お経を唱える者

このサービス付き高齢者向け住宅で働く桜坂は、

霊的なモノを感じる事が出来る体質だった。

利用者様が亡くなる前によくおりんの音が聴こえるそうです。

桜坂の凄いところは『おりんが聴こえる』と言うと、

翌日には誰かが亡くなる、その的中力にある。


そんなある日、お経を耳にする桜坂。

お経を唱えているのは3階の利用者様で「金山(かなやま)様」だった。

桜坂はお経が終わった金山に声をかけた

『金山さん、お経を誰にあげていたんです?』

『あぁ桜坂さん、あのね、夜な夜な私の部屋のドアの前に

死んだ人が立って覗いてるのよ、何人も、私怖くてさ・・・』

『え?そうなの?』

『うん、だからお経あげてるんだけど、だんだん増えて来てね』


この施設では結構利用者様が亡くなっている。

当然だが医療ミスとかそう言うものではないが。


それから毎日金山のお経が続いた三ヵ月後のある朝の事、

着替えをしていると桜坂はおりんの音を聴いた。


『ん?また誰か・・・亡くなるのかな?亡くなったかな?』

そんなことを思いながら桜坂が出社すると

金山の部屋の前に介護員が数名集まり、

なにやら騒ぎになっていた。

どうしたのか桜坂が職員に尋ねると、

『拝んだままの姿勢で死んでたんだってさ、金山さん。』

そう聞いて桜坂は金山の部屋を覗き込んだ。


そこには正座して両手を合わせて床に額を押し付けたままの姿の

金山の姿があった。


それから3日後の夜勤の日、見回りをしていると桜坂は

頭が割れそうな頭痛を感じた。

壁に寄りかかって目を閉じていると、おりんが鳴った。


リーン・・・・・


リーン・・・・・


そっと目を開けると、桜坂の前を今までこの施設で亡くなった

利用者様が数名、ぞろぞろと、でも音を1つもたてずに歩いていた。

ゾッとしつつも、あまりのリアルさに驚いた。


そしてその最後尾に、桜坂は金山の姿を見た。

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