旅の終わり、竜の王

アル:お兄ちゃん! いよいよ新大陸解放ですね!


カーボン:最後のボスが残ってるがな


アル:四天王ぶっ倒したのにまだ残ってるんですか……


カーボン:そりゃまあ拡張パック発売前の最後のボスだからな


 プリミティブオンライン初めてのラスボス……ラスボスが複数いるのかと思う人もいるかもしれないがネトゲではよくあることだ。そんなよくあることをこなさなければ新大陸に行くことはできない。


 正確に言えばギルドとしてクリアしていればいいのだが……まあ俺達がクリアしていないということだ。


アル:で、最後のボス……まあ最後じゃないわけですが、それは一体何なんです?


カーボン:キングオブドラゴン――以下ドラゴン――、竜種だな。推奨レベルは30、ま、雑魚だな


アル:雑魚と分かっていても戦わないわけには行きませんね!


 こうして俺達はスターターパックにおけるラスボスと戦うためにクエストを受注するのだった。


 ギルド統括本部にて……


ギルド統括官:君たちの実力は聞き及んでいる、無茶を承知でドラゴン討伐をお願いしたい。コイツは我々が束になっても勝てないのだ


アル:こいつらやる気が無いほどの雑魚の集まりですね……たかだか30レベルで勝てる敵に束になって負けるとか


カーボン:当時は最強のボスだったんだよ


 こうして俺達は「竜の巣」へのポータルを解放したのだった。このボスに関してはギルド統括側が死闘の末にドラゴンの居場所までポータルを開いてくれるようになっている。決して東西南北を制覇したからドラゴンをどこに配置すればいいか悩んだ果ての苦肉の策ではない……らしい。


カーボン:じゃあドラゴン戦突っ込むか?


アル:ボス戦にしては緊張感のかけらも無いですねえ……


カーボン:所詮は初期実装組だからな、ちなみに実装初期の売り文句は「一生かかっても遊びきれない」だったぞ


アル:じゃあ装備とかもこのままでいいですよね?


カーボン:ドラゴンなんて俺が殴って倒せるほど弱いぞ?


アル:じゃあなんで倒してないんですかねえ……やっぱりぼっち……


カーボン:事実を並べるのは時として人を傷つけるんだぞ!


カーボン:ああそうだ、チキンを暖めてくるから待っててくれ


アル:死亡フラグですか?


カーボン:お約束って奴だ、「でも僕にはチキンがあるから」さんはとても強いぞ?


アル:そもそもチキンって家にありましたっけ?


カーボン:俺の買ったサラダチキンがある


アル:暖めるものじゃない気がするんですが……


 俺は験担ぎにキッチンに向かい冷蔵庫のサラダチキンを皿にあけて電子レンジに放り込む、三十秒くらいでいいだろう。


 チーン


 暖まったチキンをもって部屋に帰ってくる。アルは行儀よくその場で待っていた。


カーボン:ちゃんと待ってたのか


アル:元ネタの人も周りの人は待ってましたからね


カーボン:じゃあレッツゴー!


 竜の巣へジャンプしますか?

 →はい

 いいえ


選択してボスの下へとジャンプする、アルも即ついてきた。ジャンプ先は高い山の中心にできたくぼみだった。なるほどドラゴンの巣にはおあつらえ向きだ。なお、こんな地形がアルテアにはなかったことについて突っ込んではならない。


ドラゴンが眠っている場所へ飛び、あとはドラゴンが起きる範囲に入ればバトルスタートだ。


カーボン:準備はいいか?


アル:この大陸では負けるはずがない程度には完璧ですよ!


カーボン:じゃあ突入!


 ドラゴンの巣の中心に入ると周囲がドラゴンの炎で焼き尽くされ脱出不可能になる。なるほど、オープンな場所で逃げられないようにするには良い演出だ。


アル:雑魚のくせに演出だけは熱いですね?


