カニを食べると無口になります

アル:お兄ちゃん! これが力ですよ!!!!! アハハハハハハ!!!!!!!!


 現在妹が敵モンスターを蹂躙している。それというのも俺たちギルドが討伐クエストを放置していたからだ。


 放置していたと言えばサボってたかと思われるかもしれないが、アルとギルドを組んで日が浅い、それまでギルドに入ったことのなかった俺からすればギルドクエストは全て未踏破だ。


 そんなわけで初級の討伐クエストを受けているのだが……


アル:ハハハハ!! 敵がゴミのようですね!!


 本来攻撃力はそれほどでもないタンク職が蹂躙できる程度には初級クエストは簡単だった。なぜなら敵のレベルが最大10というあまりにも大きなレベル差があるからだ。


カーボン:おーい、その敵はもうノルマまで討伐したから次のモンスターいくぞ?


アル:もうちょっとやりたい放題したいんですが?


カーボン:本物の初心者さんの獲物を奪うのはほどほどにしような……


アル:まったく……まあ初心者さんの邪魔をするのも好きではないですし今日はこの辺にしておきましょうか


 討伐依頼が終わったのでギルドへ完了報告をするためにポータルにジャンプする。


 なお、このポータルへのジャンプは選ばれた者にしか使えない特権らしく、ユーザ以外のNPCが使えないという設定になっている。選ばれた者しか使えないのにポータルの回りに商店が連なっているのは矛盾している気がしないでもないが、まあゲームだしね?


ギルド報告担当官:よくやってくれた『眠れる獅子』のおかげでこの一帯も少し平和になるだろう


 そう言って報酬を渡してくるのだが初期クエストなのでとっくに使い道をなくしたアイテムばかりが報酬として増えていく、使い道がないんだよなあ……


カーボン:さて、まだまだ討伐クエストはたっぷりあるぞ!


アル:ザコ狩りは嫌いじゃないですけど、数が多いですね……


 今度はか二を狩るクエストだ名前は『イビルクラブ』だったかな? みんなカニと呼んでいるので本名を忘れてしまった。


アル:カニは確か料理ギルドに納品できましたね、ついでにカニの肉も集まって一石二鳥ですね


 妹はそこそこトラウマになっているらしい料理ギルドの作業が少し楽になることに感謝をしているようだった。少し気の毒に思いながらも、必要な作業だったと自分を納得させる。


 妹の尊い自己犠牲を放っておいて俺はポータルを開く。


カーボン:ほらほら、過去に縛られない方がいいぞ? じゃあ行くか


 そう言って俺は開いたポータルに歩を進めた。アルも後からついてきたのでジャンプが終わったところでポータルを閉じた。


カーボン:さてと、狩りますかね


 川沿いに開いたポータルを閉じてモンスターの数を確認する、カニは非アクティブモンスターなので周囲で一匹ずつ狩っていても周りが乱入してくることはない。


アル:よっし! カニの身ゲット!


 ………………


 カニを食べると無口になるというが、カニを狩っていても無口になるのだろう。アルが釣ってきたカニをたくさんまとめてから俺が範囲攻撃魔法でじわじわ削ってまとめて倒していく。


 …………


アル:ねえお兄ちゃん……? カニの討伐目標数ってあといくつですか?


 そうtellが飛んできたので俺はクエストメニューを開いて答える。


カーボン:目標数256匹、討伐数75匹


 …………


アル:あー面倒くさい! なんかまとめて吹き飛ばす魔法はないんですか?


カーボン:無茶言うなよ、こっちはヒーラーやってるんだぞ、アタッカーは専門じゃない


アル:じゃあ私が『ディバインレイ』でまとめて片付けましょうか?


カーボン:もうそのスキル使えるのか……? で、それ使ってから挑発が使えるまでMP回復に何分かかるんだよ? 俺の方がダメージとMPの比では効率がいいぞ?


アル:お兄ちゃん、ロジハラは嫌われますよ?


カーボン:理論的に負けてると思うなら諦めろよ?


アル:だってクッソ暇じゃないですか!? 私の精神がストレスでマッハですよ?


カーボン:はいはい、分かったからカニ釣ってこような?


 そうtellを返すとアルは再びカニの群れに挑発を仕掛けに行った。なぜかしばらく離れていたかと思うと、突然大量のカニを釣ってきた。


アル:お兄ちゃん、お望み通りたくさん釣ってきましたよ?


