第14話 テスト勉強
玲愛がうちにやって来て約一ヶ月が経過した。
捜索願を出されないように親には連絡させているが、やはりこのままうちに住まわせておいていいのかと悩んでいた。
しかし正直俺も玲愛がいる生活に馴染み、癒されているので、なんとなくずるずるとそのままになってしまっている。
仕事を終えて家に帰ると珍しく玲愛が玄関にやって来なかった。
照れくさいのでいつも適当にあしらっていたが、来なければ来ないでちょっと寂しい。
「ただいまー」
リビングに入ると玲愛は珍しく教科書とノートを広げて勉強をしていた。
音楽でも聴いているのかイヤホンをつけている。
気配を感じた玲愛は顔を上げてイヤホンを外した。
「あ、ごめん。勉強に集中しててお帰りのキス出来なかった」
「はいはい。いつもしてないね、そんなこと」
玲愛のウザ絡みに対するあしらいも慣れてきた。
「勉強なんて珍しいな」
「テストがマジでヤバそうだから。赤点取ったら補習受けさせられるし、勉強してるの」
「理由は残念な感じだけどいい心がけだな」
「でしょ? 誉めて」
「はいはい。えらいねー」
雑に頭をガシガシと撫でてやる。
「てきとー過ぎ! 髪ぐしゃぐしゃになったじゃん」
ぷんすかと怒りながら玲愛はキッチンに向かい夕食の支度をする。
手伝うと逆に怒られるので玲愛の教科書を眺めて時間を潰す。
「難しいことやってるんだな」
「でしょ? いつも赤点取ってるし」
「マジか。それは問題だな。でもなんで今回は勉強して補習を免れようとしてるの?」
「は? 帰りが遅くなったら茅野さんの夕飯作れなくなるからに決まってんじゃん」
「そんな理由で?」
「一番大切な理由だし」
頭は悪いかもしれないけど、優しく責任感の強い子ではある。
俺から言わせればそれだけで十分だ。
食事を終えると玲愛はすぐに勉強に戻る。
どうやら熱意は本物のようだ。
邪魔にならないよう、俺はソファーに座り読みかけの小説を読んでいた。
「あ、そうだ」
「どうした?」
「茅野さん頭いい大学出てるじゃん! 勉強教えて!」
「無理」
「なんでよ! うちの高校バカだし簡単でしょ?」
「俺が高校生だったの何年前だと思ってるんだ? もうとっくに忘れたよ」
先ほど教科書を読み、すっかり記憶が抜け落ちているのを確認している。
「普通こういうときって勉強教えて、仲良くなるパターンなんじゃないの?」
「知るか。そういうのがしたいなら同級生の頭いい男子としろよ」
「むー!」
「教えられない代わりにここでサボらないか監視しておいてやるから」
「なにそれ? そんなのいらないし」
「気が散るなら自分の部屋に戻るけど」
「いい。そこにいて」
小説を読みながら時おり横目で玲愛を確認する。
難しい顔をしながら真面目に勉強に取り組んでいた。
集中力はあるようだ。
小説が山場を向かえ、しばらく玲愛の存在を忘れて没頭してしまう。
意外な結末を迎えた小説に感嘆しながら顔を上げると、玲愛は机に向かったまま寝落ちしてしまっていた。
時計を見ると十一時過ぎ。
普段ならまだ起きてる玲愛だが、勉強をすると眠くなるのだろう。
「玲愛」
肩を揺するが起きる気配はない。
寝顔を見るのははじめてだが、あどけない表情だった。
「風邪引くぞ。ちゃんとベッドで寝ろ」
「んー……」
駄目だ。起きる様子がない。
考えてみれば玲愛は毎日朝御飯を作るために早起きをしている。
結構睡眠不足なのかもしれない。
「仕方ないな」
起こさないようにそろりと抱き上げる。
だらんと腕を下ろし、首をかくんと傾けた格好はとても無防備だ。
身長にしたら軽いのかもしれないが、運ぶとなるとさすがに重い。
ゆっくりと落とさないように階段を上っていく。
やっとの思いでベッドに横たえさせ、布団をかけてやった。
そろーっと脚音を立てないように立ち去ろうとしたとき──
「んぅ……やだ……一人にしないで」
急に玲愛がそう言った。
驚いて振り返ると、玲愛は寝たままだった。
「寝言か」
「待って……一人はやだよ……」
どんな夢を見ているのか、玲愛は魘されていた。
普段は元気にしていても心の中は寂しいのだろう。
親と別れ、先の不安を抱えながら生きるのは楽じゃないはずだ。
やはり玲愛は母親と暮らした方がいい。
その結論に至るとなぜか胸の奥がぎゅっと締め付けられた。
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いつも応援ありがとうございます!
いつも元気な玲愛ちゃんですが、心の中には寂しさもあるんですね
次回からは玲愛の秘密について語られていきます
二人の関係はこのまま続くのでしょうか?それとも?
最後に玲愛ちゃんメモ
得意教科は英語、苦手は数学です
海外に行きたいという夢のため、語学は真面目にやっているようです!
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