ダンジョン踏破×64

アル:お兄ちゃん、このクソクエストはなんなんですか!


カーボン:諦めろ、恨むなら運営を恨んでくれ


 俺たちが受けているクエストは……ダンジョン攻略クエストだ。


 何故ただの攻略クエストがそんなに面倒くさいかって?


アル:なんで64回も同じダンジョンクリアする必要があるんですか!?


 そう、ダンジョン『暗闇の洞窟』を64回クリアすること、それが達成条件だった。


 ダンジョンに出てくる敵自体は大したものではないのだが……なにしろギミックが多い、AをしてからCをしたらBが解放されるので……と言った場所が何カ所もある。このクエストは初心者の練習用なので基本的な操作を一通りさせられる。


アル:今更こんな初歩的なギミックに挑戦しなきゃいけないんですか……


 愚痴りつつ壁にならんだボタンを手に入れたメモに従って押していく。


 そしてこのダンジョンはあまねく初心者に操作方法を解説するためにということで難解でも挑戦できる、初心者がギルドに入ってきたらここで操作をたたき込めという運営の有り難い配慮だろう。そのための64回クリアという非常識なクエストの回数だった。


カーボン:少人数ギルドの辛いところだな……


アル:ザコしか出ないクセにクソ面倒くさいですね


カーボン:口が悪いぞ


アル:入力しているのは手ですよ?


カーボン:屁理屈は辞めろよ、とにかく現在十回、あと54回クリアが当面の目標だぞ


アル:はぁ……まーたボスが出てきましたよ、お兄ちゃんワンパンで倒してください


 諦めとともに俺に丸投げするアル、俺も見飽きたボスをワンドで殴ると一撃で倒してしまう。討伐後、出現したポータルで入り口に戻る。


 陽光の当たる洞窟の前にたどり着いて、俺は装備品のメンテナンスをする。


アル:あ、お兄ちゃん、私の装備もお願いしますね、ザコとはいえ数が多いと消耗しますね


 装備品の耐久値は使用回数に応じて減る、敵が弱かろうが数を使えば消耗はするのだ。俺は砥石を取りだしてアルの渡してきた剣を研ぐ、シャキーンと言う音とともに剣が光ってメンテナンスが終わる。


カーボン:こんな所だろうな、専用設備もないと完璧なメンテは無理だし


アル:いいですよ、防具は破損して効果が無くなっても普通に殴られるくらいならノーダメですし


 アルのVITならこのあたりのザコは装備なしでも問題無く攻撃を受けられる、一応きらびやかなプレートメイルを装備しているが、その理由を聞いたところ『どうせ実用性はいらないんですからロマンが欲しいじゃないですか?』というものだった。


カーボン:さて、そろそろもう一回いくか……


アル:……うええ……


 露骨に嫌そうな反応をするアルだが、これはギルドのメインクエストなのでこなさないわけにもいかないんだよなあ……


カーボン:このクエストクリアしたらなんか欲しいものやるから頑張ってくれ……


アル:お兄ちゃんが欲しいですね!


カーボン:俺は非売品です


アル:ちょっとした妹ジョークじゃないですか……そうですね、トラックボールをください、お兄ちゃんロジの新型買ってましたよね? 前のモデルがそこそこ高いのでお古をください!


カーボン:まあ別にいいぞ


アル:よし! んじゃダンジョンに潜りますよー!


カーボン:現金なやつだな……


 俺は苦笑しながらダンジョンの入り口にいるNPCに話しかけてダンジョンに突入した。


アル:ザコザコザコォ!!!


 アルは中ボス級のモンスターを瞬殺しながら洞窟の蹂躙を進めていく、もう何度もやっているのでわかりきったギミックを解除しながらまっしぐらに突き進んでいく。


アル:ヨシ! クソ雑魚ナメクジのボスを撃破!


 あっという間に洞窟の主の大トカゲを倒してポータルに飛び込む。再び日の当たる場所に出たかと思うとアルが即ダンジョンに再突入したので俺に太陽を楽しむ暇は無かった。


 そうしてしばらくの間ダンジョンの全てを抹殺しながらドンドンと進んでいくのだった。


 なお、途中で失敗するとモンスターが出てくるギミックが存在したが、必要な情報を手に入れるよりも総当たりしながらハズレの時に出てきたモンスターを皆殺しにした方が早いと気づいた時からもはやギミックの意味について考えさせられた。


 そしてダンジョンの主はいつも通り瞬殺されるのだった、初心者向けなのでこれといってデバフも飛ばさず、クソ雑魚なのでワンパンで沈んでいく。


アル:しかしシケたドロップですね……


カーボン:ここに来る平均レベルなら美味しいドロップだろう? 俺たちにとっては何の意味も無いけどな


 ドロップを適当に拾いながら初心者向け装備がもう何セットになるだろうかなどといったことを考えていた。


アル:初心者だとこの装備売ろうにもお金持ってないので売れないんですよねえ……


 初心者は本当に貧乏をしている、100ゴールドでも十分な大金と言えるくらいの金欠になっているのが普通だ。


 ゴールドの所持量は指数関数的に増えていく、レベルが上がるととんでもない大金が手に入るが、逆に低レベルでは非常に財布が寂しいことになっている。


 そして俺たちは無駄に長いダンジョンに挑戦し続けた、面倒くさいことこの上ないクエストをコンプリートのために延々と潜っていった。


アル:あと何回でクエストクリアですか?


カーボン:あと三回だな


 アルはため息をついたモーションをしてから言う。


アル:疲れましたが、頑張りますか……


 そうしてダンジョンを進みながらパワープレイでひたすら雑魚を狩り尽し、ダンジョンを三回空にしたところでようやくクエスクリアのアイコンが出た。


アル:初心者向けにはハードすぎるクエストですね……


カーボン:ギルド単位で受けるクエストだからな……


 二人ギルドの悲しいところだな、数の暴力には絶対に勝てないと断言されたようだった。


 ふと窓の外に目をやると、うっすらと白んできた空が見えた、徹夜でやってたのか……


アル:お兄ちゃん! じゃあm570を私の部屋の前に置いておいてください、疲れた寝ます!


 そう言ってログアウトした妹を見送ってから、俺は机の引き出しから以前使っていたトラックボールを取りだして電池を交換してから動作確認をしてちゃんと動くのを確認してから妹の部屋の前に置いておいた。


 なお、明日……いや、日が変わったので今日になるか……は休日だったがアルがログインしてくることは夕方まで無いのだった。

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