大陸ボス解放への道その4
アル:さて、と。あとは南の朱雀だけですね!
カーボン:砂漠用の耐熱装備しとけよ?
アル:もちのろんよ!
微妙に古い口調で話し合いながら四天王最後の敵を叩き潰す計画を立てる。まあ計画なんて言ったところで砂漠の抜け方がほとんどであって、朱雀自体の討伐計画なんてほとんど話し合っていないのだが……
カーボン:砂漠はスリップダメージは入るからな? 昼間用の耐熱装備と夜間用の耐寒装備が要るぞ?
アル:おーけー、装備変更マクロで一発で交換できるようにしておきました。
カーボン:よろしい
朱雀戦……というかそこに向かうまでで一番厄介なのは5マップほど存在する砂漠マップだ。なにしろ砂漠のスリップダメージはいくらレベルが高くても最大HPの割合でダメージが入る。1分に1%なので手こずるとかなりの体力が削られてしまう。さすがにHP全部を削りきられることはないと思われるが、念のため錬金スキルで作ったポーション等の回復アイテムや、俺なら耐熱、耐寒魔法。アルなら装備と言ったものが必要だ。
厄介なことに現実に比べて
運営のリアリティの必要性とやらはよく分からんな……明らかにここはゲームと割り切るところだろうに……
なお、朱雀自体は推奨レベル25なので一確の敵だ、道中の方が大変ってそれ一番言われてるから。
アル:ところでお兄ちゃん、朱雀のダンジョンまで何マップくらいなんですか?
カーボン:10マップくらいだな。砂漠がなけりゃ真っ先に攻略してるところだ
アル:砂漠ですもんねえ……なんでそこでリアリティ出しちゃいますかねえ……
カーボン:簡単にクリアさせないため以外ないだろうな
アル:ムカつきますね、****です
カーボン:システムにフィルタリングされるような発言はやめような?
アル:えー、だって実際*****で*****な****じゃないですか!
カーボン:お前の不満はよく分かったからその辺で黙ろうか!
不満を爆発させるアルを黙らせてから町の外、砂漠の手前までポータルを開ける。砂漠は移動が面倒くさいので、それ以降にはまだ一切ポータルを開けるようになっていない。
アル:その様子だと砂漠マップは一つも入ったことが無いんでしょう? まあ面倒くさいので気持ちは分かりますが、私と同じようなことを考えてるんじゃないですか?
カーボン:まあ……気持ちはともかく、口に……チャットに流すのとはまた話が違うぞ?
アル:と言うか私はフィルタリング無効にしてるんですけどお兄ちゃん有効にしてるんですか? 某ブラウザがカタカナで書いたら引っかかるようなガバガバフィルターですよ
カーボン:設定弄ると後から修正が必要になった時クッソ面倒くさいんだよなあ……
以前マクロに凝っていた時にガチガチに最適化したマクロを書いたが、その後の仕様変更でそれの効率がひどく悪くなった時には全部の書き直しをするか手動に切り替えるかの選択に迫られた。俺はこういうことは一度では済まないと直感が告げたのでそれ以降は手動の操作メインに切り替えた。
アル:じゃあ行きますかね?
カーボン:ああ、突っ込むぞ!
俺たちはポータルを開いて一マップ南に移動した。このマップの南以下五マップに渡って砂漠マップが続いている。
ダッシュを使用します
加速をしてからマップを走り出す、アルもちゃんとついてきている。
そうして数分後にマップの下端に到達した。
カーボン:こっからは砂漠だ、今は昼だから耐熱装備にしておけよ
耐熱魔法を使用します
クーリング・ダウン
高熱耐性を取得しました。
俺の方の準備は問題無い、高温、低温下において魔道士は魔法で調節がきく、多少装備で調整するより楽な方法だ。何故かこの魔法は自分にしか効かない。謎効果というのはこうも理不尽なのだった……
カーボン:じゃあ突入!
そうして俺たちは砂漠マップに飛び込んだ……嫌なにコレ、足の遅さが……!
平地マップの二分の一くらいの鈍足が付与されてしまっているようなものだ。実質この砂漠マップを一つ通過するのに倍の時間がかかるので5マップの移動に単純計算10マップ分かかると言える。
アル:何ですかコレ! 足おっそ! 実装チームは嫌がらせが得意なんですね!
