鍛冶の仕事の八割は採掘だ、そこから先はオマケみたいなもんだ

アル:お兄ちゃん! クラフトスキルのレベルが上がりました……


 妹からtellが飛んできた、何故かその口調? は重い。


カーボン:なんでそんなに嫌そうなんだよ?


アル:だってお兄ちゃん、レベルが上がったからクラフトクエスト受けようって言うじゃないですか!


カーボン:よく分かってるじゃないか、じゃあ今回はニュービー向け装備を作ろうか


アル:今更初心者向け装備が要りますか? みんな上級装備をマーケットで買ってるじゃないですか!


カーボン:よく分かってるじゃないか


 隣の部屋から壁をドンと叩かれたらしく、部屋に鈍い音が響いた、別にそんな怒んなくてもいいだろ……だよな?


アル:お兄ちゃん、ギルドクエストをこなさなければならないのは分かりますがね、もうちょっと楽しいクエストをやりましょうよ?


カーボン:どうせやらなきゃいけないクエストだろう? それとも別のクリア済みギルドに移るか?


アル:ハッハッハ……冗談に決まってるじゃないですかー! じゃあ鍛冶ギルドに行きますよー!


 ヤケクソ感がすごく伝わってくるtellが送られてきてポータルを開くように頼んできた。


 俺は鍛冶ギルド前にポータルを開いてさっさと飛び込んだ。


 ひゅん――


 俺たちは鍛冶ギルド前にワープする、ポータブルな設備の仕様がアンロックされるのがこの大陸を出てからだから先は長くなる。


 ギルドのドアを開けるとカンカンというSEが響いてきた、この部屋の中でなら自由に鍛冶作業が出来る、だったらポータブルの解放をもっと早くしても良いのではないかと思うのだが、簡単にクリアされたら困るからだろう、これもオープンベータ時代からの名残と言える。


カーボン:んじゃ、受注してたブロンズナイフ64個納品行くぞ!


アル:はーい……じゃあブロンズインゴットから制作ですね……クッソ面倒くさいです……


カーボン:そう言われてもな……今のスキルレベルなら制作成功率も高いだろう? 割と早くいけるんじゃないか?


 アルは首をフルモーションをとる。


アル:お兄ちゃん、ギルド倉庫の在庫くらい確認しましょうよ? 私たちには銅鉱も錫鉱もそんなにたくさん持ってないんですよ?


カーボン:マジで!?


アル:マジですよ! 銅鉱10個、錫鉱5個、さあこれで作れるブロンズナイフはいくつでしょう? なおブロンズインゴット一つに銅鉱2個、錫鉱1個が必要です


カーボン:足りない分は採掘だな……


アル:はい、と言うわけで二人でしばらく鉱石の採掘がお仕事ですね


 マジですか……銅鉱も錫鉱もそれなりに手に入る採掘アイテムだ、しかしインゴット64個はあまりにも量が多い、ギルドの納品依頼は畜生レベルの無理ゲーだ。確かに俺がギルド倉庫を管理していなかったのは俺のミスだ。しっかり者のアルがいたせいでついついサボってしまっていた。


カーボン:今日は採掘で一日潰れそうだな……


アル:お兄ちゃんが安請け合いするからですよ? クエスト受注したらキャンセルできないんですから……違約金が高すぎるんですよ


 クエストの失注は随分な量の違約金を取られる、ダメ元でクエストを受注して突撃してしまうのを防ぐための実装だ。


 クソみたいな実装だがゲームの延命という観点で言えばまったくもって正しい、より不便に、より時間がかかるものが月額課金のゲームとしては正しい。プレイヤーが長く続けるほど利益になる、経済学上完璧に正しい実装だ。なおユーザからの評判はお察しだ。


アル:愚痴ってもしょうがないですし、ピッケル装備してさっさと鉱山に行きますよ!


 ここら辺の気持ちの切り替えの良さが妹のすごいところだ。俺が苦行になったクエストにげんなりしているのに対し、やるべき事になったらスッパリ行動に移すあたりが思い切りがいい。


カーボン:じゃあ行きますかね……


アル:お兄ちゃん! 元気出してください! 私が応援しますよ!


 そう送ってきて応援のモーションをとるアル。やるとするかな……


 俺はインベントリからピッケルを装備する、採掘スキルのレベルはそこそこだ。


アル:装備できましたね、んじゃポータル開いてください


カーボン:はいよ


 洞窟前にポータルを開く、何の躊躇もなく飛び込むアルを見ながら気持ちの切り替えがすごいなあと思いながら俺も入った。


 画面が鉱山の坑道前になる、ここは廃鉱山という設定なので自由に出入りできる。リアリティなどと言ってはいけない、これはゲームなのだから。


アル:さて……とりあえずお兄ちゃん、神聖魔法で雑魚を一掃しておいてくれますか?


カーボン:オーケー、任せておけ


 ジャッジメント・レイ


 鉱山の入り口付近でも銅鉱と錫鉱は採掘できるので周囲を軽く殲滅しておけば採掘に集中できる、ジャンプをして準備完了と合図を出すとアルはダッシュで坑道に突っ込んでいった。


 カン……カン


アル:お兄ちゃん、採掘の調子はどうですか?


 しばらく採掘をした後でアルが進捗を聞いてきた。


カーボン:うーん、そこそこかなあ? 銅鉱20個に錫鉱10個だ


アル:お兄ちゃん、そんなに採掘スキル高くないんですか? 私は銅鉱だけでも30個は掘れてますよ?


カーボン:悪かったな……後衛は戦闘に関係ないSTRやDEXに振ってないんだよ


アル:ああ、そうですね。採掘にSTRとDEXが関係あるんでしたね


 採掘に筋力や器用さが関係あるのはリアリティを求めてだろうか? そんなところにリアリティ出してどうするんだとは思うのだが……まあINTが高いと錬金や、調理のスキルが効率よく行えるので全方位に対応してはいないというのがバランスというやつなのだろう。


アル:お兄ちゃん、ステータスバフかけましょう! 自分にかけることも出来るでしょう?


カーボン:その手があったな


 グロウパワー

 スペクタクル


 STRとDEXにバフをかける、さて、採掘を始めるか。


 カンカンカン


 採掘速度が明らかに上がって、採掘の成功率も多少上がったような気がする。


 カンカンカン……カンカンカン……


 二人で坑道の中延々とピッケルを振るう、時々ポップする雑魚を近くにいた方が一発入れて片付けながら採掘はドンドンと続いていった。


カーボン:ぜぇ……ようやく銅鉱がインベントリ1個分たまったぞ


 このゲームでは同一アイテムを最大99個一つのインベントリの枠にまとめて収納できる、ゲームなので鉱石そんなに持ったら動けないだろなどと突っ込んではいけない……


アル:こっちは150個ってとこですね、そろそろ精錬と鍛冶に問題ないくらいにはたまりましたね、じゃあポータル開いてください


 俺は町の前にポータルを開く、本当に不便な仕様だと思うが町中に直行することは出来ないので、町の中から町の中へとポータルを開く必要がある。


 この仕様を作った人は何故こんな所にこだわったのだろう?


 そんな考えも浮かぶが、それはそれとして鍛冶ギルドへと向かうのだった。

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