ギルド対抗戦
アル:ギルド演習戦?
アルはそう言って首をかしげるモーションをする。
カーボン:要するにPvPだな、人間相手だから今までと攻略法も違うぞ
俺たちは演習戦場の前でギルドチャットをしていた。模擬戦というのは対人戦の入門編のようなもので、NPCとの戦闘に飽きた人に向けて初めて実装されたPvPになる。上位レベルのギルドだと、国家間戦争と言ったものにも参加可能だが、この
俺たちはコロッセウムを模した建造物の前にいる。
アル:でもPvPってなんかギスギスするような気がするんですが?
カーボン:その辺は皆割り切ってるよ、PvPで負けたからってわめかない程度には慣れてる、どうせデスペナルティも無いゲームだからな、結構初心者さんもいるぞ?
アル:ホントかなあ……
訝しみながら建物を眺めるアル、さてと……
カーボン:とりあえずプリミアに戻って作戦会議だな!
アル:そうですね
俺がポータルをプリミアの前に開いて飛び込む、町の中に入ると街角で対人戦についてのtellを送りあった。
カーボン:まず、相手は俺を狙ってくるだろうな
アル:お兄ちゃんが狙われるんですか? 私が壁ですよ?
壁……キャラクタークリエイトの時に自分に寄せたせいか大変胸が控えめなキャラを見て考える。
アル:お兄ちゃん? なんか運営に怒られそうなこと考えてませんでしたか?
カーボン:ハハハ……まっさかあ!
視線が痛いがまあそれは置いておこう。
カーボン:まず対人戦では相手のレベルが見えないようになっている
アル:まあレベルが一番低い人を狙うのは基本ですからね
カーボン:そしてヒーラーは一番落ちやすい、俺はプリーストでジョブの中では一番VITが低い『ように』見える
アル:でもお兄ちゃん滅茶苦茶固いじゃないですか?
カーボン:その辺の値も相手からは見えないからな、ぱっと見雑魚っぽいヒーラーがいれば狙うだろ? その上ヘイトなんて概念は対人戦には存在しないんだからな
対人戦の厄介なところはお互い一番弱いところからお歳にかかるところだ。
アル:ところでお兄ちゃん?
カーボン:なんだ?
アル:この前やった旗取り合戦とどう違うんですか?
カーボン:いい質問ですねえ!
アル:そういうのいいですから……
カーボン:前回の
アル:それってそんなに違うんですか?
カーボン:盾役が旗を守るのが基本だったCTFに比べて今回は盾が相手を出来るだけ通さないようにする、守る物が違うんだ
アル:他に違いは?
カーボン:『ギルド』演習戦というだけあって戦うのはギルド単位だ、前回は俺たち以外も数人いたけれど今回は俺たち二人で戦うという厳しい戦いになる
アル:なりますかね? レベル差が違いすぎると思うんですが?
カーボン:ギルドは参加人数にもよるが平均八人程度で相手になるからな、平均して相手数が四倍という圧倒的な数の差がある
アル:で、私たち二人で戦うんですか? どうやって戦います?
どう……ね。選択肢なんて無いだろうに……
カーボン:俺が後ろから回復魔法かけるから前に立って攻撃を受けながら相手を削っていく、リスポーンは無いからどっちが先に倒せるかだ
アル:私の勝手な予想によるとかなり厳しくないですか? 相手にはヒーラーもいるんでしょう?
カーボン:まずいるだろうな。先制攻撃はヒーラーを狙いたいところだが相手には前衛がいて、こちらには後衛まで届く攻撃を打てるのが俺だけだ、回復サボってヒーラーを狙うわけにもいかんだろう。
アル:でもそれじゃ勝てないんじゃあ……
カーボン:そこだ、ヒーラーには最大MPがある。俺はカンスト、相手はまあそれなりだろう。アルがランページを使用して盾と剣になって削っていれば相手の方が先にMP切れを起こす
アル:つまりMPが無くなるまで削り合うということですか?
カーボン:ああ、これが二人ギルドで勝つための方法だ
アル:ま、やってみましょうか!
