第12話 魔改造らーめん

 フードコートに行き、その安さに驚かされた。

 ホットドッグは100円でソフトクリームは70円だ。

 昭和の価格より安いんじゃないだろうか?

 しかもそれぞれそれなりに美味しい。


「かなりお得だな」

「でしょ? 友だちとこれだけ食べに来たりしたこともあるし」


 その安さゆえにフードコートにはたくさんのお客さんがいた。

 その多くは家族連れだ。


 小さな子供を連れた夫婦、結婚したばかりのような若い二人、中にはお年寄りを含めた三世代の親子の姿もあった。

 みんな幸せと退屈を混ぜ合わせたような顔をしている。

 離婚したての自分がここにいるのがやけに場違いに感じて、思わず苦笑した。


「どうしたの?」

「結婚し、子供を授かり、育てていく。みんながそうしているから、俺も普通にそれが出来ると思っていた。でもそんな当たり前に見えることがこんなに難しいとは知らなかったよ。少なくとも俺には出来なかった」

「これから出来るって」

「俺には無理だよ。今回のことでよく分かった」

「はあ? そんなの相手が悪かっただけじゃん。茅野さんが悪い訳じゃないし。 そんなことで自分を否定しなくてよくない?」

「舞衣は確かに俺を裏切った。でも俺に全く非がなかったとも言えないだろ。家事は任せっきりで、会話も少なかった。休みの日も二人でどこかに出掛けることもほとんどなかったし」

「そうやって自分を落とすのやめなよ。どう考えても浮気したあっちが悪いでしょ」


 玲愛は半分呆れ、半分慰める顔で俺を見る。


「茅野さんはいい人だよ。少なくとも私みたいに行くところがなくて困ってる人を見過ごせないくらいにはいい人。一度結婚相手を間違えたくらいで自分は結婚には向かないとか否定しないでよね」


 玲愛の言葉に完全に納得したわけではない。

 でもその言葉に救われたのも事実だった。


「ありがとう。そうだな。いつまでもウジウジしてても仕方ない」

「そうそう! もっといい人見つかるって! ていうか既にその人と出会ってるかもよ?」

「既に? さすがにそれはないだろ」

「そんなの分かんないじゃん! 既に二十八年も生きてるんでしょ? その中に運命の出会いがあっても不思議じゃなくない? 結婚を約束した相手とかいないの?」


 玲愛はやけにむきになる。


「そういえば……」

「お、思い出した?」

「高校時代の彼女とはいつか結婚しようとか話したことあったな」

「はぁ!?」


 玲愛は急に険しい表情になり、トレイを持って立ち上がってしまった。


「おい、待てよ」

「うっさい。もう帰るよ」


 まったく勝手なやつだ。

 でも元気を与えてくれた玲愛に心の中で感謝していた。




 家に戻るとさっそく玲愛の部屋に家具を運ぶ。

 組立式なのでまずは広げて組み立てからだ。


「え、待って? まずこれとこれをネジで止めるんでしょ?」

「違う違う。最初はこっちだって」

「はあ? よく見てよ。あたしのが正解だって」


 お互いあまり得意ではなく、そのくせ意見は言うからなかなか進まない。

 ようやく完成したのは夜の八時過ぎだった。


 殺風景だった部屋も家具や玲愛の服を置くと急に表情が生まれた。

 先日までの舞依の部屋と同じ場所だとは思えない。

 ついでに言えば俺の家にある場所だとも思えない。

 けれど異物感はなかった。

 喩えるならスマホに最近人気のアプリをインストールしたみたいな感じだ。


 もちろん玲愛と出会う前ならギャル服も、衣装ケースにかけられたピンク色の敷物も眉をしかめていただろう。

 でも玲愛と暮らし、その人間性を知って、その個性も理解しようという気持ちが芽生えていた。


「ありがとね、茅野さん」

「お礼されるほどのものは買ってないよ」

「そうじゃなくて。この部屋をあたしの部屋にしてくれてありがとう」

「そりゃまあ、玲愛も自分の部屋がなくちゃ落ち着かないだろうし」

「いきなり転がり込んできて泊めてくれただけでもすごく感謝してるのに、こんなによくしてもらえるなんて。本当にありがとう」


 玲愛は恥ずかしそうに微笑んで深く頭を下げた。

 少し赤らんだ頬も、はらりと落ちた耳にかけた髪も、ついでにゆるゆるな襟首からチラッと見えた胸元も、その全てにドキッとさせられる。


「それを言うなら俺だって感謝してるよ」

「あっ、浮気の証拠動画でしょ? あれはあたしもいい仕事したと思ってる!」

「いや。あれはまあ、スカッとしたけど、そんなに大切じゃなくて」

「えー? じゃあなに? 分かった、ご飯作ったこととかでしょ?」

「それもある。でも一番は俺の心を救ってくれたことだ。玲愛がやって来たころ、俺は精神はズタズタだった。正直玲愛がいなかったらずっと落ち込んだままだっただろう。玲愛がいたから救われたし、笑うことだって出来た。本当にありがとう。感謝してる」


 偽らざる気持ちを伝えると玲愛は耳まで赤く染めて視線を泳がせる。


「別にフツーにしてるだけだし。誉められるとか、意味分かんない」


 どうやら誉められるのに弱いらしい。

 ようやく見つけた玲愛の弱点だ。


「お腹空いたね」

「そうだな。今から作るのも面倒だし、インスタントらーめんでも食べるか」

「いいねー! それならあたしが魔改造レシピ作ってあげる!」

「魔改造?」

「野菜山盛りらーめんとカルボナーラ風激辛らーめんね!」

「野菜山盛りはさておきカルボナーラ風ってなんだよ? しかも激辛って。カルボナーラは辛くないだろ」

「それは食べてからのお楽しみ!」


 玲愛は腕まくりしながら軽い足取りで階段を降りていく。

 いったいどんなアレンジメニューなのか期待しつつ、俺も階段を降りていった。




────────────────────



余計なしがらみもなくなり、二人の生活がいよいよ本格始動!

玲愛ちゃんの魅力に気付きながらも気づかない降りをしている茅野さんですが、果たしてどうなるのでしょう?



そして日間5位!


びっくりです!

トップ10に入れたらラッキーくらいに思っていたのでびっくりしました!

本当にありがとうございます!

恐らく今日一日の短いトップ5だと思いますが自信になりました!


これからもよろしくお願い致します!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る