第2話 吹雪の中で(SIDE千波)

 覚醒して最初に頭に浮かんだのは、すごく久しぶりに熟睡したなという、睡眠の質への感想だった。

 鼻から空気を取り込み、思う。

 知らない場所の匂い。ここはどこだろう?


 目を開けてみれば、見覚えのない天井。

 部屋を見回して、窓の外の光景を目にして、思い出す。


「吹雪いてる。私、死ぬとこだったんだなぁ」


 ただ事実を、呟いた。


 家主の姿が見当たらない。

 壁に掛かった時計を見れば、もうすぐ正午。

 仕事に行ってしまったんだろうかと考えてすぐ、彼の職業は作家だったなと思い出す。


「森野さん?」


 遠慮がちに呼んでみたが、返事はない。


 とりあえず顔を洗おうと、小声で「借ります」と呟いてから洗面所を借りた。


 着替えも済ませてリビングに戻り、どうすべきかを考える。

 リビングには、二階に続く階段と、扉が一つ。そのどちらかに彼はいるかもしれない。

 とりあえず手近な扉を叩いてみれば、返事があった。


「入っていいぞ」


 入室の許可を得たため扉を開けると、そこは書斎だった。

 壁一面の本。その前に設置されたパソコンデスクに、彼はいた。デスクトップパソコンに向かい、何かを打ち込んでいる。どうやら仕事中のようだ。


「今キリ悪い。適当に時間潰してて。後ろの本読んでもいいし」


 ディスプレイから視線を外さないまま言われ、千波は素直に従う。

 彼には世話になったのだ。挨拶もなしに出て行くわけにはいかない。それに、吹雪の中で車の運転は、千波には無理だ。


 本棚には、様々なジャンルの小説があった。歴史の参考書もたくさんある。

 適当に一冊選んで手に取り、開いてみる。


 眠たくなって、気付けば舟をこいでいた。


「寝れば? そこのクッション、仮眠用だから。ゆらゆらされてると気が散る」

「……ごめん」


 他人の家でよくもまあここまで眠れるものだとは千波自身も思ったが、無自覚の内に相当疲労がたまっていたのだろう。眠気に抗えず、静かな眠りに落ちていった。

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