大規模お使いクエスト
カーボン:さて、今日はレイドボスでも倒そうかな?
アル:現実を見てください、レイドボスと戦っている人は皆あなたよりゲームを進めてます
少しの間チャット欄が止まる。そう、進んでいないのだ!
カーボン:めんどくさいよー、やりたくないー
アル:二人ギルドなんですからおにいちゃ……あなたが頑張らないと私一人でやる羽目になるんですよ?
ギルドチャットは今日も賑やかだ。本日の議題、大陸間のお使いクエストをやるかどうか?
カーボン:だってさー、大陸の端から端までお使いだよ? 普通やりたくないだろ? 何考えてんだろうなギルド統括って言うか運営
アル:『簡単にクリアされたら悔しい』とかじゃないんですかね?
アルも酷い言いようだった。ただ実際問題このクエストはギルドクエストとして難易度が高いものではない、なぜなら普通のギルドには大勢構成員がいるからだ。
大手ギルドともなれば大陸間を牛耳っており、アイテム転送等も容易に行える。つまりこのクエストはゲーム世界の一大陸中にギルドの構成員がいる前提で作られている。
そして俺たちのギルド『眠れる獅子』の構成員は俺! アル! 以上!
悲しくなってくるほどの人手の足りなさで圧倒的にこう言ったクエストには向いていない。一応温情として『臨時メンバーの募集』という機能は存在しているが、その機能を使うと現在のギルドから一旦はずれる必要があるという運営のどこか抜けているところが隠し切れていないしようだった。
もちろん俺たちの弱小ギルドに一時加入などしてくれる人が居るはずもなく、俺たちは依頼通りギルドクエストとして大陸を横断する必要があった。
カーボン:いっそスクリプトでも……
アル:アカウント消されたいんですか?
カーボン:冗談だって、自動歩行のスクリプトで動かしてたらモンスターにやられて死体をクリックし続けてたなんて笑えない話もあるしな
アル:本当に笑えませんね……
本当に悲惨な話だった、目が覚めたら死体をクリックし続けていたと言う笑い話から尾ひれが付いてそれが原因で垢バンされたなどとも言われている、本当なら気の毒でさえある……
カーボン:さて、アイテムは受け取ったわけで、後は西の彼方に持っていくだけだな!
そこへすかさず直tellが飛んでくる。
アル:まさか私に任せてしまおうとか思ってませんよね?
カーボン:リアルを持ち出すのはズルいぞ!
アル:はいはい、それは逃げようとしない人だけが言える言い訳ですからね?
こうして俺たちは始まりの大陸『アルテア』を横断する旅に出るのだった。始まりの大陸と言うだけあって強敵が出るわけでもなく、壮大なストーリーもまだ始まらず、序盤を台表するお使いクエストとなっていた。
運営ももう少し考えてからクエストを実装してもらいたい物だが、このゲームはコミュニケーションがテーマになっているのか、コミュ障に居場所はないという雰囲気が出ている。実際問題妹が一緒にやっていなかったら最序盤で延々レベル上げをする謎のプレイヤーになっていたかもしれない。
カーボン:まじで端から端までなんだよなあ……
受注場所はイーストエンド、アイテムの運び先はウエストエンド、文字通り東西の横断になる。本来はアイテムをギルドのつてを使って渡していくクエストだった。悲しいかな当ギルドの構成員は二人で、両方ともここに居る。つまりは徒歩と言うことになる。
アル:もうちょっとテンション上げていきましょうよ? クエスト名だって新大陸への道ですよ? ロマンを感じませんか?
カーボン:その新大陸にはもう行けるんだよなあ……
アルテア以外の大陸への行き方は基本的にこのクエストのクリアで解放ということに『なっていた』
過去形なのは様々な解放条件が増えたので他の大陸へ行くだけなら非空挺にお金を払って乗るだけでいい、何故このクエストを残しておいたんだ……
カーボン:今更新大陸とか言われてもなあ……
俺はクエスト名の『新大陸への道』を眺めながらそう流す。
アル:身も蓋もないこといわないでくださいよ! 新大陸にはたくさんの楽しいクエストがありますって!
カーボン:無かったぞ?
アル:だから私たちはまだ新大陸に行っていない! いいですね?
カーボン:えぇ……
我が妹はどうやらこのクエストを楽しんでいるようだった、何が楽しいのかは不明だが一応ギルドマスターとして真面目にやらなきゃな……
カーボン:ところでアルテアに俺たちのレベルで苦戦する敵っていたっけ?
アル:いるかいないかが問題じゃないんですよ! 雰囲気ですよ雰囲気! ムード! 考えず感じてください!
レベルキャップにたどり着いている俺と高レベルのアルにこの大陸に敵になるほどの者は居ないはずだが……まあその辺は雰囲気らしい、よく分かんないけど。
アル:じゃあ千里の道を歩いて行きますか!
カーボン:おー!
そうして俺たちは徒歩で延々と歩き続けていく、時折回復魔法をかけながら敵をちぎっては投げを繰り返し、時には俺が初級攻撃魔法で屠りながら大陸を進んでいく……行く……
アル:お兄ちゃん、この大陸広すぎませんか? ゲームにこんな広さ求められてるんですかね?
カーボン:諦めような、これそういうゲームだから
アル:うー、疲れましたー
カーボン:リアルじゃ一歩も歩いてないだろうが……
リアルでは机から一歩も動いていないのに疲れるも何も無いだろうに。
そうしてリアル時間にして小一時間を費やして、ようやくウエストエンドにたどり着いた。
アル:マジで運営は何を考えてるんですか!? リアルに1時間かかるクエストとかニートと学生くらいしか無理でしょう!
カーボン:だから大陸間の移動手段が増えたんだろうなあ……
初期は船のみだったのだが、現在では飛空挺やポータルも解放されている、手段を選ばなければお金で新大陸へ行くこと自体は可能だ。そっちでのクエストの家宝条件がこのクエストには変わりないのではあるが……
そうして大陸の西端の小さな家にようやくたどり着いたので依頼のしなを渡す。
ミュウ:あぁ……あの人はもう居ないのね……
アル:何度言ったんでしょうねあの台詞? あの人は死んだり生き返ったり大変ですね?
カーボン:そういうメタ的なことを言ってやるな、この人も役割があるんだろう
ミュウ:あなたたちにお礼をしないとね……そうね、私にはもう必要なくなったこの乗船券くらいしかないのだけれど……
受けとるを選択してさっさと立ち去るアルを俺はかつてどのクエストもきらめいて楽しく見えていた俺が、いつの間にか世間にスレていつものこととして扱いだした頃のことを重ねて少し寂しくなったのだった……
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