クラフター妹

カーボン:クラフトクエスト面倒くさい……


 そう妹にtellを送ると無慈悲な言葉が返ってきた。


アル:面倒くさくないクエストなんてほとんど無いでしょう?


 妹は隣の部屋で昨日ぐっすり就寝しているので元気そうだ……一方俺は朝数時間寝ただけでログインしているのでハードワークにもほどがある。


 現在やっているクエストは彫金師ゴールドスミス、素材の収集がダンジョン奥地に潜って発掘してくるか高額でバザーで買うかの難易度の高い二択だった。


 救済措置として彫金師は鉱山ダンジョンで直接素材が掘れる、幸いなことにそれを加工しろとまではいわないのがせめてものこのゲームプリミティブオンラインの情けだろう。


 俺たちは鉱山で金の金の塊を丸々一日かけて採掘した、金の産出はレアであり、ほとんど鉄などが出てくるのでイライラすることこの上ない、金の採れるポイントで十回ピッケルを使ってようやく一個の金が算出する程度の確率だ。


 ここを掘っていた時はアルも音を上げそうになりながら、ギブアップしたので俺が採掘を延々と続けて素材が集まった。しかしその後にとんでもない問題が発生した。


 彫金ギルドで納品するのは金の指輪十個、たった十個と思うかもしれないが、これが大変鬼畜な難易度となっている。


 彫金は金の塊を加工して納品することになるのだが、この書こうがくせ者だ。


 彫金は加工の成功率が他のクラフトに比べてかなり低い、失敗すると素材が消失してしまう。つまり納品に必要な量の何倍もの素材を用意しておく必要があると言うことだ。


 不公平なことに彫金スキルのレベルが上がれば加工の成功率も上がる。つまり低レベルの初期ほど大量の素材が必要になって、失敗による素材ロストの確率を考える必要がある。


 この持つ者が持たざる者に勝てない仕組みから、このゲームでは彫金や鍛冶では専門にしているプレイスタイルの人もいるくらいだ。


アル:ちなみに何回くらい失敗できますか?


カーボン:二回……約八割方成功しなきゃ、もう一度素材クエスト行きだな


アル:正直成功する気がしないんですが


カーボン:そこで俺に考えがある


アル:ほう……


カーボン:俺が素材収集にダンジョンに潜ってくるからアルは補助スキルNPCから大量に受けて運ゲーやっててくれるか? 俺はダメだった時のために追加素材集めてくる


アル:素材収集は私でも良いのでは?


カーボン:まーそっちは好みの問題だな。洞窟でピッケルを使うより楽しそうかと思って加工を任せようかと思ったんだが……採掘の方が良かった?


 ギルドチャットが少し止まり、アルは結論を出した。


アル:お兄ちゃん! 素材収集よろしく!


 こうして二人の彫金クラフトクエストは始まったのだった。


 ――

 アルは彫金ギルド内にいるお金を払えば彫金成功率の上がるバフをかけてくれるNPCの胃袋数体に話しかけ、バフを積んでからギルドの設備を使って彫金を開始した、どこでも彫金できる道具はあるが、ギルド設備が一番成功率が高い。


 ちゃっちゃっちゃーん!


アル:お、初回成功しましたよ! 幸先がいいですね!


カーボン:いい感じだな。毎回バフもらうの忘れないようにな?


アル:よく見たらバフ効果消えてますね……一回ごとに要るんですか……


 もう一度NPCに話しかけてから、彫金スキルを使用する。


 じゃじゃじゃーん……


アル:失敗しました……素材ロストです……お兄ちゃん、予備素材の方はどうですか?


 ――


 俺は鉱山内のメタルイーターを大量に周囲に置いて攻撃を受けながらダメージを無視して採掘を続けていた。


 こいつらを一々倒すより、レベル差で受けるダメージが少ないので時々回復魔法を使って攻撃はされるがままにしておいた方が効率がいい。


 メタルイーターのポップ速度から考えると、倒していたらキリがないだろう。


 かきん、かきん、かきん


 同じ感覚でピッケルを鉱脈に叩きつける音が俺へのダメージ音へ差し挟みながら採掘は進んでいく。


 おっと、金鉱石が出たな。


 そうして少しだが金の採掘は進んでいくのだった。


 なお、途中で幾人かのプレイヤーから「タンクありがとうございます」とsayが飛んできた、どうやら俺が辺り一帯のメタルイーターを引き連れているのでタンクと勘違いしたのだろう。


カーボン:アル、何個くらい作れた?


アル:七個です……素材が尽きました……


カーボン:了解、素材渡しに行くよ


『ライトニング』


 周囲の敵を範囲攻撃で一掃して首都プリミアへのポータルを開いてジャンプした。


 ――


カーボン:アル、鉱石十個くらい採掘できたぞ、いけそうか?


アル:それだけあればなんとかって所ですね……


 俺はトレード画面を開いて『金の塊』をアルに引き渡す。


アル:あの鉱山のモンスターそこそこ強くなかったですか? 私なら余裕で倒せますけどお兄ちゃんでも倒せましたか?


カーボン:レベル差があるからな、ゴリ押しで全滅させてきたよ


アル:さぞ他のパーティは採掘が捗ったでしょうね……


カーボン:さて、俺は採掘してきたから後はお前が加工するだけだぞ?


アル:プレッシャーかけないでくださいよ……スキルレベルが上がってようやく四割くらいの成功率なんですから……


 そんなやりとりの後、アルは彫金を始めた。


 じゃじゃじゃーん……


 ちゃっちゃっちゃーん!


 じゃじゃじゃーん……


 じゃじゃじゃーん……


 じゃじゃじゃーん……


 ヤバい……失敗の流れが続いている、成功が一回あるのであと一回だけ成功すればいいだけなのだが、成功率の数字を信用できないのがコンピュータゲームのよくあることだ。


アル:お兄ちゃん? LUKにバフかける魔法ってないですか?


カーボン:LUKは成果物にプラスがつく確率は上がるが、成功率には影響しないぞ?


アル:験担ぎってやつですよ……


『ゴッドブレス』


アル:よし、じゃあいきますね……


カーボン:頼むぞ


 カンカン……キンキン……


 …………


 ちゃっちゃっちゃーん!


アル:ふぅ……さすがに心臓に悪かったですね……なんとか成功ですね


カーボン:俺ももう一回鉱山行きかと思ったよ……


システム:アルの彫金スキルが一上がった、彫金の成功率アップ


カーボン:遅いんだよなあ……


アル:遅いんですよねえ……


 そうして俺たちは納品に向かい、ギルドへの貢献度が多少上がるのだった。


 余談だが、今回の彫金スキルで作った物を売ると金の塊が数個買える金額にはなるようだった。


 残念ながらあまりはまったく出来なかったので結局バザーで売ることは出来ないのだった……

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