第3話 隠し撮り

 アラームが鳴り、目が覚める。

 絶対悪夢にうなされると覚悟していたが、朝まで目覚めることなく寝られたらしい。


 キッチンからは料理を作る音が聞こえていた。

 妻の舞衣が帰ってきているはずがない。

 となれば作っているのは──


「おはよー。もうすぐ出来るから待ってて」


 謎の家出ギャルJK玲愛がキッチンで朝食を作っていた。

 既にテーブルには味噌汁や焼き魚が並んでいた。


「これ、玲愛が作ったのか?」

「そうだけど?」

「朝から悪いな。ずいぶん早起きさせちゃったんじゃないのか?」

「これくらいすぐだし」


 気付けば浴室からは洗濯機の回る音も聞こえてきた。

 散らかしていた雑誌やらゲーム機もきちんと整頓されている。

 ぶっちゃけ舞衣がいた時よりも片付いていた。

 昨日の風呂場への襲来を叱ろうと思っていたのに、その気概が削がれてしまう。


 意外と育ちがいい子なのかもしれない。

 いやいや、騙されるな。

 育ちのいい子は『一晩泊めてくれたらなにしてもいいよ』なんて言わない。絶対に。



 悔しいことに朝ご飯は美味しかった。

 食後は慌ただしく二人で玄関へと向かう。


「いいか。ちゃんと家に帰るんだぞ」

「りょ!」


 玲愛はなめ腐ったように敬礼をする。デコった長めの爪が余計にバカっぽさを演出していた。

 本当に分かっているのだろうか?


「じゃあ、元気でな」

「ばいばーい」


 手を振りながら去っていく玲愛を呆れた目で見送った。

 いきなり押し掛けてきた迷惑きわまりない奴だったけど、お陰で舞衣のことはあまり考えずに済んだ。

 そういう意味では、ほんの少しだけ感謝していた。




 一日の仕事が終わり、家の最寄り駅に着いたのは午後九時過ぎ。

 俺の気持ちを表すかのように天気はどしゃ降りだった。

 やはり今日も舞衣に連絡はつかなかった。

 このまま何事もなかったように消えていくつもりなのだろうか?

 やり直すつもりなどさらさらないが、謝罪の一言も言えない奴と結婚していたかと思うと情けなくなる。


「いったいこれからどうするつもりなんだ、あいつ……」


 ため息をつきながら家を見上げると、カーテンの隙間から光が漏れていた。


「まさかっ……!?」


 舞衣が帰ってきたのか!?

 どの面下げて帰ってきたのだろう。

 すぐに家から叩き出してやろうと意気込んで玄関を開ける。


「おいっ!」

「あ、おかえりー」

「……は?」


 エプロン姿で出迎えてきたのは、家出少女玲愛だった。


「なんで玲愛がここにいるんだよ!?」

「合鍵を作ったからに決まってるでしょ」

「合鍵って……元の鍵はどうしたんだよ!?」

「玄関のキーケースに入ってたから借りたんだけど?」


 当たり前のように答えて玲愛はキッチンに向かう。


「夕飯、すぐ温めるから待ってて」

「ちゃんと帰れって言っただろ? 玲愛も『りょ』とかほざいていただろ!」

「あたしには帰るところがないって言ったでしょ? 今のあたしにとって帰る家はここなの」


 駄目だ。

 まるで話が通じない。


「あ、そうそう! それより大変なことがあるんだけど」


 料理を運びながら玲愛がそう伝えてきた。


「なんだよ?」


 見ず知らずの女子高生が家に住み着くというこの状況より大変なことがあるなら教えて欲しい。


 玲愛に連れていかれたのは舞衣の部屋だった。


「ほら、見て。この部屋すごい荒らされてるの。リビングとかもちょっと荒らされた気配あったけど、この部屋ほどじゃなかった。泥棒かな?」


 部屋の床には衣服が散乱しており、あちこちの引戸しも開けられていた。

 恐らく昼間のうちに舞衣が来て、大慌てで荷物を持っていったのだろう。

 これは想定範囲内だ。

 こうなるだろうと予想して、俺は自分名義の通帳を持ち歩いていた。


「ねぇ、警察に言った方がいいかな?」

「いや、その必要はない」

「でも」

「これは恐らく俺の妻の仕業だ」


 そう伝えると玲愛は「ふぅん」と頷きながらスマホを弄りだす。

 人が真剣に話をしている最中でもスマホを弄るとは、さすが今どきのギャルだ。


「妻ってこの人でしょ?」

「なっ……!?」


 玲愛はスマホの画面を俺に見せてくる。

 そこにはなんと舞衣が映っていた。

 この家の前で撮影した動画らしく、舞衣が例の浮気相手を家に招き入れるシーンだった。


「な、なんで玲愛がこの動画をっ……」

「ほかにもあるよー」


 動画は全て舞衣の浮気証拠動画だった。服装や天気が違うので別の日に撮影したものなのだろう。


「ど、どういうことだよ!? 玲愛はもしかして探偵なのか?」

「ウケる! 悪の組織にギャルにさせられた名探偵だと思った? んなわけないじゃん。見た目はギャル、頭脳もギャルの女子高生、姫野玲愛だよ」


 別に名探偵とは言ってないが、今はそんなことどうでもよかった。


「ていうか茅野さん、まだあたしが誰だか分からないわけ? マジ、あり得ないんですけど?」

「は? いやもう、無理。ほんと、なにがなんだか全然わからない」

「ちょ、マジで言ってる? 茅野さんは本気で見ず知らずのJKを泊めたわけ?」

「それは……玲愛が困ってそうだったから」

「お人好しすぎるでしょ! まぁ、そこが茅野さんのいいところなんだけど」

「俺たちどこかであったっけ? 悪いけどまったく思い出せないんだけど……」

「ほら、この目尻の下のほくろ! よく見てよ!」


 玲愛はむくれながら手で髪をまとめてポニーテールにした。

 どこか見覚えのあるその顔を見ながら必死に記憶を遡る。


「ん?……あっ……ああー! まさか浅海ちゃん!?」

「そ。やっと思い出した?」


 今ようやく思い出した!

 この子は浅海ちゃんだ。

 八年前の、俺が大学生の時、ボランティアで参加したこどもキャンプ合宿であった子だ。



 ────────────────────



 やけにあっさりと明かされた玲愛の正体!

 姫野という名字は母のものです。

 ちなみに『浅海』というのは二番目のお父さんの名字です。


 面白い!続きが気になる!と思ってくださった方はフォローや★評価を頂けると作者や玲愛ちゃんのテンションも上がります!


 これからもよろしくお願い致します!

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