俺はコロッセウム前にポータルを開く、簡単な作戦会議は終了。後は相手を打ち倒すだけだ。
受付のNPCにマッチングの申請をして相手が揃うのを待つ。少し待っているとピーンと鳴ってマッチング完了の合図が出た。
戦場へのポータルが開かれるので俺たちはそこへ飛び込む。相手は平均の八人、まあもんだ無いだろう数だった。32人とかで来られたらどうしようとか思ってたので一安心だ。
アル:お兄ちゃん、戦略は?
カーボン:とりあえず逃げる、反撃は狭い道に入ってからだ。ダメージは無視していいだろう
アル:りょーかい!
ギルド『眠れる獅子』と『夜明けの黎明』の模擬戦を開始します
システムアナウンスがそう流れた途端に相手チームは俺たちに向かって全力で魔法や矢を飛ばしてくる。ダッシュコマンドを使用して俺たちは即その場を後にして通路が狭くなっているところに逃げ込む。
向こうもわざわざ袋小路に逃げ込んだと思ったのだろう不用意に追いかけてきてくれた。
ライトニング
ファイアーボール
アイスジャベリン
相手の使ってくる魔法からそれほど高レベルでないことは推測できる、実際俺たちが逃げている最中に受けた遠距離攻撃のダメージも治療が必要なほどではなかった。
そうして逃げていった狭い路地で相手はタンクを先頭に出し後衛の弓術師と魔法使いが俺たちに細かい攻撃をしてくる。
俺はアルに指示を飛ばす。
カーボン:バッシュでタンクのHPを削れ
アル:あの程度の敵なら一撃で倒せそうなスキルもありますよ?
カーボン:いや、こちらが高レベルだと悟られるのはマズい、あくまでも『たまたま』袋小路に逃げ込んだ運の悪いパーティだと思わせろ
バッシュ
バッシュ
……
何度も削っていると相手のHPが徐々に削れてきた、どうやら向こうのヒーラーのMPが枯渇しつつあるらしい。チャンスだ!
カーボン:アル! 強力なスキルを使え! 逃げられると厄介だ!
アル:よっし! やりますよー!
ジャッジメント・レイ
ライトニング・サークル・エンハンスメント
ディバイン・インパクト
俺たちの攻撃によってタンクが落ちる、一番面倒な相手が落ちたので残りの連中にも攻撃をかけるが、こちらはVITにあまり振っていないキャラなのでアタッカーの皆さんはあっさりと落ちた。
最後にこのパーティを一人で支えたヒーラーに敬意を表しながらアルがザシュっと切りつけてその試合は終わった。
ギルド『眠れる獅子』が勝利しました
そのアナウンスで俺たちにはボーナスアイテムとギルドポイントが手に入った。
そうしてギルド演習戦場からでると、相手ギルドの『夜明けの黎明』もそこにいた。彼らはこちらを観察しながらsayで話しかけてきた。
なーみん:レベル100! なんでこんなところで演習戦やってるんですか!?
モチ太郎:ナイトさんもレベルおかしいですよ! どう考えてもこんな所にいる人じゃないでしょ!?
アルミン:野生のラスボスかな?
アル:まあ私たちも暇つぶしに参加しただけですからね、と言うか怒らないんですね? 8対2で負けちゃったのに
なーみん:ゲームの勝ち負けでグチグチ言うもんじゃないって。俺たちはあそこで戦って負けた、以上! 後は同じサーバにいるキャラクターの一人だよ。ま、それはそれ、これはこれってやつだね
蒲焼き太郎:まあそのレベルでここに居るとは誰も思わないだろうしねえ……
そうして幾らかの会話を交わした後そのギルドとは気持ちよくお別れをした。
アル:お兄ちゃん! やっぱり勝つっていいですね!
カーボン:全力を尽して戦うのも楽しいだろう?
アル:はい! とっても!
そうしてアルは喜ぶモーションをとった後サヨナラと手を振ってログアウトしていった。一般人が言うところの夜明けが近くなっていることが窓の外が仄朱いことから分かった。
さて、今日のお仕事を始めますかね……
俺は気持ちよく運動した後のように相場に向き合うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます