初めてでも出来る! パーティでのボス攻略!

 ペチ……ペチ


 さっきから虫レベルの攻撃が頻繁に俺にあたる、原因は俺が皆を『過剰に』治癒しているからだ。


 戦闘中の仲間に回復魔法を使うと敵視ヘイトが治療したモノにも飛んでくる。俺は圧倒的な治癒魔法で皆を癒やし、敵モンスターからのヘイトを一身に集めていた。


カーボン:この程度か、ザコだな


アル:そのレベルじゃあしょうがないですよ、ていうか私要りますかね……


 俺が敵のヘイトを稼ぎ、俺が自身にヒールをかけ、敵を光魔法で駆逐していく。全てステータスに任せた力技でそこに技量の入る余地はない。


オズ:カーボンさんすごいですね……

ユイ:一体どれだけレベリングに費やしたんでしょう……


 アタッカー二人は適当に敵を攻撃しながらチャットをしている、オートアタックでも俺の攻撃力があれば問題無く敵が倒れていく、二人に飛ぶヘイトはほとんど無い。


 敵のヘイトの九割を俺が稼いで、残りがタンクのアルに飛んでいく、俺からターゲットがはずれると攻撃魔法ではずれたやつを即撃破していく。


 そうやってザコを狩りつつイベントアイテムを集めているとボス部屋の前に来た、タンクとしてはほとんど行動していないアルだが、攻略済みダンジョンのナビゲーターとしては非常に優秀で、途中の道を分岐等あっても問題無く選択してくれた。


アル:さて……ボス部屋に来たわけですが……


ユイ:ボスの攻撃パターンはどうなってるんです?


オズ:防衛ギミックとかもありますよね?


アル:その辺は気にしなくて大丈夫です、ギミックは私が解除しますし、攻撃はカーボンが攻撃魔法使えるので問題無く倒せます。なので攻略法を見ていてください


 二人ともチャットを返してこなかった。やはり俺が一人で倒すというのはゲームとして面白くないだろうか?


 俺は空気を読んで指示を出す。


カーボン:えっと、二人とも攻撃役としてボスを殴っていてくれるか? 俺が回復はするよ! 大丈夫! デスペナは無いし死んでも蘇生魔法使えるからさ!


ユイ:このダンジョンで蘇生魔法持ちに出会うとは思いませんでした……


オズ:普通良くて上位回復魔法くらいですからね


 うん……気持ちは分かるよ? 普通ここに来るまでに蘇生魔法なんて覚えるレベルに届かないからね? でもちょっとでいいからぼっちにも優しくして欲しいかな……


 ボス部屋の扉前で戦略を話し合うことになった。


アル:じゃあカーボンが二人を回復させるので二人はひたすらボスに攻撃してください、カーボンが上位回復魔法を連発してヘイトを稼いで私が残りのヘイトを挑発で稼ぐので二人に漏れることは無いはずです


オズ:カーボンさんが攻撃してもいいのでは?


カーボン:後進の育成もあるしな……この程度のボスならノーダメージだよ、二人には立ち回りを覚えて欲しい


ユイ:カーボンさんはボスの攻撃パターン知ってるんですか?


カーボン:その辺はアルが……


オズ:まあ楽でいいんですけどね……


 気まずい空気が流れながらもいつまでもボス部屋の前でもたもたしてはいられない、時間制限もあるしな。


カーボン:じゃあ突っ込むぞ!


オズ:はい!

ユイ:了解

ある:いきますよー


『ボス部屋に入りました、入り口が閉鎖されます』


 俺たちの侵入に対してボス部屋はロックされる、パーティ全員が入ってからロックをかける親切なボスだなあ……いやゲームなんからそりゃそうか……


『人間が入って来ただと! 邪神様の生け贄にちょうど良い!』


 そういって俺たちに襲いかかってきた。


カーボン:じゃあオズとユイは一発当ててくれるか?


 ペチ、ぽか


 気の抜ける音とともにボスのライフゲージが……ほとんど減らなかった……適正レベルならそれなりに苦戦するだろうな。


 これで二人が戦闘状態に入った、ここで俺は二人にヒールを使う。


『ハイパーヒール』


『ハイパーヒール』


 二人に上位回復魔法を使う、実際のところダメージは受けていないのだがボスキャラはプログラムされたとおりにヘイトを向けている相手に回復魔法を使われたことでヒーラーの俺に大量のヘイトを向ける。


 俺は一歩も動かず、二人にヒールをかけ続けた。


 一呼吸おいてボス戦が本格的に始まった。そこそこ削れるアルの攻撃と、僅かに削れるアタッカーの二人の攻撃で順調にボスのライフゲージは減っていく。


『邪神様! 我に力を!』


アル:防衛ギミック入りましたね、私がバリア用の邪神増を壊してくるので三人ともそのまま戦っててください


 そうチャットを流してボス部屋の祭壇にある像を破壊しに向かった、俺は大量のヘイトを獲得しているので俺に付きっきりのボスが攻撃をしながら一向に削れないライフにむなしい攻撃をしていた。


カーボン:防衛ギミック中はライフ削れないらしいから二人ともオートアタック止めていいよ


 二人は攻撃をやめ立ちすくんで俺に攻撃が飛ぶ様を眺めている。俺のライフは減らないし、アタッカーに回復魔法を飛ばしているかぎり、俺にヘイトを固定することが出来る。そして俺は圧倒的なレベルでダメージはほんの僅かしか受けない、暇なので回復魔法を自分にかけるとそれでもちゃんとボスは俺へのヘイトをあげてくれる。


 ザコだなあ……と思いつつもそれなりに苦戦しそうな二人のいる前ではチャットに流さなかった。


アル:邪神像破壊しました! 攻撃が通りますよ!


 そのかけ声とともに攻撃が再開された。俺は誰もダメージを受けていないのにヘイトを稼ぐためだけにエリアヒールを使い範囲回復で大量のヘイトを稼ぐ。ボスは哀れにもヘイトを俺だけに向けて必死に攻撃してくるがVITが高い俺にはまったくと言っていいほど攻撃は通らない。


 そうこうしているうちにボスが『グオオ……』と断末魔をあげながら沈んでいった。


カーボン:おつかれ!


ユイ:お疲れ様です

オズ:お疲れ様でした


アル:余裕でしたね


 そこで解散しようかと思ったら思わぬ疑問が飛んできた。


ユイ:あのー……カーボンさんとアルさんはなんでギルドを組んだんですか?


アル:まあ……深い事情があるんですよ


カーボン:まあ……ゲーム上に持ち出すべきじゃ無い事情があるんだ


ユイ:アッハイ


 おそらくリアル知人であると推測したのだろう、そこで追求は止んだ。


アル:ボスドロップはお二人で分け合ってください


オズ:でもお二人がほとんど倒したようなものじゃないですか?


アル:まあこの辺のドロップが役に立つレベルじゃないですからね?


オズ:それもそうですね


 と言うわけでボスドロップは二人に分けて俺たちは俺が受けたこのクエストを出したNPCに報告に行った、そうしてようやく俺の物語は少しずつ進んでいったのだった。


 なお、クエストをクリアすると経験値が入るのだがカンストしている俺にはまったく意味がなかったことを付記しておく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る