第14話 クリスマスケーキ(SIDE耕平)

 書斎からは、キッチンの話し声は拾えない。

 ドアを叩く音で慌てて立ち上がれば、明るい表情で頬を紅潮させた千波が、顔を覗かせた。


「倫子さん、もう帰るって」

「ケーキできたの?」

「うん! 夜のお楽しみだよ」


 千波の様子を見て、ほっとする。

 書斎から出ると、倫子は既に帰り支度を整えていた。


「年末は、うちで一緒におせち作る約束したけん。森野くんも食べたい物があったら、リクエスト受け付けるよ」

「何日?」

「三十日。重箱ある?」

「あるよ。出しておく」


 またねと手を振り帰っていく倫子の車を見送って、千波と耕平は、家の中へと戻る。

 途端、千波が横から、耕平に抱きついた。


「あのね」

「うん?」

「一緒にお菓子作るの、楽しかったよ」

「それはよかった」

「それでね、もう少し、頑張ってみたいなと思って」

「慎太郎ん家のおんちゃんとおばさんは、慎太郎と一緒で、のんびりしてる」

「牛、見せてくれるって」

「慎太郎ん所はジンギスカンもうまいぞ」

「ジンギスカンって、羊?」


 耕平が頷くと、千波は一瞬、動揺した様子を見せる。


「そうだよね。食べるんだよね」


 靴を脱ぐ千波を眺めながら耕平は、大丈夫かなと、少しだけ心配になってしまった。

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