鍛冶クエスト(おまけ編)

アル:さて、ここからは鍛冶スキルの出番ですね……


 アルはそうログに流す、どこか不機嫌そうなのを隠そうともしていなかった。


 分かるよ? ブロンズナイフ64個のために採掘から始めたんだからね? そりゃあ面倒くさいさ、もうちょっとやる気を出せなんて言えた立場じゃない。


カーボン:露骨に嫌そうだな……?


アル:お兄ちゃんだって分かってるでしょう?


カーボン:そりゃ……まあな……


 俺だって面倒くさいと思っているのが正直なところだし、こんな実装にした運営にモンクの一つも言いたいのが正直なところだ。しかし俺には諦めと覚悟がある、これはどうしようもないことなんだ。


 さて、さっさと鍛冶を始めるか……


アル:お兄ちゃん、私のマウスマクロが火を噴きますよ!


カーボン:多ボタンマウス使ってんのか……


 アレ使いにくいと思うんだけどなあ……ロジクールとかrazerとか出してるけどさあ……


アル:ふっふっふ、ではマクロを組んでくるのでちょっとafkしますね!


カーボン:いてらー


 そうtellを送って、AFK状態にするアルを眺めながら俺はブロンズナイフの素材になるブロンズインゴットを作り始める。


 カンカン……カンカン……


 少しの寂しさを感じながら一人で延々と炉に入れた銅鉱と錫鉱を溶かして叩く。


 稀に制作中に素材が壊れることもあるが、ソレを考慮しても問題無い量の鉱石がギルド倉庫には入っていた。そうして孤独にインゴットに鍛冶用のハンマーを叩きつけながら空調の効いた部屋でよかったなあなどと、赤色に燃える炉から真っ赤になった金属を叩く様子を見て優越感を感じる。


アル:お待たせしました!


 そんなtellがアルから飛んできた、どうやらマウスマクロが完成したらしい。


アル:ふっふっふ……このマクロがあればボタン一つでインゴットからナイフまで制作可能ですよ!


 多ボタンマウスがそれほど使いやすいのかは不明だが、自由にキーを割り当てられるのは便利だなと思う。


アル:で、お兄ちゃん、現在のブロンズインゴットの数はいくつです?


カーボン:10個ってとこだな、ナイフ一本に一個使うからあと54個いる


 炉に鉱石をぶっ込んで作り続けてみたがどうしても効率が悪い、STRが低いこともおそらく内部値で影響しているのだろう、STRは金属加工の早さに影響する。


 DEXも一応関係があり、ブロンズインゴット程度であれば問題無く作れるのだが、上位装備になると成功率に関わってくる。


 つまり何が問題かと言えば……


カーボン:ヒーラーに人権ってないのかな?


アル:まー……戦闘になったら絶対必要なので良いんじゃないですか?


 慰めの言葉をかける妹に、少し自分の情けなさを感じながら再び鍛冶に戻る。


アル:おにーちゃん、そんなにすねないでくださいよ! 私にはお兄ちゃんが必要ですよ!


カーボン:そりゃどうも……ちなみにどういった意味で必要なんだ?


アル:お兄ちゃんが私の分も課金してもらってますからね! ゲームを続けられるのはお兄ちゃんのおかげです!


 金づるかよ! 思った以上に酷い理由だった……もうちょいマシな理由を思いつかなかったのか……


カーボン:そうですかい……俺は金以外価値が無いと……


アル:いえいえ! ちゃんとお兄ちゃんは頼りにしてますよ! なんなら私がお兄ちゃんに就職したいくらいですね!


 そのフォローが無理矢理のような気がするのだが……考え出すと泥沼にはまりそうなのでソレについては聞かないことにしよう。


アル:まあお兄ちゃんにスマホ代も払ってもらってますし? 私はお兄ちゃんがいなきゃ社会的な生活が出来ない自信がありますよ!


 そう送って胸をはるモーションをする、ソレはやっぱり金目当てと言っているのと変わらないと思うのだが……


アル:私は尽すタイプですからね! 面倒なクエストも私にかかればじゃんじゃんこなしていきますよ!


