第22話 石言葉(SIDE千波)
固定電話の子機を耳に押し当て、コール音を聞く。
傍らには耕平がいて、ソファに座る千波の肩を抱いていた。
「もしもし? 千波?」
「そうだよー。耕平くんからだとは思わなかったの?」
「耕平くんだったら携帯の番号を知ってるもの。だから、固定電話のほうなら千波かなって。元気にしてるの? まだスマホ、買わないの?」
「スマホ嫌いなんだもん。あれ持ってると、時間に追われる感じがしてやだ」
「またあんた、変なこと言って。不便でしょう?」
「不便って愛おしいよ。それよりお母さん、結婚式の話なんだけど」
「決まったの?」
「決める前に、うちの親戚ってどうすればいい? 耕平くんのほうはね、お義父さんから結婚報告してもらって、結婚式の詳細が決まったら改めて挨拶に行くんだ。うちは、どうしたらいいかなって」
「両方、もう話しちゃったわよ。みんなお式に出たいって言うんだけど、北海道でやるの?」
「みんな? みんなって……従兄姉と、その子どもたちも?」
「あんたが最後だから。子どもたち、結婚式に興味津々みたい」
「えー……。もし北海道でやるって言ったら、どうなるかな? 会費制の結婚式にしようかなって考えてて。食事代を会費で負担してもらって、ご祝儀はいらないよってやつなの。その代わりお車代は実費でお願いしますって、北海道でよくある結婚式らしいんだけど。親戚全員分のお車代は、正直言って無理。北海道在住の招待客がかなり多くなりそうだから、こっちでやったほうが良さそうなんだよね」
「横浜のほうは、お母さんが聞いてみるわ。足立のほうは海晴に聞いてもらう。北海道でやるかもって言ったら、旅行もできて楽しそうとは言ってたけど」
「聞いてみて。結婚の話が通ってるなら、耕平くん連れて挨拶に行くのは顔合わせのタイミングでいい? あ、顔合わせ、札幌のご両親と旭川の伯母さんご夫婦も一緒に、そっちでやろうかなって。東京観光したいって言うから」
「お母さんも、北海道旅行したいな」
「だろうと思ったから、式はこっちにしようかなって。私が住んでる場所、見たいでしょう?」
「当然見たいわよ。大丈夫? 寒波が来るってニュースでやってたけど、仕事とか買い物とか、影響ないの?」
「今の所、問題ないかな。すごいよ、耕平くんの家って薪ストーブがあるの。自分で木を伐って薪割りするんだって。私もやらせてもらうんだ。楽しみ」
「声が、元気になったわね。安心した」
母の言葉に、喉の奥がぎゅっと詰まる。
「心配掛けたよね。ごめん」
「……今こうして、元気な千波の声が聞けて、ほっとした」
「お兄ちゃんから、何か聞いた?」
「何も。でも、何となくわかることはあるよ。私は、千波のお母さんなんだから」
「うん。そっか。そうだよね。……お母さん。私、もう大丈夫だから」
電話の向こうで、鼻をすする音。
「よかった」
震える声がただ一言、告げた。
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