お兄ちゃんはパーティ募集ができない

カーボン:さて、中ボス戦といくかな……


アル:何を緊張しているんですか? 今更ここのボスくらい倒す必要すらないでしょう?


カーボン:そういう問題じゃあないんだよ……このボス、パーティ戦だろ?


アル:そうですね


カーボン:俺とアル以外にもパーティメンバーを集めないと挑戦できないだろ?


アル:あっ……


 そう、コミュ障として最大の敵、コミュニケーションがそこには存在する。


「はーい二人組作ってー!」


 在りし日の記憶が俺をさいなんでくる、思い出したくも無い記憶だ。あの時クソ教師と組まされて以来体育がトラウマになってしまった。


アル:お兄ちゃんはともだちがいませんもんねえ……


カーボン:お前だってネット上には居ないだろ


アル:私はリアルの方に数人いますから


 くっ……こいつ俺にロジハラをしてくる、酷い妹だ。


アル:で、どうします? シャウトでメンバー募集しますか?


 シャウトで募集は難易度が高い、マップ上の広範囲にパーティ募集のチャットを流すやり方だ、初期はそれしかなかったので用いられていたが、現在ではそれなりに珍しい。


カーボン:素直に募集フラグ立てるのはどうだ?


アル:私たちのメンツで来ますかねえ……


カーボン:ボス戦勝利保証って募集要項に書いとこうぜ


アル:まあ負けませんからねえ……


 負けるはずが無い、ノービスから転職する時に関門となる敵だが度重なるオープンベータで『やっぱこいつ倒す必要なくね?』という意見が出たかは定かではないが形だけのボスになっている。


アル:リーダーはお兄ちゃんがやりますか? レベル的に


カーボン:アルがやってくれ、俺には折衝がキツい


アル:どうしようもないコミュ障ですねえ……


 見えない画面の向こうにあきれ果てている妹の顔が見えるような気がした。


アル:じゃあ『ユピテル戦ジョブ問わず募集、クリア保証します』で募集しましょうか


初ボスとなるはずだった予定のボスの名はユピテル、名前の割にクソ雑魚なのは秘密だ。


カーボン:集まるといいんだけど……


アル:心配ならお兄ちゃんが募集しますか?


カーボン:ごめんなさいお願いします


アル:分かればよろしい


アル:募集立てました、連絡先は私宛のtellにしておきました


カーボン:集まるかなあ……集まるよね?


 俺の心配をくだらないことのように聞き流す妹。


アル:あのボスを倒す物好きなら数あわせに応募してくるんじゃないんですか?


 ユピテルだが、はっきり言ってクソ弱いのだが、初心者向けのアイテムはドロップしない、高レベルになってやっと使える素材をレアドロップするが、そんな物を集める物好きは少ない。だからいつもユピテル討伐クエストは人手不足になっている。


 実力の点では心配要らない、俺の下級攻撃魔法一発で沈む程度の相手だ、問題はドロップも微妙経験値も少ないということで参加してくれる人はいつも足りない、だからパーティ募集で集まってくる可能性は十分にある。


 ――


ラピス:あの……始めたばかりのノービスなんですが参加していいですか?


アル:お兄ちゃん、始めたばっかりの人が来ましたけど受けますよね


カーボン:もちろん、必要なのは実力じゃなく数だからな


アル:じゃあパーティ勧誘送りますね、入ってください


ラピス:はい……え!? お二人ともレベルが高すぎでは?


カーボン:まーこのボスは放置する人の方が圧倒的に多いからねー、俺らみたいな物好きしか参加しないんだよ


アル:私がヘイト稼いでカーボンが一発で落としますから心配要らないですよ?


ラピス:はぁ……そういう物なのですか?


アル:そうですよ、このクエストに真面目に挑む連中はかなり勧めた人たちですからね


ラピス:じゃあ、私のフレンドも呼んでいいですか? 初めてのフレンドなんですけど、パーティ組んだことなくって……


アル:いーですよ! そうすればクエストの最低参加人数が埋まりますね


ラピス:その人も初心者なんですけど大丈夫ですか?


アル:まあ大船に乗った気でいてください!


 そうしてラピスはフレンドに連絡を取っているのだろう、俺たちの前で立ったまま動かなかった。


テル:私も参加していいって事ですけど初心者でもいいんですか?


アル:全然オッケーですよ、誘いますね


 パーティメンバーのライフバーが四本になった、ダンジョンに挑むには問題無い人数だ。


アル:お兄ちゃん、どうかしましたか?


カーボン:いや、トントン拍子にいく物でな……


アル:ここに挑むなんて物好きもいいとこですからね……tellだからいいますけど、ユピテルの扱い知ってたら絶対この二人参加しませんよ


カーボン:ひとまず人数が揃ったので良しとするか……


アル:じゃあダンジョンに向かいますねー!


ラピス:よろしくお願いします!


テル:よろしくお願いします


 二人が定型文を送った後、ダンジョン付近へのポータルを開いた。


ラピス:あの……ポータルを開けるレベルなのにこのボス倒してないんですか?


テル:ポータル習得がレベル20だから楽勝では?


カーボン:たまには昔を振り返りたくなる物なんだよ?


 そういってダンジョンの奥へ入っていき、すぐにボス部屋にたどり着いた。


 部屋に全員が入った時点で、入り口はエーテルの壁で閉鎖され、全滅か討伐以外で開くことはない。


ユピテル:我が眠りを覚ます愚か者は誰だ……? よほど死にたいと見える


ユピテル:下等な人間は死ぬことで我の血肉となるがよい!


 そういってユピテルは玉座から立ち上がり俺たちに向かってきた。


『ウインドブロウ』


 一陣の風が吹きすさび、あっという間にユピテルのライフゲーじーをゼロにした。


 後ろではラピスとテルがポカンとして眺めている、二人のレベルアップ音が重苦しい場に明るく響いた。


 ボスを倒したのでダンジョン入り口へのポータルが出来た。


アル:楽勝でしたね?

カーボン:負ける要素が無い


 呆けていた二人だったが冷静になって俺たちにお礼を言った。


ラピス:ありがとうございます! レベルが上がりました!


テル:カーボンさんヒーラーなのにすごく強いですね!


 二人に一通りお礼を言われた後ポータルで入り口に飛んで解散となった。


 アチーブメントとして『初心者卒業』が解放された。


 このアチーブを持っている人は意外と少ない、倒す必要の内的を倒すのは少数派だ。


 廃人でもなければこんな暇なことはしないのだ。


アル:お兄ちゃん! 報酬は売り払っていいですかね?


カーボン:あれ? もらっちゃったの? あの二人に渡してもまったく惜しくない素材くらいしか落とさないだろ?


アル:二人とも『カーボンさんが全てこなしたのであの人に渡すべきだと思います』って言って憚らないんだからしょうがないじゃ兄ですか!


カーボン:あー……気を使わせちゃったか……ゴミ素材だしマーケットに安値で出品しとこう、インベントリの圧縮も必要だしな


アル:そーですね、いいとこ25までくらいしか使えない装備しか作れませんしね、適当に出しときましょう


 こうして俺たちのボス戦は終わった、あまりにもあっけないユピテルの最後には涙すら覚えそうだった。


 こうして俺たち『眠れる獅子』の評判が知らないところで少しだけ上がるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る