福袋

大きなデパートでアルバイトをしていた時の事。

器用だったのもあり、色んな売り場を手伝わされていた。

何が器用かと言うと、出社して直ぐに司会よろしくと言われ、

打ち合わせもせずに直ぐに売り場に出て催事場を盛り上げるほどに。


そんなお正月営業の日もいつものように『司会よろしく』

と、福袋の販売コーナーの司会を依頼された。

早速行ってマイクを持ち『皆さまおはようございます!お正月ですね!』

と、ごくごく普通に、ごくごく当たり前のスタート切った。


一通り笑いも取って福袋の販売時間となり、見事に完売した。

司会も終わり、戻ろうとした時、福袋を抱えたお婆ちゃんが側に来て、

『お金はちゃんと払う、これを〇〇病院の2階〇〇室の島袋福子(仮名)

に届けて欲しい、看護師さんに言えば払ってくれるから』

と言うのです、お金も貰わず本当に払ってもらえるかも保証が無いので、

いかんともし難い状況だったのだけれど、聞けば本人だと言う。

病院を抜け出して買いに来たけどお金を忘れたそうだ。

なんだか可哀想に思った私は、店長に掛け合ってみた。


答えは、私が行くなら許すとの事だったので、

そのおばぁちゃんと手を握り合って喜んだのを覚えている。


お婆ちゃんはタクシーで行くとの事で、私はまるでサンタのように

袋を抱えて歩いてそう・・・300m~400m程先の病院へ向かった。

到着したけど当然タクシーの方が早いはずだから中に入って、

2階〇〇室の島袋福子さんに依頼された事を看護師さんに伝えた。


『島袋さんが?いつですか?』


『あ、ついさっきです、タクシーで帰るって言ってましたけど』


『そう言えば言ってたわ・・・福袋大好きだって・・・』


『そうみたいですね~』


『すみませんでしたね、お幾らでしたか』


『1万円の福袋です』


『はい、じゃぁこれで・・・』


1万円を受け取ると、私はその場で領収書を書いた。

その最中に看護師さんが言った。


『死んでからも買いに行くなんて、よほど欲しかったのね』


『え?』と私が聞き返す。

それもそのはず、普通の人間と接したとしか思っていないのだから。


『3日前に亡くなってます、その時も言ってましたよ、

福袋開けるの大好きでねって』


『そうなんですか?え?だって手も握りましたけど・・・』


『間違いないですよ、3日前です』


それを聞いた私はゾッとする感覚はなく、信じられない気持ちもあったが、

胸が詰まる思いの方が強かった。

説明しても信じるとは思えないけど、ご親族にこの件は伝えてみると

看護師さんが言っていた。




後日、私を訪ねてきた男性がいた。


『先日は母がお世話になりまして・・・

あ!あの・・・福袋の・・・・!!!!』


なんと息子さんが直接お礼を言いに来てくれたのです。


『いえいえ、もしかして信じていただけたのですか?』

と聞いてみたところ・・・


『はい、頑固で悪戯好きな母親でしたから、

福袋がどうしても欲しかったんでしょうね』と笑っていた。


なんだか素敵な気持ちになれたアヤカシ体験でした。

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