カーボン:ちなみに新大陸の砂漠マップにはこの鈍足効果が無いらしいぞ。マジでこの大陸から出したくなかったんだろうな、鋼の意志を感じる
アル:こんな所にメンタルを使わなくていいんですよ!? 運営はなんでこの使用残してるんですか!?
カーボン:多分新規でギルド立てる人が減ったから新しく挑戦する人なんていないと思ったんじゃないか?
実際ギルドメンバーに一人でもクリアした人がいればギルド全体がクリア済み判定をされる。俺たちみたいな例外を除けばクリア済みのメンバーを入れた方が早い、中にはギルドクエストの大半をクリアして、その判定を付与するためだけにギルドに助っ人として参加するという小銭の稼ぎ方をしている人もいるくらいだ。
そうやって地道に走っていると日が沈んできた。
カーボン:アル、耐寒装備に切り替え
アル:おっけーです
アルはマクロで一瞬で装備を変更する。
耐寒魔法を使用します
ウォーミング・エアー
身体を暖かい空気が覆って砂漠の夜の寒気から身を守ってくれる。そうして更に進んでいくことになる。
砂漠の厄介なところはこの昼と夜の寒暖差だ。昼と夜がある以上、そこにこだわりを持っているのか耐熱魔法では対処できない。砂漠の夜は寒いのだ。
そうやって耐熱魔法と耐寒魔法を切り替えながら俺たちは朱雀のダンジョンへ向けて地道に走って行った。幸いなのは砂漠だけあってほとんど障害物がないのでオートランをしておけばどこかに詰まるようなことはない。
とはいえ、昼夜の切り替えに際して装備や付与魔法の切り替えが必要なので目を離せるかと言えばノーではあるのだが……
アル:ああ……やっと砂漠を抜けました……
本当に長い砂漠を通り過ぎると朱雀のダンジョンは目の前、鳥だけあってダンジョンと言ってもオープンな密林となっている。塔やドームじゃまともに飛べないからな……
カーボン:朱雀解放っと……
俺は朱雀のダンジョンへのポータルを登録する。これでどこからでもダンジョンに直行できる。
カーボン:さて、もう十一時を過ぎたし攻略は明日にするか?
アル:絶対に今日クリアします! お兄ちゃんがこの前私をおいてったのを忘れてませんからね!
どうやら青龍の件がトラウマになってしまったらしい。PCに触ったらボスが死んでたんだから驚くのも無理はないか……
カーボン:分かったよ……じゃあさっさと朱雀ダンジョンRTAを始めるぞ!
アル:はい!
そうして入った森の中には朱雀が眠りについていた。先手必勝とばかりに挑発スキルを打ち込むアル、それに対して朱雀は飛びあがって攻撃を始めた。
アル:お兄ちゃん……届きません……
カーボン:じゃあ俺が魔法で落とすな
グラビティ
本来であれば鈍足付与の魔法だが飛んでいる敵を落とす効果もある。まるでダチョウのごとく地面に張り付いて走り回る朱雀には哀れみさえ覚えた。
アル:どっせえええええい!!!
ヘヴィスラッシュ
朱雀のHPがあっという間にゼロになった、初戦推奨レベル25だからアルのレベルの攻撃に耐えられるはずはないのだった。
アル:気持ちいいですね! 圧倒的な力で相手を滅ぼす! これほど楽しいことがアルでしょうか?
どこかの大魔王様みたいな発言をしながらドロップの中から使い道のある消耗品を取って、今更感あふれる装備をぽいぽいと地面に捨てていた。
そしてボス部屋に出来たポータルに飛び込んでダンジョンの外に出て、そこから更にポータルでプリミアの近くに飛んだ。
そうして待ちへと向けて歩きながら会話をする。
アル:安定の雑魚でしたね
カーボン:俺たちのレベルからしたら当然だけどな、むしろ朱雀が気の毒まである
アル:いいじゃないですか! 私は非常に気持ちよく倒せましたよ?
カーボン:それは何よりで……
そうしてアルをログアウトまで見送ってから、俺はギルド統括本部に四天王討伐の報告に向かうのだった。
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