第13話 電話(SIDE耕平)

 ベッドの上で座り、腕の中で不機嫌に顔をしかめている千波の髪を撫でながら、耕平は苦笑を浮かべる。

 こんなはずではなかったのだが、恋人のあまりの可愛らしい行動に、制御不能となってしまったのだ。


 テレビの明かりに照らされて、ベッドで膝を抱えて眠る千波が纏っていたのは、耕平のカーディガン。

 その行動が寂しさからのものだと知って、愛しくて、興奮して、鼻血が出るかと思ったぐらいだ。


「母ちゃんと、電話で話したんだって?」

「そのことをね、話したかったんですよ」

「ごめん。千波が愛しくて」

「人間に戻りましたか?」

「はい。すんません」


 唇に触れるだけのキスをくれたから、どうやら許してくれるようだ。


「母ちゃんには、深いことは話さなかったけど、千波が東京で心と体を壊したから、こっちで過ごしてもらってるって説明しておいた。落ち着いたら紹介するから、来なくていいとも伝えた」

「お母さん、お正月に耕平くんの顔が見たいって言ってたよ。年末年始は、毎年旭川で過ごすんだって。耕平くんは行かなくていいの?」

「遠い」

「平塚ほどじゃないよ。車で……四時間ぐらい?」

「千波は、俺の親戚に会える?」

「結婚するなら会わないと」

「したら、再来年で良くないか?」

「せめて、ご両親には顔を見せたら?」

「それを千波が言う?」

「うわ、ブーメラン」


 耕平は、千波を抱えたまま布団へ倒れ込む。

 そのまま眠ろうと、千波と自分の体を掛け布団で包んだ。


「はじめて一緒に過ごす年末年始だ。俺は千波と、のんびり過ごしたい」

「北海道って、お正月はどう過ごすの?」

「普通だよ。大晦日におせちを食べて、年が開けたらお雑煮食べて」

「え? おせち、大晦日に食べちゃうの?」

「おせちって、大晦日に食うもんだろ?」

「うちは、大晦日は年越しそばを夕飯にして、おせちは年明けのお昼からだったよ」

「年越しそばも、食う」

「お雑煮は? どんなの?」

「家によって違うけど、うちは昆布で出汁取って、砂糖としょう油で味付けした甘いおつゆに、ナルト、ごぼう、しいたけ、人参、筍、鶏肉に、青菜が入ってる」

「やっぱり、地域によって違うんだね。うちのお雑煮は、昆布出汁にしょう油で、具はほうれん草と大根だけだった」


 少しずつ違う、互いの知るお正月についての話が楽しくて、年末年始の過ごし方について、二人はしばらく話し込んだ。

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