第7話 理想の休日
ドイツ菓子が有名な喫茶店がアウトレットモール内にあったのでそこにすることにした。
「ケーキ食べなくてよかったのか?」
「こんなにたくさん服を買ってもらったのにケーキまで頼んだら悪いし」
「大人をなめんな。それくらい大した金額じゃないから」
実際気を遣われたのか、玲愛は意外と安い服を選んでいたから大した金額ではなかった。
桁が違うかと思っていたから拍子抜けだ。
「ううん。いいの。ケーキはいらない。それよりこんなにたくさん服を買ってくれてありがとう」
「必要なものだし、気にすんな。日頃家事してもらってるしな」
「茅野さんには感謝してる。行くところのないあたしを助けてくれたんだから」
玲愛はしんみりと呟き、ストローで意味もなくアイスコーヒーをゆらゆらとかき回していた。
「まぁおかげで俺も色々と助かってるし。お互い様だよ」
「なんであたしの帰るところがなくなったかって言うとね、うちのママが再婚することになってさ。でも相手が連れ子いるのは嫌みたいでね……」
「話したくないことは話さなくていい」
「ううん。これはあたしが話したいから話してるの」
玲愛は真剣な目をしたまま、ぎこちなく笑った。
「『玲愛ももう高三なんだから、自分の居場所は自分で見つけなさい』ってママに言われて」
「なんだそれ? 高校三年生なんてまだ子どもだ。親と一緒に暮らすのが当たり前だろ」
「別にいい。高校卒業したら出ていくつもりだったし、それが一年早くなっただけ」
当たり前のように言うが、俺には理解も納得も出来なかった。
「はじめは友だちの家を転々と泊めてもらってたけど、さすがに迷惑かけられなくて」
いくら友だちとはいえ、相手の家にも家族がいる。
いつまでも泊まっていては迷惑だろう。
「そしたら茅野さんが奥さんを追い出すシーンを見て、これはチャンスだと突撃しちゃったってわけ」
「そっか。まあ野宿させなくてよかったよ。舞衣の浮気も少しは役に立ったわけだ」
「茅野さんは優しいね。でもあたしは浮気なんて最低の行為で茅野さんを傷つけた奥さんを許さないから」
「頼もしいな」
妻が浮気して、それをJKに慰められるなんて、つくづく人生というのはなにが起こるか分からないものだ。
家に帰ると玲愛はさっそく購入した服に着替えた。
「じゃーん! どうよ?」
胸元や腰回りがピタピタで袖や裾がゆるゆるなニットワンピを着た玲愛は、得意気にモデルのようなポーズを取った。
「ちょっ……それ……」
思っていたよりずいぶんと裾が短い。
たゆんとした裾からにょきっと剥き出した脚がやけに生々しかった。
しかもボディラインがやけに鮮明なので、『ぽよん』と『ぷりん』が強調されてしまっている。
「あー? エッチな目してるし」
「するか!」
「やっぱ茅野さんも男だねー」
「だからしてないって」
玲愛はテレビの前に座り、ゲーム機をセットしていた。
「一緒にやろう」
「俺に挑むとはいい度胸だな」
舞衣としようと思って買ったが、「そういうのしないから」と言われてほとんど一緒にしなかったゲーム機だ。
独身時代はかなりゲームをしていたから腕には覚えがある。
「わ、ちょっと!? ズルいよ!」
「ズルくはないだろ」
「もうっ! ちょっとは手を抜いてよ!」
「真剣勝負だから手を抜くとかあり得ない」
連戦連勝の俺に玲愛は涙目だ。
日頃おちょくられているのでいいストレス解消になる。
「あー、また! よし、そっちがその気なら!」
玲愛はいきなり脇腹を擽ってきた。
「わっ!? ひゃはははっ! く、擽るとか卑怯だぞ!」
「真剣勝負だから卑怯じゃないし!」
なんとか逃れると今度は脚を伸ばして俺のコントローラーを押して邪魔してきた。
「えいっ!」
「卑怯すぎるだろ!」
そんな丈の短いワンピースで脚を伸ばすなっ!
はしたなすぎるだろ!
……ていうか、下着も買ったばかりのやつに着替えていたんだ。
「いえーい! あたしの勝ち!」
「子どもか!」
「子どもだもん! 高校三年生は子どもだって、さっき茅野さんが言ったんじゃん!」
まったく口の減らないやつだ。
こういう奴はこてんぱんにやっつけて教えてやるしかない。
夢中でいろんなゲームを対戦し、気がつけば外はもう日が落ちて暗くなってきていた。
「わ、やば!? 夕飯作ってないんですけど!」
「たまには外食でいいだろ」
「駄目。今日はタラのお鍋を作ろうと思ってたんだから! 昆布も既に鍋に浸してるの」
「じゃあ一緒に作ろう。鍋なら簡単だろ」
「あー? 鍋を甘く見たな?」
二人で買い物や映画にでも行って、帰ってきたらゲームをして、二人で夕飯を作る。
思えば結婚前はこんな休日を期待していた。
結局舞衣とは一度もそんな風に過ごしたことはなかった。
それをつい先日まではまるで知らなかった女子高生としている。
なんだかおかしくて笑ってしまう。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
「急に笑い出すとか不気味」
「急に泊めてくれと押し掛けるよりはマシだろ」
「確かに」
玲愛もにんまり笑いながら野菜を切っていた。
長い爪なのによくそんなに器用に料理が出来るものだと感心する。
家庭的で料理や掃除が得意そうに見えた舞衣は逆に家事が苦手だった。
人は見かけによらないものだとつくづく感じさせられた。
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