クラフトクエスト入門
アル:お兄ちゃん、このゲームシステムおかしくないですか?
カーボン:現実に目を向けような?
俺たちは必要におわれて制作クエストをこなす羽目になっていた。しかしクエストが面倒くさいことこの上ない。
よくあるローンチ日に間に合わせるための水増しクエストなのだが、運営が運営なので例によって未だに残っている。
最近のゲームでは詫び石文化が普及して久しいが、月額課金がメインのこのゲームではそういったプレイ時間を薄めて広げるクエストを減らす気はまったく存在しないようだった。
アル:料理くらい自分で作れっての! この世界の住人はカレー一つを一々冒険者に依頼してるんですかねえ!
調理師クエストをこなしているアルがブチ切れそうになっている、戦闘もしないモブ市民がステータスバフくらいしか効果のない料理を要求するのが我慢ならないらしい。
一応一度料理するとレシピに残って、次から素材があればどこでも調理が可能になる、しかしそのために苦労してクエストをこなして雀の涙ばかりの経験値とレシピを必要とするかは疑問が残るところだった。
アル:課金でなんとかする人たちが多いのも頷けますね……
カーボン:こればっかりは人の考え方だからなあ
課金で強くなる、極めてシンプルで簡単な問題の解決方法だ、千円少しでメインクエストを完結させられるならやる人もいるだろう、問題は初期実装以外のクエストでロールを覚えていないユーザはあまり好まれないことだ。
カーボン:俺は地道に遊んでいく主義だから……
アル:まあ課金はお金持ちの道楽感はありますね
俺はスマホで現在の銀行残高を確認する、なんやかんやあぶく銭が手に入ったのでロクに労働する必要はないほどの桁になっているが、それを理由に課金で努力を超えることを良しとはしない。俺の美学みたいな物だ。
アル:お兄ちゃん、ギルドの統括への税金の納品、全部私たち二人でこなす気ですか?
カーボン:そのつもりだけど?
アル:あのですね……ランクが上がると非現実的な数を要求されるので課金か人海戦術のどちらかになるんですけどね……
カーボン:じゃあギルドメンバーいくらか増やすか?
アル:私とお兄ちゃん、どっちが外交担当しますか? 私はそんなにコミュ力ないですよ? まさかお兄ちゃんは自分がコミュ強だと思ってましたか?
カーボン:ごめんなさい無理です
アル:まあギルド規模の拡大は狙わずにメインクエストの進捗を進めていけば良いんじゃないでしょうか
カーボンそうだな、地道にいくとしようか……
アル:しかし調理師のクラフトクエストは面倒くさいですね……
カーボン:俺の鍛冶師だって面倒くさいぞ? 特に素材集めが……
鉱石の入手性は非常に悪い、原石を採掘してそれを精製してやっと装備の素材になる、調理師の素材→完成品というのに比べて一手間かかっているので難易度がやや高い。
カーボン:しかし、アイアンメイルどころか、ブロンズプレートから作る羽目になるとはなあ……もうすでに卒業した装備なんだよな……
序盤の頃はお世話になったブロンズプレートくんであるが、耐久値がクソみたいに低いので租税乱造して使い捨てるスタイルが基本になっている。現在の装備は白銀のローブである、ヒーラー用装備のそれにすらはるかに劣る装備を大量に作るのは心が折れそうだ。
アル:私だって気持ち悪いモンスター狩って素材を集めてるんですよ? ナメクジとか明らかに食べられそうにないものや、毒袋を持ったモンスターを素材にしたりこのゲームのNPCの胃袋は鋼鉄で出来てるんですかね?
どうやら調理師にはそれなりの苦労があるらしい、鍛冶師の苦労も分かって欲しいが、それはお互い相容れない物があるのだろう。
そんな二人きりのギルドチャットをしながら鉱山で必死にピッケルを振っている、ここから自作とかテレビの番組でもなかなかやらないんだよな……
カキン
おっと、ボーキサイトが出たな、こんなところでレアドロップされても困るんだよなあ……
こうして終日鉱山で採掘をした結果、ようやくそこそこの鉱石が手に入った。
さて、これから今度は鉱石の製錬の必要がある、それをやってようやく鍛冶素材となる。ぶっちゃけ面倒くさいシステムだと思うし、ゲームなんだから鉱山でインゴットが直接産出されてもいいじゃんとか思わないでもない、そういうところでリアリティは要らないんだよなあ……
面倒くさい精錬作業を依頼するという手もある、というか一部ユーザは直接クエスト用の納品物を打っている人も多い、残念ながらそれらを買い占めるにはお金がいくらあっても足りない。
このゲームではモンスターが直接お金をドロップしない。別にモンスターがお金を持っててもいいじゃんそこにリアリティ要る? とは思うのだが、まあそんな理由からゲーム内の財テクもしてこなかったのでゲーム内通貨はあまり持っていない。
昔々、古の時代にバブルがおき、オークションでその辺で買える物が原価より高く売れるというどうかしている経済状態だった頃にひたすら財テクをしていた人たちはかなりの金額を正規の手段で持っている。
まあ元をたどればRMTで稼いだ金をロンダリングするためのバブルだったのであまり気が進まなかったのだ。
アル:お兄ちゃん……調理師ギルドのアチーブメントやっと取れました……
一日作業をしていたアルがようやく終わったらしい、これでもかなり初期より難易度が下がっているというのが恐ろしい廃人仕様だ。
ちなみに初期のアチーブメントはレベル10で、ようやく調理器具を売って貰えるようになるレベルだ。
アル:お兄ちゃんの方はどうですか?
カーボン:こっちはようやく鉱山で満足いくまで掘れたって感じだな……
アル:じゃあ納品個数は?
カーボン:ゼロです……
画面越しからでもため息をついているのが感じられるほどの沈黙がチャット欄をストップさせた。
カーボン:ま、まあそれなりに鉱石は取れたから! 後はギルドの設備使って精錬するだけだから!?
アル:お兄ちゃん、別に怒ってませんよ? 私はクラフトクエストの面倒くささはよく分かってますからね……
カーボン:本当か?
アル:本当ですよ? ほんのちょっとだけしかイラッとしてないですからね……しょうがないしょうがない……(^^#)
カーボン:めっちゃ怒ってるじゃないか……? 明日はちゃんとノルマをこなすから! 今日はもう勘弁してくれ! な!?
アル:怒ってないですって……私はお兄ちゃんとギルド活動するのをそれなりに気に入ってるんですから
そうして俺たちのクラフトクエストの進捗は少しだけ進んだのだった。
なお、アルにご機嫌取りのために宅配ピザを頼んでおいた。一応機嫌が良くなったので胃袋を掴むことの重要さがよく分かったのだった。
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