税金の使い道

 さて、今日もクラフトクエストでも引き受けるかな……


 妹のアルがいないと戦闘を伴うクエストには向いていない、レベルの力でゴリ押しできなくもないがヒーラーとしてレベルキャップに到達している俺があえて戦闘をする意味はあまりない。アルがいればアイツに経験値が入るので多少の意味があるのだが……


 今日は……ポーションの調合でもするかな?


 店売りの品だけで調合できて、ちゃんとギルドのランクに関わるクエストといえばこれだろう。錬金スキルはまだカンストには遠いので、これをこなしてスキルアップする意味はある。


アル:おにーちゃん? 相変わらず退屈なクエストを探してますね?


カーボン:は!? お前学校は?


 妹は現在学校に行っているはずなのだが……前場が終わって暇をしている俺と違ってちゃんと学校で社会的な生活をしているはずなのだが。


アル:ああ、情報の授業で自習なんですよ、無駄にスペックの高いPCですよね、税金ってこんな使い方をされるものなんですね!


カーボン:俺が払った税金も多分今使ってるソレの一部に使われてるんだから感謝してくれ……


 税金の闇……俺が払った市民税が高校のPCとして使われているのか……別にいいけどさあ……


アル:分かってるって! お兄ちゃんには感謝してますよー! それにしてもゲーム一本を簡単にダウンロードできる回線ってスゲーですね?


カーボン:一体何時間の自習なんだよ!? シンクライアントだろう? 再起動したら消える奴じゃないの?


アル:たったの1時間ですが20分でダウンロードが終わりましたね、まあシャットダウンすれば消えてしまう一握の夢なわけですが……


カーボン:インフラ担当に監視されてないのか?


 アルは頷いてからジャンプしてtellを送ってくる。


アル:VPNって知ってますか?


カーボン:そういう使い道するから各所で使用禁止されるんだよ!


 VPNは通信経路を暗号化して何を送受信しているか分からないようにしてしまうのでコンプライアンスにうるさいところだと大抵禁止されている。そもそもログ無しのネットワークなんてロクな使い道をされないのが基本だ。


アル:お兄ちゃん、バレなきゃ何の問題も無いんですよ? それに誰だってわざわざもめ事を抱え込みたくはないでしょう? つまりこのPCをシャットダウンした時点でご丁寧にログを掘り返す必要なんて無いんですよ


カーボン:悪い妹だなあ……


 確かに教師もご丁寧に問題を探し出して存在しない問題を掘り起こす必要は無いだろう。臭いものには蓋を、日本文化だなあ!


アル:と言うわけでお兄ちゃんのクラフトクエストを30分ほどお手伝いしますね!


カーボン:勉学に励めといいたいところだが、まあ12時半までは時間が空いてるからいいか……


 現在正午、トレードの後場が始まるまで30分、ポーションならそれなりの数を錬成できるだろう。


カーボン:じゃあポーションの調合な、二人がかりでやるぞ?


アル:りょーかい!


 いい返事とともにフラスコを持ちだして調合を始める、ポーション程度なら専用の設備がなくても作れるように実装されている。リアリティよりダンジョンなどでその場で回復アイテムを作れた方が便利という事情を優先したのだろう。


 アルは学校のPCなのでお得意のハードウェアマクロは使えない、単純にインベントリからアイテムを選択して錬成を選び続けるだけの単調な作業だ。


 しゅうしゅう……じゅわ……シャキーン


 一丁上がり、ポーションは未熟な錬金スキルでもほぼ失敗しないお手軽なアイテムなので楽でいい。何故俺の錬金スキルが低いのかといえばほとんど全ての理由は俺の回復魔法がポーションの上位互換なのでついぞ使う機会が無かったのだ。


 アルも規則的にフラスコをカタカタさせながらどんどんと錬成を進めていく、順調だ。このペースならクエストの目標個数の32個は十分達成できるだろう。


 実はこのクエストの報酬は少ない、何故こんな初歩的なクエストを受けたかといえばひとえにスキマ時間でこなせるからに他ならない。


 受注時は休憩中に半分くらいこなせるだろうと踏んでいたが、幸い(?)アルが協力してくれている。実のところアルの回復薬の作成スキルは俺より上だったりする。何しろタンクは回復魔法をほとんど覚えない、頼れる人がいなければ自分で作るしかない。


 俺のギルド眠れる獅子に入る前には自分で回復薬を作っていたのでマクロ等を使わなくても慣れた作業だと以前聞いていた。


 問題点としては錬金スキルはINTに大きく依存するため圧倒的に魔道士系の職が有利になっている。だが通常品質のポーション程度なら戦士でさえも錬成に失敗することがほぼ無い程度の簡単な作業だ。


 シャキーン……シャキーン……シャキーン


 どんどん作成が進んでいく、俺の方がやや早く作れているが一人よりは圧倒的に早く錬成できている。謙虚なナイトはポーションが作れたことなど自慢するほどでもないらしく、アルは黙々と錬成を続いていった。


 三一……


カーボン:後1個……


 シャキーン


アル:上手に出来ましたー!


 俺が20個、アルが12個を作成したのが十二時二十五分、ギリギリだがギルド統括本部に納品をしてトレードアプリを起動させた。多少重いが一応このゲームとの同時起動は可能なスペックのPCを使っている。


アル:じゃあお兄ちゃん、あんまり怪しい通信すると怒られるので落ちますね、さらば!


 そのログとともにアルは町から姿を消した、アイツが無事怒られることなく午後の授業を受けられることを祈ろう。


 株の指標を眺めながらギルドランクが多少上がったのを安心して見る、株も同じように順調に上がってくれれば助かるんだがなあ……


 まあそんなことを愚痴っても経済がよくなるわけではないので、俺はチャートを眺めながらもう一つのディスプレイで露店を開いているキャラの売れ行きを眺めながらいつもの作業を続けていった。


 ピコン


 珍しいな、スマホに着信か……


 メッセンジャーの着信音に少し驚きながらポケットから取り出した画面を眺める。


 ソレは妹からのメッセージであり……


『お兄ちゃん! ちょっと私と雑談してただけだと先生に説明してください!』


 どうやら我が妹はインフラ管理者にしっかり確認されたらしく、謎の大量の通信について聞かれたらしい。俺は妹のスマホ宛に電話をかけて何年ぶりになるかも忘れたほど教師にこってり妹ごと一緒に怒られたのだった。

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