 心強いことを言ってすごい勢いでブロンズインゴットを作り出した。


 炉の付近に立ってから途切れること無くスムーズにカンカンと銅鉱と錫鉱を精錬してインゴットにしていく。鮮やかに機械のごとく……いやマクロだから機械そのものか……ドンドンとインゴットを作り出していく。


アル:どうです! もう20個で来ましたよ!


カーボン:マジですごいな……お前楽をするためなら手段を選ばないタイプだな?


アル:一流というのは得てしてそういう物ですよ?


カーボン:ホント技術力の無駄遣いだなあ……


アル:でも今は役に立ってるでしょう?


カーボン:おっしゃるとおりで


 確かに今ここで役に立ってるので文句を言ってもしょうがない、ここはアルに任せて、俺の方はぼちぼち作っていくか。


 カンカンと金属を叩く音だけが響き渡り、どんどんとインゴットが出来ていく、まるでペットボトルの制作過程のごとくあっという間に完成していく。


アル:よし! インゴット64個一丁上がりです!


カーボン:予備はいらないのか? 失敗した時の素材ロストは考えた方が……


アル:そうですね、私は失敗しませんから


カーボン:どっかの医者みたいなことを言うな、それちょっと古いぞ?


アル:お兄ちゃん、そんな些細なことにケチをつけないのが長寿タイプの秘訣ですよ?


カーボン:はいはい、じゃあ謙虚なナイト様に制作はお願いしようかな


 アルはふんすと胸をはってカンカン、ジリジリとインゴットを整形して研いでいく、こちらの分のマクロも組んでいたらしく完全に自動だ。


アル:ハハハ! 楽勝楽勝! ガンガン作っていきますよー!


 鍛冶作業をしながら余裕でチャットも飛ばしてくる、生き生きとした(ように見える)妹の姿に少し感心してしまった。


アル:お兄ちゃんもゲーミングデバイス教に入りませんか? すっごく快適ですよ?


カーボン:やだよ……無駄にピカピカ光るじゃんアレ……俺はアイボリーのキーボードが好きなんだよ


アル:あのキーボード年寄り臭い割にやたらと高いんですよねえ……どうせ部屋の中でしか使わないならパチものの青軸がいいと思うんですが……


カーボン:やだよ、メカニカルは疲れるんだよ


アル:おやおや、じゃあ多ボタンマウスはどうです? 光らないものもある……あるのかな……? あるんじゃないかな?


 無駄にボタンがついたマウスにも需要はあるらしく、十ボタン以上クリックとは別にボタンがついたマウスがある、FPSやTPSなら使いやすいのかもしれないがキーボードが手元にあればわざわざ使う理由は思いつかない。


カーボン:俺にはオーバースペックだな、そんなにたくさんボタンはいらない


アル:お兄ちゃんの普段使いにも便利ですよ? コピペなんかにも使えるんですよ?


カーボン:利便性の代わりに信頼性を犠牲にしようとは思わないんだよな……


 鍛冶をしながら不満なモーションを取るアルを器用なことをするやつだと思いながら待っていると、作業がストップして喜びのモーションが目に入った。


アル:どうですお兄ちゃん! 高品質が1割を超える成果ですよ!


カーボン:今回は高品質である必要は無いんだよなあ……


アル:そこはまあ自己満足と言うことで……なんにせよ64個のノルマを私たちはこなしたんですよ!


カーボン:さすがに今回のはキツかったなあ……


アル:私のおかげでクリアできたってわけですよね?


カーボン:そうだな……確かに助けられたよ、ありがと


アル:いいですねえ……お兄ちゃんのデレは貴重ですからねえ……スクショ取っておきました!


カーボン:スクショ撮るのは止めないけどSNSに上げるなよ? ネットのおもちゃになりたくはないからな?


アル:私のお宝をポンポン人に見せるはずがないでしょう! これは私だけの宝物ですよ!


 なんだかよく分からないが、とにかく俺たちがギルドクエストを達成したことと、それがアルのおかげに寄るところが大きいことは確かなので、俺はそれに対して頷くモーションをしてご機嫌を取るのだった。

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