兄は課金をしてみたい

カーボン:何か課金アイテムでおすすめってあるか?


 俺がそうtellでアルに問いかける。


アル:お兄ちゃん収入があったんですか?


カーボン:まあちょっとな……怪しげな通販してたら二重引き落としやってたらしく返金が来たんだよ


アル:正直、海外から怪しげなガジェットを買うのやめた方がいいと思うんですけどねえ……技適って知ってます?


カーボン:有線の物しか買ってないし……それより数百円で出来る贅沢について考えようぜ


アル:数百円も返金があったんですか……カード会社のチェックがガバガバすぎませんか?


 確かにそれは思わないでもない、限度額一桁万円のカードに数百円も返金が来るとかヤバいもんな……


アル:じゃあプレミアムユーザーに登録したらどうですか? あれは確か月五百円くらいじゃなかったですか?


カーボン:プレミアムかあ……確かに登録したら美味しそうなサービスなんだけどなあ……


アル:何か問題があるんですか?


 経験値ブースト(俺には意味がないが)やレアドロップの確率増加、基礎ステータスに多少の強化等々プレミアム会員のメリットは多い、しかし一番の問題が残っている。


カーボン:アレやった人のブログとか見てたらさあ、一回プレミアム登録すると解約した時に破綻するからずっとプレミアムをやってるって書き込み結構見るんだよなあ……


 人は一度あげた生活レベルを落とせない、実生活でもそうだが、ネトゲ上だとリアルな数字で出てしまうのでますます下げるわけにはいかないらしい。


アル:そんないけない薬じゃあるまいし……一月課金するくらいいいと思うんですけどねえ


カーボン:生活レベルを落とすのが無理だって話だよ……一度アレに課金したらやめられる気がしない


アル:じゃあお兄ちゃん! 私に課金アイテムをくれるというのはどうですか? ちょうどタンク用のミスリル装備が欲しかったんですけど?


カーボン:それは自分で買おうな?


 こいつに相談してもしょうがなかったかな。まあいいや。


 俺はPCにAFKと入力し、スマホを取りだし面白いものが無いかどうか検索してみる。


 さすがにそうそう面白い商品もないので検索ワードに『課金 お勧め プリミティブオンライン』と入力して検索をしてみる。


 案の定というべきか、アフィリエイトといかがでしたか? の地獄のような記事が押し寄せてきた、もはや検索エンジンに頼るのは無理ではないだろうか?


 そんな感じであらかた探し終わるとふと、ある物が思い浮かんだ。


カーボン:なあ、お前ヘッドセット持ってたっけ?


アル:持ってないですけどそれが何か?


カーボン:分かった、ギルド内でボイスチャットが出来るようにヘッドセット買うな


アル:私にくれるって事ですか?


カーボン:まあ安いやつだけどな、ボイチャはSkypeでやるか?


アル:普通にdiscordにサーバを立てればいいのでは?


カーボン:最近の若者事情にはついていけないな……まったく……


アル:はいはい、年寄り臭いこと言わないでくださいよ、ヘッドセット楽しみにしてますね!


 その答えを聞いて俺はヘッドセットをカートにいれ、購入ボタンをポチった。


 ――翌日


 ピンポーン


 おっと、寝起きだというのにもう届いたか。通販業界の過酷さについてはなるべく考えないようにしよう……


 昨日の昼に注文して翌日朝届く、冷静に考えたら尋常ではない配送スピードだが、それに深く突っ込むのは業界の闇に触れてしまいそうなので配達員さんに感謝をしながら妹の部屋へ持っていく。


 ノックをしたところ、戦闘中なのでそこに置いておいてと言われたので、部屋の前に箱を置いて自室に戻ってゲームにログインした。


 そしてウインドウを開いたままdiscordにログインしてサーバを立てる、妹へ招待リンクを送るとすぐに反応があった。


「お兄ちゃん、やっぱりボイスチャットの方が快適ですね!」


「そうだな、ところでそのヘッドセット安いやつの割に音質いいな?」


「妹に安物を買ったんですか……?」


「だって臨時収入って言ったって数百円だからな、一応数千円はするやつだぞ?」


 そう言うと妹は一応納得はしたらしくゲーム上で喜ぶアクションをした。


「お気に召したようで何よりだよ」


アル:まあでもこっちの方が慣れてると言えば慣れてるんですけどね?


 チャットで送信されてきた文面を見るにどうやら文字でのやりとりの方が慣れているらしい、家族としてどうなんだとも思わなくもないがゲーム上では兄妹ではなくギルドメンバー、そこの切り替えがきちんと出来ていると考えようか。


カーボン:じゃあボイチャは戦闘時の指示出しくらいに使うか?


アル:私USBフットペダルを持ってるのでそれでロールにある程度指示出しは出来ますよ? 何せキーボードとして認識してますからね


カーボン:お前もお前で大概怪しいガジェットを買ってんじゃないか……


 しかしアルは怒ったアクションをして俺に抗議する。


アル:私の買う物に法律的に危ない物は全く無いですからね?


カーボン:その理屈だとFPSのマウサーも一応違法なことはしていないって事になるんだが……


 マウサー……スマホ用FPSでマウスを使うチーターだ、圧倒的エイム力で他を圧倒するがマウスが直接スマホに刺さるわけではないのでコンバーターを使っている人が多い。


 その方がエイムで圧倒的に有利なら素直にPCでプレイしろよと思わないでもないが、本人的にはスマホ界でテッペンを取るのが目標なのだろう、理解はしないが自由にしていろと言うスタンスだ。ちなみにバレると垢バン等の厳しい措置が執られることが多い。


アル:別に挑発のマクロをペダル一個に割り当てるくらい問題無いでしょう? 大体キーボードとして認識しているんですからバレようがない!


 まあ、それはそうなのだが、なんだか釈然としない物があるのだった……


アル:まあそれでも……お兄ちゃんのプレゼントというのは悪い気はしないですよ?


 なんだかんだと言ってもひとまずお礼が言える妹で良かったなと俺は思う。お礼と謝罪と挨拶はコミュニケーションの基本だからな。


 モンスターのタゲをバックに回した時など戦闘後すぐに謝罪すればそれほどの騒ぎにはならない、死人が出ていなければの前提だが、まあ一人くらいの死人なら蘇生魔法を使えば問題無いし、タゲを回してしまったことを謝れば許してくれるのがネトゲのいいところだ。

 リアルの命がかかっているとそんな心の余裕など絶対にないのだからバーチャルというのは良い世界だと思う。


アル:ところでお兄ちゃん、ボイチャはなんか慣れないので当面はtellとパーティチャットかギルドチャットにしますね、お兄ちゃんほどじゃないですけど私も大概声の出し方忘れました。


 そんな社会不適合者の理論で俺たちのボイチャが機能することは、結局あまりないのだった。

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