カーボン:一応ラスボスだったんだから演出に凝ったんだろう


ドラゴン:なにかと思えば人か……くだらんな……


アル:ドラゴンが必死に強キャラ感を出してますね


カーボン:言ってやるな……かつての栄光にすがってるんだろう、ドラゴンさん迫真の輝ける場面だぞ


アル:お兄ちゃんの方がひどい言い方な気がしますが


 そんなチャットをドラゴンが口上を述べている間に流す。コイツに負けるやつはほとんど居ないだろう。


ドラゴン:では人間よ、我の前に恐怖せよ!


 ばばーん


 戦闘が開始されたが緊迫感のかけらも無い戦闘が始まった。


アル:で、どっちがとどめを刺します? 多分一撃ですよね?


カーボン:俺の出番は無さそうだな、一応攻撃用神聖魔法は持ってるけど


 ゴーゴー


 ドラゴンのブレスが俺達を包む


アル:私がスマッシュ一発で倒しても良いですけど、見栄えは神聖魔法の方が良いですね?


 カチコチ


 今度はドラゴン必死の氷結ブレスで俺達の周囲に氷が走る


カーボン:見栄えは気にしないけどな、経験値だって同じように入るし


 バチバチ


 ドラゴンの電撃ブレスが俺達に当たる


 なお、もちろんのことだが今までの攻撃で俺達はダメージを受けていない。正確に言うと多少は受けたが自然回復の方が早くてダメージが追いついていない。


アル:お兄ちゃんとの記念みたいなものですからね! 私よりレベルの高いお兄ちゃんが倒した方がドラゴンさんのプライドも保てるんじゃないですか?


カーボン:NPCにプライドも何もないと思うが


 ガッ


 ドラゴンの爪が俺に振り下ろされる


カーボン:あっ!


アル:あっ!


 このゲームではデフォルト設定で近接物理攻撃を受けると自動で戦闘モードに移行し、オートアタックが始まってしまう。要するに……


 ぺしっ


 俺のワンドでの殴打が一撃、ドラゴンに直撃する。70のレベル差は伊達ではなくドラゴンのHPゲージが一気に0になった。


ドラゴン:ぐわあああ……最強の主たるこの私が……人ごときに負けるだと……


 その叫びと共に哀れドラゴンさんは光の粒となって消えていく。


カーボン:一番しょぼいやり方になったな……


アル:まだ私が一発入れてた方がマシでしたね……


 パッパパーン


 勝利のメロディが流れ町へのポータルが開かれる。受注場所がギルド統括なので今回は町へ直接飛ぶことができる。


アル:帰りますか……


カーボン:だな


 俺達は気の毒なドラゴンを倒し、帰還用ポータルに入った。


 ギルド統轄に機関が可能と言っても今回飛ぶのはエンディング専用のギルド統括本部だ。どう違うかと言えば戦勝会が開かれているエンディング専用に作成されたフィールドだ、専用なので他のパーティはまったく居ない。


ギルド統括職員:新たな英雄の誕生に乾杯!


一同:乾杯!


 とまあクリア特典として専用フィールドで健闘を称えられるのだ。


 悪い気はしない、英雄と呼ばれるのがこの大陸限定だとしてもだ。


 一瞬の暗転のあと、拡張パックで追加された演出が入る。


職員:緊急! 緊急! 新大陸にて大型モンスターを確認! 協力要請が入りました!


 ここで大騒ぎが新たに追加されて新大陸への航路が解放される。


職員:さっきの今で申し訳ないのだが、新大陸での活動をお任せしたい。あなた方はそれだけの実力者だと確信している


 こうして新たなクエスト「新大陸で」が解放されたのだった。


アル:茶番感がありますね……


カーボン:エンディングに後付けしたんだからしょうがないだろ、じゃあ新大陸編に突入するぞ?


アル:明日からですね、もうそろそろ日が変わります


 こうして俺達のギルドに新たなクエストが一つ追加されたのだった

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