時間の流れは人それぞれ

アル:ヒャッハー!! 久しぶりの討伐クエスト! 心が躍りますねえ!


カーボン:もうちょっと初心者さんに配慮しようよ……


 俺の助言もまったく無視して、出てくるレッドベアを狩り続けている。


 現在受注したクエストは『森に大量発生したモンスターを討伐せよ』だった。


 はじめは俺の助力が必要かと考えていたのだが、さっぱりそんなことはなく、雑魚モンスターの討伐が目的だった。


 問題は数であり、512匹となっています……512匹! 到底正気とは思えない数だが範囲魔法を使うなら割と早くに片がつく……


 ぽよん……ぷちん


 ぽよん……ぷちん


 俺の周囲で討伐代償が初心者冒険者に狩られている、このゲームのシステム上、こちらから攻撃をしたモンスターには攻撃が通らない、占有権があるからだ。


 つまり俺はチマチマチマチマポップしたところを狙って買っていくしか無いと言うことだ。


アル:お兄ちゃん……このクエストが残ってた理由がよく分かりますね……


カーボン:リキッドスライムを狩るのは初心者の基本だからな……


 スライム討伐はRPGの基本、だったらクエストにするなよと言うのは言ってはいけない。


アル:お兄ちゃん、皆して狩ってるんでフリーのスライムが見つからないんですが……


カーボン:探すところからスタートだな……


 俺は苦虫をかみつぶした顔をする、なんで今更こんな初歩的なクエストをやらなきゃならないほど放置していたんだ。


 イライラしながら二人で首都プリミア周辺のスライムで、まだノービス達にタゲられていない個体を探してプチプチ潰していく。


 倒すこと自体はワンドで殴れば一発なので問題無いのだが、いかんせんプレイヤーが多すぎる、ポップした途端にレベリングの対象として皆が群がっていく、おかげでフリーのスライムを見つけるのに随分と苦労する。


 そんなことをしているとtellが飛んできた。


アル:お兄ちゃん、範囲魔法打ちながら練り歩けば稼げるんじゃないでしょうか?


カーボン:一般ユーザのヘイトもたっぷり買いそうな方法だな……


アル:そんな有象無象からのヘイトは気にしません!


 tellでなかったら晒しあげられそうな発言をする妹、俺は地道な方法を辛抱強く主張する。


カーボン:二人ギルドなんだからこういう数が物を言うクエストで不利なのは当然だろう? 人数を増やすか地道に狩っていくかしか無いんだよ


アル:うへぇ……面倒くさい……


カーボン:お、近くに湧いたな、叩いてくるよ


 俺はそう流してスライムをワンドで殴って討伐する、それなりのレベルではお話にならない攻撃だが、序盤も序盤のスライムごときなら瞬殺だ。


アル:後何匹ですかねー?


カーボン:今230匹だな、まだ半分もいってない


アル:このクエストは賽の河原オンラインなんでしょうか?


カーボン:スライムの屍山血河を築けってだけだろう、山を崩す鬼はいないさ


アル:面倒くさいですねえ……


 俺たちは運良く近くにポップしたスライムをペチペチと狩っていく、初心者向けの狩り場だけあってライバルは非常に多い。


 このクエストが何故俺たち眠れる獅子にとって大変かというと、討伐数はギルドで総合した数と言うことだ。


 これは初心者が簡単にギルドに誘われるために、ギルドの人数が多ければ多いほど楽なクエストを運営が用意したということだ。


カーボン:ギルドメンバーが欲しい……


アル:コミュ障にギルド運営なんて出来るわけないでしょう


 アルの身も蓋もない言い草にぐうの音も出ないコミュ障である俺だ。


 とはいえ、このペースでいくと当分かかりそうだな……


カーボン:アル、考えがあるから抜けていいぞ


アル:へ!? クエストを諦めるんですか?


カーボン:いや、こういうのには効率の良いやり方というものがある、つーことで俺は寝るぞ


アル:え!? お兄ちゃん!?


 俺はベッドに突っ伏してスマホのアラームをセットして眠りについた。


アル:おにーちゃーん? 聞いてないんですか?


アル:おーい……


アル:落ちましたね……ログアウトくらいすればいいのに


 伊達にログアウトがほとんど無かっただけの実績はあり、必要なくてもログアウトはしないのだった。


 ここは戦闘エリアだが、モンスターとのレベル差が大きいとアクティブモンスターでも恐れをなして襲ってこない仕様になっている。だから俺は狩り場の真っ只中で突っ立って放置することが出来るのだった。


アル:はぁ……私が頑張らなくっちゃ


 そうして妹は小一時間スライムを狩り続け、三十匹を討伐することに成功していた。


アル:お兄ちゃん? 寝てます? 私もそろそろ寝ないと行けないので落ちますね


『アルがログアウトしました』


 ――そうして数時間後


 午前一時ちょうど、俺のスマホのアラームが鳴り響いた。


「おっと、いい時間だな」


 さて、と。始めるとしますかね。


 このゲームは国ごとにサーバがわけられている、つまりタイムゾーンの違う人はいないと言うことだ。


 そして今は真夜中の午前一時、日本のサーバに参加している人で現在ログインしているのはほとんど廃人だ。


カーボン:イヤッッホウウイ!!! 狩り放題だな!!!


 スライムを倒すのはニュービー新人と相場が決まっている、新人に24時間体制のログインを要求するギルドは少ない。そのためこの原っぱはログアウトしたキャラですっからかんであり、ログインしているのも放置勢がほとんどだった。


『ディバイン・インパクト』


 辺り一帯に光が迸り雑魚モンスター達を飲み込んでいく。


 リキッドスライムを倒した

 1expを獲得

 リキッドスライムを倒した

 1expを獲得


 ……

 中略

 ……


 大量の討伐ログがチャット欄に一気に流れる。ログは魔法を打つたびに綺麗さっぱり洗い流され、新しい討伐報告に塗り替えられていった。


 リキッドスライムの討伐

 602/512

 クエストの目標を達成


 脇に出た数字を満足げに眺めて、さっさとギルドに行こうかとポータルを開きかけて止めた。これは見せてやった方が面白いな……


 ――翌日午後


アルがログインしました


アル:じゃあお兄ちゃん、今日もスライム狩りしましょうか……


 気分も重そうにそうtellを送るアル。


カーボン:討伐数見てみ?


アル:はっ!? なんですかこの討伐数!? お兄ちゃんがやったんですか!?


カーボン:時間の有効な使い方ってやつだよ


アル:無駄に使うことには定評のあるお兄ちゃんらしいですね


 俺のお手柄もアルにとっては社会不適格者のやったことになるらしかった。


 そうしてギルドへ報告してそのクエストはクリアすることが出来たのだった。

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