誰でも出来る!? 辻ヒール入門!
俺は今日、妹が出かけるという極めてまともな人間的理由で社会活動をするということで俺はギルドには俺一人と言うことになった。
二人ギルドというのもなんとも極端な話だが片一方がいないとソロになってしまう悲しい宿命を背負う羽目になっている、孤独であることへの罰みたいなものだ。
しょうがない、スタート地点に行くか。
プリミティブオンラインに初めてログインした人がチュートリアルのあと配置される町、『スタルティア』に俺はポータルを使って飛んでいった。
え? 初めての町にカンストしたやつが行く必要があるかって? それはとてもシンプルな理由がある。俺の趣味だ。
俺はスタルティアから一番配置地点に近い平原に行った。さて、何をするかと言えば……
じー…………
周囲をひたすら見回す、さてさて困っている初心者さんはいないかなっと……
まわりを眺めているとキャラクター作成後すぐだと思われるレベリング入門のジャイアントアントと戦っていて、なおかつ苦戦しているキャラを見つけた。
おー逃げてるのか……
デスペナがないので苦戦していようが突っ込んでギリギリの戦闘をするのが慣れた人のやり方だが初めての人は負けそうになると敵から逃げることがよくある。
『ギガヒール』
ひゅんとさっきまでHPバーが赤く短くなっていたキャラが突然のヒールで満タンまで回復する。
名前欄は『エクス』職業は……武器を見た感じヒーラーだな。
ぺちぺち
突然の高レベルヒールに敵のヘイトはMAXまで増加し俺に攻撃のターゲットが移る。
カーボン:攻撃は俺が受けるんで敵への攻撃続けてください
エクスさんは攻撃の手をいったん止めてから、気がついたという風に攻撃を再開する。
オートアタックはデフォルトなので戦闘中はキーボードに触る余裕が出る、アタッカーならスキルの使用で時々キーボードが必要になるが、ヒーラーの場合自分へヒールしながら敵をワンドで殴るのがヒーラーソロの基本なのでエクスさんは俺にtellを送ってきた。
エクス:ありがとうございます! もうだめかと思いました!
カーボン:お礼はともかくパーティ戦じゃないなら突っ込んでいって死んでもペナルティないから逃げない方が得ですよ
エクス:そうなんですか
カーボン:死んでも個人ならデメリットと言えばホームポータルへ送られるくらいだからね、パーティ組んでるとヒーラーが死んだら全員死ぬから絶対に落ちちゃダメなんだけどね
エクス:そうなんですか、ヒールありがとうございます! タンクまでやって貰って助かりました!
カーボン:いいよー、こういうのもネトゲの楽しみだからね?
エクス:もう一つ聞きたいのですがこういうときにお礼ってした方がいいんでしょうか?
カーボン:tellなりsayなりでチャットでお礼言っておけばいいよ、この辺でヒール使ってターゲット取られて問題無いレベルの人しかこういうことはしないからね。そんな人は大抵この辺で戦ってる人の持っている物はもう持ってるから
エクス:そうなんですか……とにかくありがとうございます、初めての戦闘だったのでどうしていいのかよく分からなくって
カーボン:死んでもペナルティ無いって言ったけどそもそもここら辺で死体になって放っておけば物好きな人がリザレクションかけてくれるかもしれないから、ホームに戻されるってペナルティすら無いこともあるよ、初めてなら死んで覚えるのが早いね
エクス:なるほど、このゲームって死んでもデメリット無いんですね
カーボン:うん、ボス戦やレアモンスターがポップしたとかそういうパーティが必要な場面以外はどのジョブでも戦えばいいよ。でもね……
エクス:なんでしょう?
カーボン:見たとこヒーラーみたいだけど、ちゃんとVITにもステータス振っておいた方がいいよ? よく回復力にこだわってINTばっかりあげる人がいるけどね
エクス:ヒーラーなんだから回復力は大事なんじゃないんですか?
カーボン:大事じゃないとまでは言わないけどね、パーティで一番落ちちゃいけないのがヒーラーだから、防具とVITへのステータス振りも大事だよ、アタッカーは一人くらい落ちても極論タンクとヒーラーで削りきれるからね。逆にヒーラーが落ちたらタンクも死ぬしアタッカーも死ぬ、だから自分が最優先なんだよ
エクス:ヒーラーって案外責任があるんですね?
カーボン:そうだよ、タンクとならんで死んじゃいけない役割だからね、あんまり言わない方がいいけど最悪アタッカーは蘇生魔法で生き返らせれば問題無いんだよね、タンクが落ちると紙耐久のヒーラーが落ちて……みたいな負の連鎖があるから大事なんだよ
そう言って俺は手を振るアクションをマクロで実行しその場から去って行った。こういう辻ヒールという文化はいいものだと思う。人との繋がりが希薄だったりギスギスしている中、メリットのないことが出来る人は少ない。リアルだといくらかは自分のリソースが必要だからだ。
その点ネトゲで暇している時に多少のMPを使うだけで善行が出来るとはなんともお手軽な話だ。
そんなことを考えていると、今度は攻撃しなくてもこちらを狙ってくるタイプの敵と、それと戦っている内に敵にしたのだろう数匹のモンスターを
アレやるとその場はギリギリ逃げられるんだけど、町への移動時の数秒で総攻撃受けて入った瞬間死体になってるって事があるんだよなあ……
俺の苦い経験はさておき、あのキャラも助けを必要としているのだろう。俺はそちらへダッシュしながら魔法の到達範囲に入ったら即大規模回復魔法を使った。
『キュアオール』
この魔法は範囲回復効果があり普通は一人しかいないキャラに使うものじゃあない。ではなんでこれを使ったかと言えば……
俺に対してトレインしていたモンスターが全てターゲットを変えて襲いかかってくる。範囲回復はこのゲームにおいてヘイトをたくさん稼ぐには効率のいい魔法だ。
逆に言えば緊急時以外パーティ戦では使う機会のない魔法だが、こういうヘイトを効率的に稼ぎたい時には重宝する。ちなみにパーティ戦で使うと強い敵のヘイトが自分に集中して死んでしまう。
だがここは序盤も序盤、初めての戦いは大抵ここになる。だからこういうヘイトが連鎖していくモンスターとこちらが仕掛けなければ攻撃してこない敵との区別は付けられない人が多い。
ぱしぱし
微妙な擬音とともに四体のモンスターのヘイトが俺一人に一気に集まる。俺は手を振るアクションをこのモンスターをトレインしていた人に行い、雑魚達を魔法を使わずワンドで殴り倒していった。
今回は逃げるので精一杯だったのだろう、そのままその人は町へと逃げていった。
俺は雑魚達を片付けた後、自身に一応回復をかけておき、その日の次の困り人を探すのだった……
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