幕間:社会不適格者の一日
アル:お兄ちゃん、光学ドライブがお亡くなりになりました……僅かばかりでもいいのでご支援をお願いします
そんなtellが雑魚を狩っている時にアルから飛んできた。
カーボン:いやまあ別に光学ドライブくらい高いもんじゃないしいいけどさあ……
アル:本当ですか! ありがとうございます!
しかしだ……
カーボン:光学ドライブ、そんなに使うか? 最近はOSさえUSBフラッシュに入れてるじゃん、音楽CDも配信にとって変わられてるし、いっそ取っ払った方が気分いいんじゃないか?
アル:お兄ちゃん、私はクレジットカードを持ってないんですよ? 物理メディアで買わないといけない物が多いんです
なるほど、クレカを持てない年齢ならそういった問題もあるのだろうか?
カーボン:じゃあ尼でポチッとくな?
アル:お兄ちゃんは私とお出かけという考えが存在しないんですか!? 私可愛いですよ? 連れて歩けば道行く人から優越感が手に入りますよ?
どんだけ自信家なんだよ……俺はネットで買えばいいじゃんと思ってしまうのだが……
カーボン:しかし、一つ問題がある
アル:問題?
カーボン:そもそもこのあたりにドライブ単品を売っている店がない
そう、今となってはPC自作民が少なくなったのが原因なのか、すっかりパーツ単品で売っている店舗がなくなってしまった。
アル:しゃーないですね、外付けドライブでもいいです、そのくらいはあるでしょう?
カーボン:あるっちゃあるけどなあ……
外付けドライブをわざわざ買うなら素直にコンビニでプラスチックの魔法のカードを買ってきてダウンロード販売を選んだ方がいいような気がするんだが……
アル:じゃあデートしましょうか!
カーボン:俺はネトゲとトレードで忙しいので金渡すから買ってくれば?
前場と後場の間の時間では買い物をするにはあまりに短いし、株の場が終了したならゲームにログインして後は寝る時間と決まっている。
アル:お兄ちゃん、人間は社会的な生き物なんですよ?
カーボン:俺はネット社会で生きてるから……ニュースもWEB版の新聞とスマホでチェックしてるし、人間関係はなくてもそれなりに充実してるぞ
しかしアルは納得いかないようで俺に食い下がる。
アル:買い物くらい行った方がいいんじゃないですか? 基本ゴミ捨てくらいでしか外出しないじゃないですか、日用品さえネットで済ませようという考えはどうかと思うのですが?
カーボン:VRモデル作って顔出しするのが限界だな、買物に行く服が無いし……
アル:お兄ちゃん……さすがにその考えはどうかと思うのですが……
カーボン:いいんだよ! 俺は宅配便の人と会うためのスウェットさえ有れば生きてけるから!
アル:しょうがないですねえ……じゃあお兄ちゃんがBDドライブ買ってください
カーボン:買いに行かなくていいのか?
アル:まあお兄ちゃんと一緒に行きたかっただけですから、一人なら通販で十分でしょう
カーボン:だったら自分で買えばいいのに……
アル:お兄ちゃんはお金持ってますからね! 社会不適合者だろうと、人として問題があろうと、社会ドロップアウト組でも愛してますよ!
カーボン:社会不適格者で悪かったな……
アルはそんな暴言を吐いてからさっさとログアウトしてしまった。
やれやれ、社会不適格者とは結構な言い草だ、ネトゲをプレイすることに何の問題があるというのやら、稼ぎがあってちゃんと生活が出来ているなら買物がリアル店舗かネットショップかなんて関係ないだろう。
俺は学校に向かう妹について考えるのをやめ、株式市場の前場が始まるのをチェックしながら伸びそうな株を探した。
「社会不適格者かぁ……」
そう独り言を言ったところで誰が聞くわけでもない、自分が結局の所『ソレ』に限りなく近いものではあると思っている。
だが……だがしかし、俺は自分で『超えてはいけない一線』は超えてないことを理解している。ただちょーーーーーーっと社会との関わりを放り出したかなあ……と言うくらいにしか思っていない。
「ああ、あそこ伸びてるのか……」
心に張り付いた心ない言葉のせいで相場を読む力が下がっている、いけないいけない、熱くなったら負けだ。俺は冷静なやつだ。
11時半になり前場が終了するのを確認して、チャートの動きが止まったところで各種サイトで光学ドライブの物色を始める、あれでも可愛い妹とは思っているのでちゃんと買ってやる、この辺は我ながら甘いなあとは思っているが、アイツも俺が大概甘いのを知った上であのようなことを言っているのだろう。
「チョロい」
自分でも分かってはいるがチョロい人間だ、普段人と多くを話さないせいで感覚がだんだんとズレていってしまう。
お、これでいいか……
俺はライトオンの光学ドライブをカートに放り込んで後場が始まる前にさっさと決済を済ませる。この辺の判断は間違えないのになあ……
人の世の住みにくさについて愚痴ったところでどうしようもないのでさっさとニュースアプリを起動して経済への影響を確認しながらついでに
「アイテムの方は売り上げなしか……」
そんなことを考えながら料理を食べる。リアルの話ではなく別窓に開いているゲームのキャラの食事だ。ゲームの方は空腹で死ぬようなことは無いが、アクティブモンスターも出現する位置に待機させているので時々殴られる、その対策に自然回復を付与する料理を食べさせておく。
「現実の料理もこれくらい簡単ならいいのになあ……」
リアル料理もコマンド1個で素材から全部できあがって、ゴミも出ない理想の料理像だなとゲームを見ながら考える。何故リアルはこうも不便なのだろう?
後場が始まる前に妹から一通のメッセージが届いた。
『お兄ちゃん、もう買ってくれてますよね? ありがとうございます!』
俺たちはゲーム内でばかり話しているが、ちゃんと理解はしあえているのだろう、それはいいことだ。
そして俺は後場に向けて精神を整えて予測を立てるのだった。
なお、その日の夕食が少し豪華だったのでなんだかんだで恩くらいは売れたのだろう、そう考えると悪くないとは思うのだった。
余談だが夕食の原価などは知ったことではないが、多分ドライブの数千円より高いんじゃないかと思える夕食だったので妹のヒモという悪いイメージがついたらマズいななどと考えるのだった。
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