中の人っておっさんだよね?

 今日はアルが遅くなると言うことで現在俺一人でプレイ中だ。


 大変暇なのだが、クエストの一つでもこなしておいてやるべきだろうか?


 いや、たまには呑気にクラフトでもしていようかな?


 何だって出来るという自由度の高さは何をしていいのか分からないという事態と表裏一体だ。たまには錬金スキルでも鍛えておこうかなあ……


 魔法使いたるものMP回復の手段を隠し持っておくことは必須だ、マジックポーションを作っておけばいざというときに役に立つかもしれない。


 ちなみにマジックポーションの素材は様々であり、洞窟の中で取れる特殊な鉱石から抽出したり、魔力を帯びた草を濃縮したりで一通りではないことがこのゲームの特徴だ。


 今回は魔石から抽出したマジックポーションを作ろうと魔石鉱山へと向かった。


 ちなみにこの魔石鉱山、『神話鉱山』という名前なのだが、名前に違わず非情に強力な敵が出現する。それ自体は問題ではないのだが、なんと首都プリミアから走って十分もすれば来ることの出来る場所にある。


 大陸が一つしか無かった時代のエンドコンテンツとして実装されたのがその理由だが、実装当時から『何故そこに作った?』と疑問が絶えない場所だった。


 ちなみに初心者に『神話鉱山に行けばレア素材がたくさんあるよ』とそそのかすのは風物詩となっている。哀れにもそこに向かった初心者はあっという間にプリミアのリスポーン地点に送られることで学習していくのだ。


 さて、行くとするかな……


 俺は装備を調え、杖はINT強化が一番高いものを選んで装備する、基本的に負けるような相手はいないが回復と攻撃に影響が出るので装備がいいにこしたことはない。


 ――


 そうして神話鉱山にたどり着いた俺はピッケルコマンドをマクロに登録しておき、採掘を始めるのだった。


カーボン:範囲攻撃打ちます


 誰が聞くわけでもないのだが、マクロにそう書いてしまったのでチャット欄にはそう流れる。ま、誰も聞いてるわけないよな。


 神聖魔法を打ち込んで採掘の邪魔になる的を一掃して採掘マクロを実行する、その時だった。


 洞窟の奥の方から女の子のキャラがモンスターをトレインしながら必死に逃げてきた。


 俺はとりあえず回復魔法を打ち込んでから後ろのモンスターのヘイトを全部引き受けてノコノコ実力の差も分からずやってきたモンスターを殴り倒していく。


 オートアタックを有効にしておけば勝手に向こうから近寄ってきて攻撃できる分コマンドの必要な魔法より楽だ。ひとまず手が空いたのでキーボードに手を伸ばす。


カーボン:だいじょうぶ? ここ敵が強いから逃げた方がいいよ?


ラキ:助かりました! ありがとうございます!


 現在モンスターとの戦闘中だが危機感は欠片もない……おっと一体沈んだな……


ラキ:大丈夫ですか? 攻撃すごく受けてますけど?


カーボン:へーきへーき、こんなもん攻撃のうちにも入んないよ、HPバー見て


ラキ:まったく減ってないように見えるんですが……


カーボン:そういうことだよ! こうしてチャットするくらい余裕なんだよね


ラキ:間違いじゃなければ魔道士装備のように見えるんですけど……? 攻撃は結構痛いのでは?


 まあどっからどう見てもDPSには見えないからな。


カーボン:ま、レベル差ってやつだね。さて、ラキさんに攻撃が飛ばないように片付けちゃおうか


 ジャッジメント・レイ


 辺り一帯のモンスターのHPバーが一気に0になる、それほど高レベルの魔法でもないがINTの差というやつだろう、並の攻撃魔法よりよほど威力がある。


カーボン:じゃあポータル開いちゃうね?


ラキ:え? はぁ……?


 困惑顔だ、まあ別に死んでプリミアで蘇生しても何のペナルティもないのだけれど、やはりいい格好がしたいという功名心がある。


 ポータルが光りながら開いたのでそこにキャラを飛び込ませる。


 シュウン


 洞窟内のポータルは閉じて俺たちはプリミアにたどり着いた。


ラキ:え? どうなってるんですか!?


カーボン:初心者なのは分かるけどsayじゃなくてtellで話してくれると助かるかな?


 俺がtellを送ると申し訳なさそうに今度はtellで返事がきた。


ラキ:あの……ありがとうございます! たすかりました!


カーボン:ははは……気にしなくていいよ、たかだか魔法一発とポータル一回だからね?


 ポータルはMPで開くのがダンジョンから外部へは開けても、外からダンジョンの途中へは開けない、結果として俺はもう一度洞窟までは知ることになるのだけれど、それを言って気を使わせる必要もないだろう。


カーボン:だいじょーぶ! どうせ暇つぶしに潜ってた洞窟だからね。それはともかく、あそこに潜るのはもっと強くなってからにした方がいいよ?


ラキ:そうみたいですね……カーボンさんはどうやって強くなったんですか?


カーボン:誰でも出来ることだよ?


ラキ:一帯何を……


カーボン:毎日朝起きたら起動させっぱなしのPCでログインしてモンスターを朝から晩まで狩り続ける、これを繰り返すだけで不思議と強くなってる


ラキ:それは不思議でもないですし、誰でもはできないのでは……


カーボン:まあ、まったりやっててもレベルは上がってくから自分のペースでやってきなよ、デスペナは無いんだから死んで覚えるのも一つの手だよ?


 そう言って俺はポータルを開いた、フレンドリストのアルの欄のステータスがオンラインになったからだ。どうやら帰ってきたらしい。


ラキ:ありがとうございます!


 俺は手を振るモーションをしながらポータルに飛び込んだ。


 ジャンプしたすぐ先には当然アルが待っていた。


アル:お兄ちゃん、何かやってたんですか?


カーボン:ああ、人助けをな


アル:似合わないですねえ……


カーボン:はは……言いたいことは分かるよ、ま、袖すり合うも多生の縁ってやつだな


アル:それで、女の人でしたか?


カーボン:さあ? キャラは女の子だったな


 アルは怒るモーションをした。


アル:お兄ちゃんは女の子にむやみに優しくするのはどうかと思いますよ?


カーボン:でもなあ……


アル:何か反論が?


 アルはネトゲという物を分かっていないのだろう、そういうヤキモチを焼くのは勝手だが勘違いをさせるべきではない。


カーボン:多分中身は男だぞ?


アル:は?


カーボン:MMOで可愛い女の子のキャラを使ってるやつの多くは中身が男だ


アル:なんというか……闇が深いですね……と言うかお兄ちゃんはそれを承知で助けたんですか?


カーボン:俺も初心者の頃は男女混合だと思っていたパーティに参加させてもらったこともあるからな、中身の会話はおっさんそのものだったよ


アル:そ、そうですか……


 アルが現実にドン引きしているが俺は構わずダンジョンへと向かうのだった。

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