああっ……」


 玲愛は「はぁあっ」と塊のような吐息を漏らし、目を大きく見開いたり、切なそうに細めたりと忙しない。


「み、見ないで……絶対変な顔しちゃってるから恥ずかしい」

「かわいい表情だよ」

「絶対ウソ……ううっ……そこばっかっ……えっちっ……」


 玲愛は俺の腕に握り、ギューッと力をこめてくる。


「ね、ねぇ、キスして」

「どうしようかな?」

「いじわるしないで」

「冗談だよ」


 玲愛は食むように俺の唇をむさぼる。


「ね、ねぇ……もう……指、やだ」

「口がいい?」

「そうじゃなくてっ、もう! サンタさんからもらったやつあるでしょ!」


 少し苛めすぎたかもしれない。

 気の利くサンタさんからのプレゼントを開け、ズボンを脱いだ。


「……あっ」


 間抜けな俺は、そのときになってようやく重大なことに気がついた。


「ど、どうしたの!?」

「い、いや……なんでもない」

「ウソ。絶対何かあったでしょ」


 誤魔化そうとしたが、どうせ数秒のにはバレてしまうことだ。

 観念するしかない。


「その……気持ちはあるんだ。玲愛のことは大好きだし、一生をかけて愛したい」

「え?なに急に!? 本気でどうしたの?」


 困惑する玲愛に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「ごめん……その、勃ってないんだ」

「……は? え、ウソ!? もしかしてあたしが何かしなきゃなの!?」

「そういう問題じゃない。今さら気付いたんだけど、玲愛と暮らしはじめてから今まで、一度も勃ったことがなかった」


 俺はバカだ。

 なぜそれに気付かなかったのか。

 際どいものを見てしまったり、キスをしたり、色んなことがあったのに一度たりとも下半身が反応しなかったことを見逃していた。


 それでよかったことはあれど不便を感じることなんてなかったから気に留めていなかったのだ。


「正確には少し固くなってるけど完全には程遠いっていう感じなんだ」

「どうして……あたしじゃ無理ってこと?」

「違う。それは絶対違う。玲愛が好きで、欲しくて堪らないんだ」

「じゃあなんで」


 玲愛は泣き出しそうな顔で俺を見る。

 怒ってくれたらどれだけ気が楽だっただろう。


「恐らく心的なものだと思う。浮気をされたあのショックで、こうなったのかもしれない」

「そんなっ……」

「大丈夫。絶対なんとかするから」


 焦りながら手を伸ばすと、玲愛は俺の手をにぎって首を降った。


「ううん。無理しないで。あたしにはソレついてないからよく分かんないけど、心の問題なら焦るのが一番駄目だと思う」

「玲愛……」

「言ったでしょ。あたしはあたしらの速度で焦らずにいこう」


 玲愛はひしっと俺に抱きつき、落ち着かせるように背中を擦ってくれる。

 無意識のうちに焦っていた気持ちが穏やかになっていくのを感じていた。





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 本作品はカクヨムオンリーです。



 カクヨムというサイトがあって、本当によかったです。


 付き合ったあとも続くラブコメを書くなら、遅かれ早かれやはりこういったシーンは必要だと思ってます。


 もちろん『朝ちゅん』でもストーリー上問題はありません。

 でも朝ちゅんを挟んだ瞬間、読者は『主人公』から『お客様』になってしまうと思います。

 それまで主人公、もしくはヒロインに共感し、物語の世界に入り、自分の物語だと感じてくださっていたのに、急にカーテンを引かれて隠されてしまったら一気に醒めてしまいます。


 とはいえ本作は官能小説ではないので、そこまで過激なことは書きません。

 でもストーリー上必要なことは書きました。


 中には「こんな回は要らない!書くべきではない!」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

 そういう方には申し訳ありません。

 でもどうしても私は入れたかったのです。

 入らなかったけd


 このような表現も許されるカクヨムに感謝致します。

 世の中には激しめなキス描写だけで怖い運営さんが突撃してくるサイトもあるそうなので、こんなサイトがあって本当によかったです。


 追伸:突然この回の文字数が半分以下に減ったときは、お察しください。

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