第23話 玲愛の日常
仕事終わりの夜。
俺は一人で繁華街を歩いていた。
今日は友だちと遊ぶということで玲愛は帰りが遅くなるそうだ。
すれ違う高校生を見るたびについ玲愛がいるか探してしまい、苦笑いをする。
「そういえば玲愛の帰りが遅いのってはじめてかもしれないな」
高校三年生といえば友だちと遊びたい盛りだ。
見た目に反して玲愛は結構真面目だ。
保護者的な立場で見ればいいことだけど、高校生活も残りわずかなのだからもっと青春を謳歌してもらいたいとも思う。
いつも料理や洗濯、掃除ばかりでは可哀想だ。
今日遊びに行くのも麟子ちゃんや霞ちゃんに強く誘われ、仕方なく行くといった感じだった。
「すぐ帰ってくるから」と不服そうに言った顔を思い出す。
久々に自由な俺は前から気になっていた焼き鳥屋に向かった。
自分の担当エリアじゃないから営業で行ったことはないが、美味しいと評判の店だ。
レバーは表面をパリッと焼き、中は火を通しすぎずにねっとりと仕上げていた。
あまじょっぱいタレともよく合う。
「これはうまいな」
玲愛に食べさせたらどんな顔をするだろう?
ふとそんなことを考えてしまう自分に気づき、また苦笑いをする。
こんなに玲愛のことばかり考えるなんて、まるで片想いをする男子高校生だ。
いい年したおっさんのすることじゃない。
アルコールを飲まない俺は、店にとってそれほど上客ではない。
食べるだけ食べて店を出て駅へと向かった。
私服に着替えた高校生らしき子たちはまだ街にちらほらと見掛ける。
「ん?」
信号待ちをしていると道の向こう側に私服の玲愛を見つけた。
麟子ちゃんと霞ちゃんも一緒だ。
そしてその脇には同級生と思われる男子の姿もあった。
「男子も一緒だったのか」
俺にからかわれたくなくて行きたくないと言っていたのだろう。
男子は特別チャラそうでもない、でもダサくもない、今どきの若者といった風貌だ。
みんなが楽しそうにしているなか、玲愛は一人つまらなさそうな顔をしていた。
信号が青になり渡った頃にはもう玲愛たちの姿はなかった。
もう帰ったのか、それともどこかへ遊びに行ったのか?
時計を見ると午後八時前。
まだ咎めるほどの時間でもない。
俺はそのまま電車に乗って家に帰った。
「ただいま」
電気は消えているが、念のため声をかける。
しかし当然ながら返事はなかった。
一人きりの家はなんだか想像以上に静かだったので、観るわけでもないのにテレビをつける。
内容などちっとも入ってこず、気付けば時計ばかりを気にしてしまっていた。
「ただいまー」
ようやく玲愛が帰ってきたのは午後九時を回った頃だ。
「おかえり」
「茅野さん帰ってたんだ」
「ちょっと遅いんじゃないか?」
「そっかなぁ? 普通じゃない?」
玲愛はミネラルウォーターのペットボトル片手に、俺の隣にどてっと座る。
「まさかアルコールなんて飲んでないだろうな?」
「はぁ? んなわけないでしょ」
「帰りがけに玲愛を街で見かけたぞ」
「そうなの? 声かけてくれればよかったのに。そしたらあたしも流れで帰ってこられたし」
「せっかく友だちと久し振りに遊ぶんだから楽しんでこいよ。男子もいたんだろ?」
さりげないつもりで付け加えたが、玲愛はにたぁっと笑って俺にすり寄って膝で突っついてくる。
「な、なんだよ?」
「もしかして茅野さん、やきもち?」
「はぁ!?」
「そっかぁ。茅野さんって結構束縛するタイプなんだ」
「逆だろ。俺はもっと遊んでこいって言ったんだけど?」
「いいよ。あたし、好きな人には束縛されたいタイプだし。あ、心理的にね。物理的に束縛とか痛そうだからパス」
「俺がいつやきもちやいて束縛したんだよ?」
「帰りが遅いとか言ってたじゃん」
「それは保護者としてというか、大人として心配しただけだ」
「ふぅん?」
「な、なんだよ、その目は」
「別にー?」
玲愛は俺の腕にばすっとしがみつく。
「わっ!? な、なんだよ」
「男子も一緒で心配した?」
わざとなのか、無意識なのか知らないが、おっぱいを腕に押し付けるのはやめて欲しい。
「ねぇ、素直に答えて」
「そ、そりゃまぁ……夜だし、心配した」
素直に答えると玲愛はにっこりと笑う。
普段の生意気な顔とは違い、まるで少女のような笑顔だった。
「ねぇ、茅野さん」
「なんだよ?」
玲愛ははにかみながら俺の耳許に唇を寄せる。
息がかかって少し擽ったい。
「心配しなくてもあたし、茅野さん以外の男には興味ないから」
「なっ……なに言ってんだよ。まったく」
「だってほんとだもん」
「俺なんてJKからしたらおっさんだろ」
「おっさんじゃないし! 霞も麟子も大人のイケメンって言ってたし」
「え? あの二人が!?」
そんな風に見られていたなんて思っていなかったのでちょっとだけ嬉しかった。
「あー? なによ! あたしが誉めても鬱陶しそうにしてるくせに、霞たちが誉めたって聞いたらにやけるわけ!?」
「にやけてないし」
「にやけてた! なんかやらしい顔してにやけてたし!」
玲愛は脚を上げて爪先でツンツンと蹴ってくる。
行儀が悪いし、恋する女子がするようなことじゃない。
でもその幼さがなんだかちょっと嬉しかった。
俺は嫉妬していたのか、単に心配していたのか、その答えは敢えて考えず、今はこのよく分からないルームシェア生活を楽しんでいたかった。
────────────────────
玲愛にも茅野さんの知らない高校生活があるということを思い知らされた出来事でした。
でも玲愛ちゃんの想いはまっすぐに茅野さんに向いています。
玲愛ちゃんメモ
玲愛は学校で昔から結構モテてます。
しかし興味のない玲愛はコクられても毎回即答で断ってきました。
ギャルな見た目に依らずガードが固いことで有名です。
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