お使いクエストをしよう!

アル:さて、今日はダンジョン解放のためのクエストをしましょうか!


カーボン:お使いかあ……好きじゃないんだがなあ……


 このゲームプリミティブオンラインもMMORPGの多くと同じく、クエストをクリアすることでダンジョンやイベントが解放されていく。


 俺はレベルの方はカンストしているのでクエスト受注のレベル制限には引っかからない。ではなぜ俺がストーリークエストをクリアしていないかと言えば……


カーボン:あっちへ行けだの、アレをもってこいだの面倒くさいんだよなあ……


アル:気持ちは分かりますがそれはゲームの宿命です、諦めてください


 無慈悲な一言だった。それがゲームであると言えばそれまでなんだけど……


 俺はバザー機能で培った錬金や鍛冶スキルがあるのでアイテムに困ることはない、それではストーリーが進まず、イベントアイテムが必要になるのだが……まあこれが面倒くさいのだ。


 辺境まで受注に行ったかと思えばマップの端から端まで持って行けだのと面倒くさいことこの上ない、しかもそれがたくさんあるのだ、やる気にならないのも当然と言ってもいい。


カーボン:課金でストーリー進められないかなあ……


アル:お使いクエストやるか課金で進めるかは選べてもいいと思うけど……課金で進めて楽しい?


 ごもっともです……レベリングをやることはそれほど苦行ではなかったのだが、前回のダンジョンクリアで新しいクエストの発生フラグが立ってしまったのでそれを勧めるしかない状況だ。


カーボン:うぅ……めんどくさい……大体何で俺よりレベルの低いNPCのために頑張らないといけないんだよ


アル:しょうがないでしょ、プレイヤーがリーダーだったらリーダーが大量に出来ちゃうでしょ? 私たちも世界を救うための組織の一人って事なんだから諦めてね


 このゲームではストーリーとしては魔王の討伐をするための部隊の一員となって戦う話だけれど、武器を作ったり回復薬を調合したりするジョブも用意されている、そちらの方の熟練度も高いのだが、自由度が高いので魔王そっちのけで製作や錬金で遊ぶプレイスタイルも認められている。RMTリアルマネートレードが禁止されているくらいでどう生きるかはプレイヤー次第というシステムだ。


 俺は初期にヒーラーをやっていてMPポーションの必要性に迫られガンガン調合していったのでアルケミストとしてもそれなりの熟練度になっている。


 じゃあそっち方面で生きていけばという言葉もあるだろうが、残念ながら上位クエストでしか敵がドロップしない限定アイテム等が最近になって冶金や錬金に必要になってきた、素材の調達も自分でやっていたのでこれらが足かせになりストーリーを嫌々進めているという状況だ。


カーボン:アル、回復薬多めに渡しとくな


アル:そのスキルレベルで最上位回復薬を作れないんですか……ああ、アレは素材がかなり後の方のダンジョンでしたね?


カーボン:だから行くんだろうが……


 とまあそんなやりとりをしながら首都『プリミア』に向かう、ストーリークエストの多くはここのギルド統括団から発行される、そう、ギルドを組んでいないと受注すら出来ないのだ。幸い妹と二人のギルドを作ったので受注は問題無く行える。


モートン:君たちが『眠れる獅子』だな、早速だが依頼をしたい、このプリミア饅頭を町外れの教会に支給してきて欲しい


 話しかけるなり早々町の中で完結するクエストを出してくるNPCにお前が行けよとは思わないでもない。


 クソみたいな都市内お使いクエストさえギルドを組まないと受けられないクソ仕様を面倒に思いながらも、俺は受注を選択しクエストは開始された。


 なぜこのゲーム世界におよそ似つかわしくない饅頭をキーアイテムにしたのかは謎だが、一部ユーザではこれが面白いという人や、世界観ぶっ壊しアイテムと揶揄する人も居る。俺に関しては『まあ英語版なら別名になってるだろ』と容認する姿勢だ。


 大体ゲームのローカライズなど所々不完全な翻訳が出てしまうので日本産のプリミティブオンラインが海外でどう展開されているのかは知らないが、多分英語圏ではまた別の名前が付いているんだろうと思う。


カーボン:さて、町外れか……


アル:これギルド専用にする意味あるんですかね?


カーボン:大人の事情以外無いと思うぞ?


 まあそんなわけで町外れまで来たらフラグが立ったからか、教会前でシスターのNPCが立っていた。


リリー:よかった! これで子ども達に食べさせることができます!


 NPCがそう言うのに対し、孤児院を兼ねている教会の主食が饅頭でいいのだろうかなどと無意味なツッコミを入れたくなる。


 と、そこへまた別のNPCが絡みにやってきた。


ブレイン:おうおう! 教会のシスターさんじゃねえか! お前の所の孤児がまた家に物乞いに来やがったぞ! 貧乏なガキの相手をしている暇はねえんだよ!


 どうやら商人らしい、大抵こういう場合悪役が完全に一方的に悪いのだが、これは多少同情してしまう、そりゃ商売の途中で割り込まれたらムカつくだろう。


『クエスト:シスターを救え!』


 なるほど、町内で完結するクエストをギルド単位で受けるのはこのイベントで戦闘があるからか……


用心棒:邪魔をするな……失せろ!


 まだ何もしてないんですがねえ……用心棒なのに喧嘩っ早いのはどうかと思うのだが、そこでイベント戦闘に入った。入ったのだが……


 バシ、ザシュ


 威勢のいい音がする中俺は用心棒敵NPCに斬られながらギルドチャットを流す。


カーボン:このキャラ、レベル15だぞ……


アル:そりゃあそのくらいで受けるクエストですから


 ザクザクと斬られているSEはなるものの、俺のHPゲージは僅かばかりも減っていない。敵の攻撃間隔よりHPの自然回復の方が多くて戦闘態勢を取っていない状態だと攻撃が回復にまったく追いつかない。


カーボン:えいや


 ポコッ


 ワンドで一発殴ると用心棒はあっという間にHPが無くなり倒れ込んだ。


 商人が手下が倒されたのを見て「調子に乗るなよ」と捨て台詞を吐いて消えていく。NPCに実力の差を理解しろと言っても無理なのだろうが非常に情けないキャラだった。


リリー:ありがとうございます! あの商人もしばらくは来ないでしょう、これがお礼になります


 そう言って表示されたウインドウには非常に安い賃金と、カンストしていなくても大した量ではない経験値が表示された


カーボン:賃金が安いのはともかく、手間の割に経験値低いな


 ちなみに手間とは町の中心からここまで歩いてきたことであり、戦闘など手間の内にも入らなかった、まだその辺で倒れてる人にリザレクションをかけた方が高度だろう。


アル:そりゃあ初期クエストですもん、横着するからですよ?


 そう言って俺に回復ポーションを返すトレード画面を開いてきた。俺はギルドチャットに『安物だしあげる』と書いてその日はベッドに飛び込むのだった。 

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