カーボン:はいはい言われたことが出来るのは偉いな


 俺が範囲攻撃を打ち込みながらアルが挑発をカニの群れにかけて大量のヘイトを稼ぎ続ける。さすがにレベル差があるので一撃でまとめて吹き飛ぶ、しかし大量すぎて範囲攻撃から漏れたカニが来るが、それをアルが挑発でヘイトを稼いで引き受ける。


アル:お兄ちゃん、今ので何匹ですか?


カーボン:十三匹だな、ポップの限界近くまで釣ってきたな


アル:もうちょい釣れそうですね


カーボン:ポップ間隔を考えたらこれが限界だろうな、これ以上やるとポップしなくなる限界になりそうだ


アル:面倒くさいですがちょいちょい行ってきた方が良さそうですね


カーボン:俺の攻撃範囲に入るのはカニだと十匹が限界だから一発で吹き飛ばせる量で頼む


アル:りょーかい、そろそろポップしたでしょうしぼちぼち釣ってきますね!


 アルは再びカニの湧く川の上流に向かっていった。俺はアクティブモンスターに襲われないように安全地帯で釣ってくるのを待っておく。一応この辺のモンスターくらい絡まれても問題は無いのだがMPの無駄遣いは出来れば避けた方がいい。


 このゲームプリミティブオンラインでは魔法の消費MPはレベルに依存して上昇していく、つまりレベルが上がれば強力な魔法が打てる代わりにコストのMPも増える。威力が上がるがこの辺のモンスターは一撃で倒せるが、逆に言えば敵のHP以上のダメージは無駄な威力になってしまう。


 時間あたりの効率を最大にまとめて釣って刈り取る行動をひたすら繰り返した結果、ようやくカニの討伐数が200匹を超えた。


アル:お兄ちゃん、カニの肉がインベントリを圧迫しているので一旦帰還してきましょうか?


カーボン:もう必要数は集めたんだろう? 数ダース捨てといて問題無いだろう? 余剰分は売れと言いたいところだが……買う人もいないだろうな……


アル:もったいないですが効率考えたらその方がいいですね


アル:そろそろ必要数になるので瞑想で魔力補給しますね? 効果とリキャスト考えたらそろそろ釣ってくるのに十分になりますよね?


カーボン:そうだな、まとめて釣ってこい、俺が吹き飛ばすからスピーダーかけるよ


 加速魔法をかけて移動速度を上げる、カニの移動速度は変わらないが、往路は少し早くなる。ポップが間に合うかは微妙なところだがギリギリセーフな計算にはなる。


アル:じゃあパパッと釣ってきますね!


 シュタタタタと高速移動していくアルを眺めながら、俺は討伐対象のカニの数を眺めながら俺も瞑想を使ってMPの回復力を上げる、効果時間から考えるにそうしないと魔力の回復が間に合いそうになかったのでキーボードのマクロから瞑想を使う。


 MP回復上昇


カーボン:アル? そろそろ釣れたか?


アル:ええ、ちょっと希少種もいますが私がヘイト稼いでいるので問題無いでしょう


 レアモンスターにあたるとは……なんとも無駄運にもほどがある。


アル:じゃあこれでまとめて吹き飛ばしてくださいね!


 カニ数十匹と大きなカニ『ジャイアントクラブ』を連れて戻ってきた。レアモンスターにはお供のザコがいくつか集まってくるが、それは俺たちにとっては好都合以外の何物でもなかった。


 ライト・デストロイ


 まとめて釣ってきたカニたちのHPゲージが一気になくなる。


カーボン:よし! 今ので260匹になった、討伐目標はクリアだな


アル:疲れた……ぼっちに優しくないゲームはどうかと思うんですよね私?


カーボン:ぼっちなのはしょうがないだろう? 俺みたいにリアルぼっちじゃない分マシだろう?


アル:お兄ちゃん、言ってて悲しくなりませんか? とはいえ一仕事終わった後なのでいいでしょう、帰還ポータルをお願いします


カーボン:はいよ、ポータルっと……


 俺はマクロで首都プリミアへの帰還点を開く。二人でゲートに飛び込みながら俺はリアル生活のある妹のことを考え、プリミアでログアウトさせてからギルド統括へ納品に向かった。


 なお、リアルライフのために投機をして無事日銭を稼ぐことに成功してから俺はログインしたまま、通知音を最大にして布団に潜り込むのだった。


 ああ……朝日って眩しいなあ……

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